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君と読む終末の恋  作者: Yue
物語を読む、第一の夜
5/7

1-3

風が、頬を撫でた。


その感覚はやけに現実的で、けれど、どこか異質だった。


私はゆっくりとまぶたを開く。

光に目を細めると、見知らぬ空が広がっていた。

澄んだ青。雲は高く、空気は薄く冷たい。


草の匂い。やわらかい地面の感触。

確かに五感は動いているのに、身体がまるで“借り物”のようだった。


服の感触も違う。

喉の奥に、ひとつまみの違和感が残っている。


「ここ……どこ……?」


誰かに聞こえるわけでもない小さな声が、風に溶けていく。


私は周囲を見渡した。

そこは、どこまでも広がる草原だった。

木々が遠くに見えるだけで、人の気配は一切ない。


怖くはなかった。

けれど、不安はあった。

というより、言葉にできない“違和感”が、胸の奥をずっと叩いている。


空が高すぎる。

音が静かすぎる。

まるで、音楽のない舞台に置かれたような孤独。


「……私、本の中にいるの?」


ふと、そんな言葉が口をついて出た。

それは冗談ではなかった。


私が手にしていた本。

名前のなかったあの本は、今どこにあるのだろう。

気がつけば、それさえも持っていない。


私は、ただ一人だった。

本の続きが読みたいのか、それとも戻りたいのか。

答えはわからない。


ただ、風が吹いていた。

その風が、どこかへ導くように、私の髪を揺らしていた。


――そのとき、ふいに聞こえた。


小さな足音。草を踏む音。


でも振り返ったとき、そこには誰もいなかった。

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