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君と読む終末の恋  作者: Yue
物語を読む、第一の夜
4/7

1-2

あの本を読み始めたときから、胸の奥がざわついていた。

まるで、言葉にならない誰かの声が、心のどこかをノックし続けているような。


ページをめくるたびに、息をするのを忘れていた。

このまま読み続けてはいけない気がして、でも止めることもできなかった。


気づけば、私は夢の中にいた。

……いや、“夢”と呼んでしまっていいのかも、わからなかった。


真っ白な空間。

壁も天井も床も、すべてが柔らかく光っていて、輪郭がぼやけていた。

まるで、現実と現実の狭間にいるような場所。


私はその中央に、ぽつんと立っていた。


何も持っていないはずなのに、手の中にはさっきの本があった。

名前のない、あの一冊。

表紙を開いたときと同じページで止まっている。


誰がめくるでもないのに、ページが――ふわりと、勝手にめくれた。


「……え?」


言葉が漏れた。


見開きのページに、たしかに“名前”があった。

けれど、それは私の名前じゃなかった。

私が今まで出会った誰の名前でもなかった。


――なのに、心が動いた。


その名前を読んだ瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。

悲しみでも、喜びでもない。

もっと深くて、言葉にならない感情。


「……知ってる……この名前……」


呟いたとたん、周囲の光が揺れた。

本が震える。空間がきしむ。

白い世界が、ページの中に吸い込まれるように崩れはじめた。


足元が傾く。

風のようなものが渦を巻いて、私の体をさらっていく。


光の粒が舞っていた。

どれも文字のかけらみたいで、断片的な言葉が目の前を流れていく。


「選ばれし継承者」

「終末の書」

「読まれた記録は、未来を失う」

「愛した者から消えていく」


見たくないのに、目が離せなかった。

すべてが私の知っている言語で書かれていて、

なのにまったく知らない意味を宿している気がした。


本が光を放つ。

次の瞬間、私は足元から崩れるように落ちていった。


声も出ないまま、ただ静かに沈んでいく。

意識が遠のく寸前、確かに誰かが呼んだ気がした。


「……ミレイア」


懐かしくて、優しくて、でも――誰の声だったか、思い出せなかった。


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