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第15話:佐藤院と鈴木小路

 良太が教室に入るとクラスメイト達が(ざわ)めいた。

 いつもなら嘲笑や舌打ち、罵声やゴミなどが投げ掛けられるのだが、今日は違うらしい。通学路での出来事がもう共有されているのだろうか。重ね重ねスマホって凄いと思う。


「おい、乞食…… なんだそのイカれた眉毛は? そのせいで朝からイキってんのか?」


 佐藤院絢梧の取り巻きの一人が声を掛けてきた。

 鈴木小路(すずきこうじ)水津流(みつる)。中学二年生とは思えない長身の美少年だ。モデルのような長い手足に筋肉が浮き上がっている。

 鈴木小路家は明治時代から会社相談役と言う名の暴力団をやっている。彼はその跡取りで、絢梧の側近の一人だ。


「誰が乞食だ、鬣犬(ハイエナ)人間」


 不愉快そうに良太が答える。鈴木小路はその妙な圧力に一瞬怯んだが、直ぐに()け反りかけた腰を戻して、上から良太を()め付けるように……


「ぶはっ! ぶはははははっ!!」


 突然、良太が笑い始めた。またも怯まされた鈴木小路は、思わず一歩下がる。

 何がおかしい、と怒鳴り付けようとして、鈴木小路は気がついた。良太は自分を見ていない。後ろで()ん反り返っている絢梧の方を見て笑っている。


「そっかー、鸚鵡(オウム)人間か! お前、オウム人間だったのか! それも姉ちゃんより大分マシだな! オウムの化物(バケモン)っていうよりまんまオウムの(ツラ)だもんな!」


「………………は?」


 その場の誰も、二の句が告げなかった。


 何を言っているのか分からない。そもそもいつもと態度が違いすぎる。真面目腐った陰気な顔で、止めろ、犯罪だぞ、とか繰り返すのが日辻川良太ではなかったか?


 本当に発狂したのか? と、寒気を感じ始めたクラスメイト達の前で、良太は悠然と佐藤院絢梧に近づき……誰も反応できなかった……その肩を叩いた。


「なぁ、誰に言われて俺に絡んでるんだ? 親か? それともあの有名な爺さんか? おいおいそんな豆鉄砲食ったような顔すんなよ可愛いじゃねーか。気の毒だからお前は殴らないでおいてやるよ」


 良太は笑いを堪えながら、絢梧の肩をバシバシと叩く。

 誰もが唖然としたまま、良太の為すがままになっていた。意味が分からなすぎるのだ。


 それでも、護衛の使命感か、暴力装置としての誇りか、逸早(いちはや)く我に返った鈴木小路が、スポンサーから狼藉者を引き剥がそうと、良太の背後から蹴りを入れようとして、




「だがハイエナ怪人。お前は駄目だ」




 ……鈴木小路水津流は暴力の申し子である。


 その道においては日辻川翔子や宍戸依緒の比ではない。剣道三段柔道四段の学年主任も、水津流から見れば素人に過ぎない。

 武道の技術は実戦において強力な武器(・・)になる。が、逆に言えば数有る武器(・・)の中のひとつに過ぎない。武道の試合で勝てることと、実戦の中で持っている武器(・・)を状況に合わせて使いこなせることには、隔絶した一線がある。水津流は幼い頃からその一線を越える訓練を積み重ねてきた。

 ドーピング検査さえなければ、この歳にしてあらゆるスポーツの世界記録を塗り替え、あらゆる格闘技の世界チャンピオンになれる身体能力を持っている。不良の喧嘩や犯罪者の抗争なんてレベルは小学生のうちに修め、今は世界トップクラスの傭兵である本物の戦場のプロから国家にさえ通用する暴力について指導を受けている。


 それが、鈴木小路家が手塩に掛けて産み出した裏社会の闇の結晶、鈴木小路水津流という少年だった。




 その、鈴木小路水津流の右腕が、防弾防刃繊維を編み込んだインナーの袖ごと吹っ飛んだ。




 腕の動脈から血が噴き出すのを、皆が呆然と見つめている。


 遅れて、鈴木小路の絶叫が響いた。


 朝の教室は地獄と化した。

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