第二話 眼の先の君へよろしく
「どうした? あの昼間の威勢はどうした? あはは!」
どうする。どうすれば。どうしたら、この窮地から脱せる。鼓動が早くなり、体に危険信号を鳴らすかのような脈打ちだ。加えて息も乱れて、俺は思わず過去視を使った。
「じゃあお前には消えてもらおう――」
「ドール」
「――――なッ」
俺がドールと呟くと、リュナは驚愕して瞳孔を震わせた。
焦っている風でもあり、恐怖している風でもあり、怒っている風でもあった。
着実に一歩、また一歩とリュナの方へ歩む。
「お前、その言葉どこで。これも能力の一部か。動くな!」
「君に俺は殺せない。それだけは確認できた」
人の死に感化され、泣き叫ぶ少女がどうして人を殺せようか。
これは見た景色から彼女の根底の性質というものをただ憶測してみただけだ。ただの憶測、けれど俺には確かな確信へと変わった。
久遠リュナは神城ユウを殺せない。
彼女の手は震えていて、先の戯れが嘘のように焦っている。
「とりあえずもうやめよう。人殺しなんて、望んでないんだろ?」
◇
「お前を刻眼管理機構〈クロノ・コード〉に連れて行かなきゃならんのだ!」
「ほーん。で、なんて?」
「だーかーらー、刻印者は刻眼〈クロノ・アイ〉という特殊な眼を持っていて、大抵は狂人。その中でも常識人で構成されているのが刻眼管理機構!」
昼間をも増す勢いで、俺にがなり声をあげるリュナ。右耳から受け取り、左耳で聞き流している俺の態度に苛立っているのだろう。
さっきまでは泣きそうな面をしていたくせに、コロコロと感情が変わる面倒なやつ。
「行きたいくない。だから行かない」
「拒否権はない! 私は認めてないが、お前が常識人である、刻眼持ちならば連れて帰らねばならないのだ!」
「なんで?」
「わっがままなやつだ。刻印者は刻印者に狙われやすい傾向にある。だから保護する。そして戦力とする。お前、死にたくはないだろう?」
「まあ」
「今、この学校に潜む刻印者の狙いは恐らくお前だ。しかーし私が一度未然に防いだ。しかーし、二度も防げるとは限らない。お前は保護されろ! アホタレ!」
テンションの起伏が激しい少女だ。ともあれ、彼女が言っていることが事実ならば俺もあの被害者のようになってしまうかもしれない。
本当に彼女の言う通り保護されるべきなのだろうか。俺が彼女のことをスルーしたら、彼女は俺を殺すことはできないし、どうすることもできずこれまで通りだろう。
「今、これまで通りとか思ったか?」
「仮に犯人の話が嘘だったら、だが。本当ならどうにか対策を打たないと」
「いや、犯人の前に刻眼管理機構から消されるかもしれないぞ? 私はお前を殺さないが、他の連中が殺さない理由はない。刻眼持ちは異端だ。いつ能力という呪いに侵され狂気化してもおかしい話じゃない。だから選べ、生か死か、どちらか一択を」
リュナの言い分から刻眼持ちは危ない存在らしい。狂気化というのはイマイチピンとこないが、このままだと誰かに殺されるのは明確らしい。
生か死か。という選択の答えは、既に決め付けられている感じがする。
「わかった。そのなんとかに行けばいいんだな?」
「そうだ。お前、名前と刻眼の能力は?」
「神城ユウ。刻眼の能力は過去視。過去が見れる」
「そうか、ユウ。今後、よろしく頼むぞ」