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第13話 わし、幸せを願う

「楽園?」


「うん。ここのことは大人たちは知らないんだ。

 最近、誘拐事件のせいで外で遊ばせてもらえないだろ?

 だから、みんなでこっそりここに集まって遊んでるんだ!」


「そうなんだ……。でも、危なくないの?」


「大丈夫って言ったろ!!

 ここのことは大人たちは誰も知らないんだ。」


ペトの笑顔は明るかったけれど、

その言葉のどこかに、微かな影があった。


すると、その時。


「ペト〜!!」


ひとりの小さな男の子が駆け寄ってきた。

シュエルやペトより少し幼い。顔も手も泥だらけだが、笑顔は眩しい。


「その子、誰?」


「この子はシュエル! 俺の友達さ!」


「そうなんだ! 僕、リノ! 

 ねえ、一緒に遊ぼう!!」


ぐいぐいと腕を引っ張るリノに、シュエルは少したじろぐ。


「こら、リノ! いきなり引っ張ったらシュエルがびっくりするだろ!」


「え〜〜でも遊びたい!」


「ふふ、いいよ! 一緒に遊ぼ!!」


シュエルは笑って頷いた。


それを聞いた子どもたちは「やったー!」と声を上げ、みんなで森の中へ駆け出していく。


木漏れ日がきらきらと降り注ぎ、笑い声が森に響く。


◇◇◇


ドオォォォンッ!!!


昼下がりの青空を突き破るように、眩しい炎の柱が何本も立ちのぼった。


「……相変わらず派手じゃのう。」


呆れ半分、感心半分の声が漏れる。


「害虫は、一匹でも逃すとまた増えるからな。」


アレクの隣に立つのは、赤髪をなびかせた女。

風に舞う髪は燃えるように輝き、まるで炎そのものを従える女神のよう。


そう、灼熱の魔女サエル・カリスト。


サエルは剣を肩に担ぎ、口元に薄い笑みを浮かべていた。


「それよりも…この私をわざわざ呼びつけるとは、いい度胸だな、ジジイ。」


にこり。

口元は笑っているのに、目だけは鋭く光る。まるで獲物を前にした獣のように。


「呼んどらんわい。組織を潰すには戦力が足らんから、お主の騎士団を貸してくれと頼んだだけじゃ。」


アレクはため息をつくように言った。


彼女は魔女だが剣士でもあり、そして騎士団を従える女将でもある。

その剣技はあまりに苛烈で、部下たちは毎朝「今日こそ死ぬかもしれない」と覚悟して訓練に臨むという。


「あ? なんだと? せっかくこの私が来てやったってのに、邪魔だって言いたいのか?」


こわいこわい。

……こういう時は、逃げるが勝ちじゃ。


アレクはコツンと地面に杖をつく。

その瞬間アレクの姿は綺麗さっぱり掻き消えた。


「おい!こら待て!ジジイ!!!」


サエルが怒鳴る声が昼の青空に響く。


「……たく。ほんとお節介なやつだよな。

 組織壊滅は私らの仕事じゃないってのに。」


サエルは深くため息をつき部下達に指示を出す。


◇◇◇


シュエルとペトは子供達と楽しく遊んだ。


笑い声が絶えず、時間の流れを忘れるほどに。

気づけば、太陽は傾き、オレンジ色の光がシュエルを包む。


「あ! そろそろ帰らなきゃ!」


「えぇ、シュエルお姉ちゃんもう帰っちゃうの?」


「そうだよ! もっと遊ぼうよ!」


「んー、ごめん! 

 昨日おじいちゃんに怒られちゃって。

 今日こそは早く帰るって約束したんだ。」


その瞬間、ペトの表情が変わった。


「ねえ、シュエル。俺たちとここで暮らさない?」


「へ? 急にどうしたの?」


「そうだよ。ずっと一緒にいよう? 

 ここなら楽しいよ。」


リノが腕に抱きつく。その笑顔は、どこか不気味だった。


他の子供たちも、声を揃える。


「一緒に暮らそ!」

「帰っちゃだめ!」

「ここにいよう!」


ぞわりと背筋が冷たくなる。


「な、なに…みんな、どうしちゃったの……?」


「シュエル、大人と過ごしてたって、幸せにはなれないんだ。

 だから、ここで一緒に暮らそう。」


ペトの言葉を合図にずるずると子供たちに引きずられ、大木の元へ連れて行かれるシュエル。


「や、やめて!」


「ピュイ!!」


その時、シュエルの影から何かが飛び出す。

街についてからずっとシュエルの影にこもっていたステラだ。


「ステラ!!」


ステラはシュエルを覆うように立ちふさがり、低く唸り声をあげる。


「グルルルゥ……」


口を大きく開き、喉の奥から熱い炎が噴き出す。


「だめ!! ステラ!!」


シュエルは慌ててその首に抱きついた。


「傷つけないで! 

この子たち、さっきまで一緒に遊んでた友達なの!」


ステラは一瞬だけ、困惑するような目をした。


だが、次の瞬間──。


ペトが笑った。


「やっぱりかっこいいね。そのドラゴン。

 その子も一緒に俺たちの友達になってよ。」


右手がゆらりと持ち上がる。

そこから立ち上る紫の霧が、まるで生き物のように蠢きながらシュエルたちへと迫ってきた。


「グルルゥ……!」


ステラが低く唸る。


どうしよう…どうしたらいいの……。


「助けておじいちゃん!!」


その時だった。


ゴウッ!!


風が爆ぜ、紫の霧が一瞬で霧散した。


シュエルの前に白髪の老人が立っていた。


「すまぬな。

 そろそろ門限を過ぎてしまうのでな。

 孫は連れて帰らせてもらうぞ。」


「おじいちゃん!!」


シュエルはその背中に飛びついた。


その背はいつもより大きく、そして頼もしかった。


◇◇◇


「やはり、誘拐犯はお主じゃったか。」


アレクの声は低く、しかし怒りよりも悲しみを帯びていた。


「誘拐犯?違うよ。」


ペトは震える声で返す。


「俺は……親から虐げられてる子供達を、救ったんだ。

 俺が助けなければ、この子達は死んでいたんだ。」


「そうか……そういうことか。」


アレクは優しい声でそう呟く。


その声は、少年を責めるものではなく、どこか苦しみ、憐れむようだった。


──ペトは両親に恵まれなかった。


酒に溺れた父と母。

殴られ、罵られ、心が壊れかけていた少年はある日、家を飛び出した。


幸か不幸か覚醒してしまった幻覚魔法。

ペトはその力を使って、同じように苦しむ子供たちを救おうとした。


そうして、生み出されたのがこの楽園──。


「大人たちはいつも俺たちを不幸にする!」


ペトは叫ぶ。


「俺たちはここで幸せに過ごしてたんだ! 

 邪魔しないでよ!!」


地面が唸り、空気が震えた。


「やめるんじゃ!! それ以上は──!」


アレクの声が響いた。


だが、遅かった。


ピキッ。


ガラスが砕けるような音がしたかと思うと、ペトの体にひびが走る。


◇◇◇


ピキッ。


ガラスが砕けるような音がしたかと思うと、ペトの体にひびが走る。


「え…なんで……?」


ペトは困惑に顔を歪める。


──魔力暴走。


少年の体で訓練もなしに魔法を使えば魔力に飲み込まれ、暴走を起こす。

それでも初期段階であれば救えただろう。


「なんで、ペトの……体が!!」


『ルクス・サクラ、サナ・ウルネラ・エト・レッデ・ウィータム!』


シュエルは必死に回復魔法を唱える。


だが、結果は──。


パリィィン!


回復魔法ではペトの崩壊を止めることはできなかった。


「なんで、なんで!おじいちゃん、ペトを助けて!」


涙を流し懇願するシュエル。


じゃが無理なのじゃ。

ああなってしまっては……。


少年の体でこれほどの魔法を使えば魔力に飲み込まれ、暴走を起こす魔力暴走を引き起こす。

それでも初期であれば救えただろう。


だが、ペトの場合は例外だ。


街を包む幻覚魔法。

これはおそらくペトが暴走を起こした時に作り出したものだろう。


だが本来そんなことはあり得ないのだ。

本来、魔力が暴走するとその者の魔力の限り破壊を撒き散らし、やがて死に至る。


おそらく、彼が得意とするのが攻撃的な属性ではない幻覚ということも関係するのだろうが、それ以上にペトには類い稀ない才があったのだ。

そのため、身の丈に合わない強大な魔法を発動させてしまった。


そして、その代償がこれ。

体の崩壊が始まっておる。


こうなってしまっては手の施しようがない。


アレクは膝をつき、崩れゆく少年をそっと抱きしめた。

ペトの体はもう、温もりを失い始めている。


「辛かったのう…よう一人で頑張った。

 お主は立派じゃった。」


「…え。なんで急に……?」


ペトの瞳が、揺れた。


その中に、初めて子供の色が戻っていた。

ぽろ、ぽろ、と涙が頬を伝う。


「……ありがとう。」


それが、少年の最期の言葉だった。

光の粒となって消えていくペト。


「……すまぬ。」


老人の声は震えていた。


幼い子供の命を、救うことができなかった。


静寂の中、シュエルの嗚咽だけが響いていた。


◇◇◇


夕暮れの森の縁に、静かに佇む石造りの小さなお墓。

十字架に刻まれた文字はこう書かれていた。


──ペトルス・パン


アレクが杖をつき、静かに手を合わせる。


「両親から虐げられていた少年。

お主は、ただ…愛されたかっただけじゃったのに。」


シュエルも肩まで届く石の前に立ち、小さな手でそっと花を置き、手を合わせる。


「なんで…ペトが死ななきゃいけないの…。

 悪いことなんてしてないのに……。

 あそこにいたみんなは幸せそうに笑ってたよ。」


涙をぬぐい、声を震わせるシュエル。

アレクは優しく背中に手を置き、肩を抱いた。


「そうじゃ…。悪いのは“環境”じゃ。

 優しい大人が、味方が、たった一人でもおったなら……。

 ペトはこんな結末にはならなかったじゃろう。」


「……そうだ。

 …ペトの作った楽園、あそこにいた子達はどうなるの?」


「大丈夫じゃ。

 ペトが守ろうとした子供達は、今やサエルの力で立てられた孤児院で幸せに暮らしておる。

 親元の愛に恵まれなかった子供達じゃが、孤児院のシスターにたくさん愛情をもらって、元気に過ごしておるそうじゃ。」


シュエルは小さく息をつき、墓の前で手を握りしめた。


「ペト…みんなを守ったんだね……。」


夕日が石の墓を照らし、花を柔らかく染める。

風がそっと通り抜け、花の香りがかすかに漂う。

まるで、少年の魂が穏やかに眠っているかのようだった。


「私、ペトのこと忘れないよ。ペトみたいに、みんなを守れる人になりたい。」


そう呟き、墓の前でしっかりと誓った。

風に揺れる花が、光の粒となって墓に降り注ぐ。

第13話ありがとうございました!


今回は重めの回にだったので次は明るい日常回にしました!


次回の——ついに九つの杖登場!!


第14話「わし、孫を自慢したい!」

次回もぜひお楽しみに!


もし少しでも気に入っていただけたら、

コメントやレビューで応援してもらえると嬉しいです!

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