第2話:安らぎの無い生活
大通りから住宅街に入ると、高祖父の代から住んでいる木造住宅が見えてきた。
高1の姉と中1の妹、そして無職の父と元モデルの母が同居している、広いが古い屋敷。
あまり帰りたい場所ではないが、バイトをするにも労働基準監督署の許可が必要になる中学2年生の身に選択肢は無い。
良太の両親は陸でなしだ。父は祖父母の遺産を食い潰すだけの遊び人で、母はその金に集る女達の競争を顔と体で勝ち抜いた、文字通りの売女だ。
そんな両親の生き方に、つい疑問を投げ掛けてしまった良太は、二人に毛嫌いされるようになった。
親に似て贅沢好きの姉と妹は、良太に見せつけるように甘やかされている。
彼女たちは評判のいい私立校に通っているが、良太は学費の安さだけが取柄の底辺中学に入れられそうになった。
獣医の資格を取って自然保護官になるという夢を持っていた良太は、塾に行かせてもらうどころか参考書一つ買ってもらえない状況で必死に勉強し、名門と呼ばれた私立藤玉輪学院中等部の特待生枠を勝ち取ったのだ。
……名門とは名ばかりの、上級国民の子女が幅を利かせる、これまた陸でもない学校だったが。
佐藤院絢梧のことを相談した時も、両親は、お前が選んだ学校なんだから自分で責任取れ、と薄ら笑いを浮かべて言い捨てただけだった。
姉と妹は、お勉強ができるだけで口の聞き方も知らないようなコミュ力の無い人間なんてやっぱりダメだね、と、ここぞとばかりに見下してきた。
祖父と祖母を喪ってからは、小遣いを貰うどころか日用品を買ってもらった憶えもない。良太だけを置いて外食や旅行に行くことなど初中だ。
児童相談所に駆け込むことも考えたが、学校からは何か問題を起こしたら分かっているな、と釘を刺されている。
……中学を卒業したら、バイトしよう。スマホやレコーダーを買って、暴力に抗う力を手に入れよう。
良太は未来への希望だけを胸に、祖父母の思い出が残る我が家へと向かった。