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第22話:狼の居ぬ間に

 突然の閃光と轟音に呆然としていた2年A組担任の間任(まとう)教諭は、良太に叩き起こされると早退する旨を告げられた。


 それから、通りがかった用務員が廊下の惨状を見て悲鳴を上げるまで、担任はどうしていいものかさっぱり分からず、考えようという気にもなれず、ずっと呆然とすることを続けていた。




 頭を踏み潰された少女の死体。

 (まご)うことなき、殺人事件の発生。




 教頭のアルカイックスマイルと、校長の髪は消え失せた。




******




 2年A組の生徒たちは、一度保健室に回収された。

 総合病院みたいな設備で検査を受けた後は、ジャージに着替えて大部屋に集められ、そこで緊急職員会議が終わるまでの待機を指示されている。


 鈴木小路(すずきこうじ)水津流(みつる)は、重症の警備員たちと共に手術室へ運ばれた。

 田中寺(でんちゅうじ)御高橋(みたかばし)神渡辺(みとのべ)、そして宍野(ししの)依緒(いお)も不在。今や佐藤院(さどういん)絢梧(けんご)の取り巻きは、その数を半分以下に減らしている。


「……俺たち、どうなっちまうんだろうな……」


 生徒の一人が、ぼそっと呟いた。


「どうもこうもあるかッ!!」


 ガン! と腰かけていたベッドのサイドレールを叩いて、佐藤院が喚いた。


「出来損ないの分家風情(ふぜい)が勘違いして調子に乗りやがって! 佐藤院家を怒らせたらどうなるか、あの薄汚いクソ乞食に思い知らせてやる!」


 教室の支配者の怒声を、一同は頭を低くしてやり過ごした。もうちょっと気の利いた台詞は無いのか、とは誰も口に出さなかった。

 このまま佐藤院絢梧に付いて、日辻川良太に謝罪せずにいれば…… 鈴木小路のように腕を千切られるか、宍野のように目を潰されるか、どちらにしろ(ろく)な目には合うまい。

 だからと言って日辻川良太に詫びを入れ、佐藤院家と敵対して良いものかと言われると……


 迂闊な発言はできない。さりとて、迂闊な沈黙もできない。大部屋にストレスフルな空気が満ちていく中、


「えっ」


 不意に、スマホをいじっていた生徒が()頓狂(とんきょう)な声を上げた。


「ど、どうしたの?」

「……す、鈴木小路サンの家、火事だって……」

「はぁぁ!?」


 慌てて自分のスマホを取り出し、各々(おのおの)インターネットに検索を走らせる生徒達。

 豪邸が灰燼と化していく衝撃的な映像と並んで、鈴木小路家当主夫妻を含む多数の死傷者が出たとの速報が流れている。


「あ…… あいつが…… やったん…… だよな……?」

「い、いや…… でも……」


 早退したという日辻川良太。彼がどこに行って何をしたのか、想像するのは余りにも容易だった。


「もうイヤァアアア!!」


 ついに生徒の一人が、狂ったように絶叫し始めた。


「悪かった! 悪かったよ! 謝る! 謝るから! あたしの家は燃やさないでっ! パパとママを殺さないでェェッ!!」


 そんなこと言ったって、当の本人はここにはいない。

 いや、それでも聞いているんじゃないかと思わせるだけの得体の知れなさが、今日の良太にはあるわけだが。


「ははっ…… も、もう退学どころじゃねぇぞ。放火に殺人って。あいつ、少年院…… いや、少年刑務所確定だろ……」


 震える声で、誰かが希望的観測を口にする。

 佐藤院家にも鈴木小路家にも手を出せなかった警察が、アレを捕まえられるのか? とは、誰も口に出さなかった。


「で、でも、確か14歳未満は何やっても無罪になるんじゃなかったっけ?」

「マジで? あいつ誕生日いつだ?」

「知るわけねーだろそんなん!」

「前科が付かないってだけでしょ? 少年院行きにはなるんじゃない?」

「ちょっと待て。ググってみる」


 何でもいい、何かアイツをどうにかする方法はないのか。少年少女達は地獄に蜘蛛の糸を求めて、必死にスマホを睨むのだった。

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