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寝言待ち

作者: 石神観遥

「俺にかかれば……最短一日半もあれば、ターゲットのメンタルをシュレッダーにでもかけたみたいにズタズタにできる」

 ため息が出る。

「どうやるんだ」

「詳しくは企業秘密だけど、信用問題だからなあ……」

 夢の中での会話をリアルタイムで口から漏らしている人に、話しかけてはいけないという。精神錯乱を誘発させてしまうからだ。そんな都市伝説は根も葉も実もあるから真実だそうだ。

「なるほど。寝言か」

「ターゲットが寝言を発している機会さえ作ってくれれば余裕だよ。というか、そこが最高に難しいところなんだ」

「だったら、静かに眠っているか、イビキしかかかない人にはどうする」

「だから、そこがプロの技術が必要になってくるところだ」

 自然な生理現象は読めない。探偵や刑事の張り込みのように、辛抱強く、相手は眠らせ、自分は夜通し起き続けて、何晩でもその瞬間を待つ。相手には絶対に怪しまれないよう、注意が求められる。警戒心を解かして、リラックスと安眠こそ心の隙を突くための条件になる。

「添い寝できる関係性を構築できさえすれば、こっちのものだ」

 待つ間、カフェインとか興奮剤の類はご法度だという。ゴリラの生態調査のために彼らの群れに入る時、護身用だからと銃を忍ばせたりすれば、溶け込むことはできないのと同じ。緊張感はあってもいいが、緊張状態で気を尖らせたりすると、ターゲットの無意識がガードを固めてしまう。

「う〜ん、とか、もごもご、とか、ちょっとでもうなされているような気配がしたら、そっと囁きかけてみる。反応があったら、自尊心が壊れるように誘導するんだ。生きている意味がない、居場所はもうない、とか。目が覚めるとなんでかわからない、頭の中からガーン、ゴーンって嫌な気分にさせる音が聞こえてきて、人の目全部から敵意と侮蔑を感じるようになって気づくと自信喪失、鬱症状を発症するとか。業界的には、同業のライバルに仕掛ける依頼が多いな」

「油断も隙もあったもんじゃないな」

「成功しているやつに多いからな。俺を敵に回さないほうがいい」

「じゃあ、これからは逆のことをしてもらおうか」

「え、逆……」

「わからないようにセットさせてもらった。操作された記憶自体残らない」

「……ん、それって」

「寝顔を覗かれたことのない人間はいない。そうだろう」

 寝言は静まってゆく。

「やれやれ、まだ道のりは長そうだな」

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