名も無い人形屋
私は人形屋。
ここがどこかなどと、野暮な事は聞いてくれるな。
私の仕事は人形を作ること…ん?そんな事、言われなくてもわかる?
人の話は最後まで聞きたまえ。
………チリンチリン
おや、誰か来t…もとい客のようだ。
危ねぇ危ねぇ、死亡フラグ一歩手前。
いらっしゃいませ、本日はどのような品をお求めでしょうか?
はぁ、なるほど、彼女へのプレゼントでございますか。それでしたら、こちらの熊の人形などいかがでしょう………
ありがとうございました~。
…と、まぁこんな感じで日常の業務をこなすわけだ。
ただもう一つ、ちょっと変わったやり方があるわけで…
………チリンチリン
おや、また客だ。
いらっしゃいませ、本日はどのような品をお求めでしょうか?
はぁ、好きな人にそっくりな人形を作ってくれ、ですか…。
…きめぇ。つーか陰気だ。
そもそも私の知らない奴にそっくりな人形なんて、無茶だ。
しかしこれでもお客様、こんなときのための、特別な人形の作り方を用意してある。
「それではお客様、こちらにお掛け下さい。」
そう言ってその客を机のある椅子に座らせる。
そして机の上に人形の素体とパーツ、それから必要な道具を並べた。
客は困惑したような顔をこちらに向けた。
そして私は笑顔で
「いくら私でも知らない人そっくりな人形を作ることはできません。仮にできたとしても、それは心のこもっていない偽りの人形となってしまいます。ですから、その人のことを少しでも知っているあなただけが、本当に心のこもった人形を作れるのです。」
と言った。
客はしばらく困ったような顔をしていたが、その気になったのか、ポケットから大事そうな写真を取りだした。
写真には客と、その友人と思われる人達が笑顔で写っていた。
そこで私は客を手で制し、言った。
「お客様、その人形は、あなたの心の中にある思い出を繋ぎ合わせて作るのです。ですから、写真を見ながら作ろうとすると、作りづらくなってしまいます。」
客は言われた通りに写真をしまい、机に向かった。
それからどれくらい時間がたっただろうか。
外はすっかりオレンジ色に染まっている。
客が椅子から立ち上がって伸びをしている。どうやら、できあがったようだ。
私は机を覗き込み、ほう、と声をあげた。
机の上にはとても立派でかわいらしい人形ができていた。
師匠に見せてもかなりの評価が得られるであろう。
あの人のことだ、この人形を見たら、あの客を即座に弟子入りさせるだろうな…
そんなことを考えていたら、客が話しかけてきた。
「あ、あの、」
「ん?なんだ?」
私はさっきまでの敬語はどこへやら、いつの間にかタメ口になっていた。
すると客はもじもじしながら
「こ、この人形の本人に、会いたいんですけど…」
私は「それで?」と聞き返す。
「私にそれを言ってどうする。会いたい人だったら、迷わず会いに行けばいい。」
客はパッと顔を明るくして店を出ていった。
ありがとうございました〜。
…しかし参ったな。あの客、作った人形を置いていきやがった。
どうしようかと少し考えて、取り置き棚に人形をしまった。