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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第2章 大森林動乱編】

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すでに限界ギリギリだったようなのです


 三日も暗い場所におりますと、明るい光を間近に見てしまえばいつも以上に眩しく感じてしまうものなのでございます。


 その光源がスピカさんなら尚更ですの。

 今だけは女神様より輝いてみえてしまったのです。


 ただでさえ女神様(あのひと)とはまた別のベクトルの美しさや可憐さを有していらっしゃる方なのですし、まして心にポッカリと穴の空いてしまっている私にとっては、相棒さんに再開できた安心からか、無意識的に目から大粒の涙が溢れ出してしまう始末――



――なんてことにはなるわけもありません。


 もちろんホッと一息吐けたのは本当ですけれども。



「……お、遅かったじゃありませんの……。ついでに待たせたなって言っていただいてもよろしくて?」


「えっと。ま、待たせたな……? でいいの?」


「おっけーですの。ノルマ達成いたしましたの」


 貴女が顔を見せに来てくださったということは、つまりはそういう(・・・・)ことなんですのよね?


 この無駄と窮屈で塗り固めた拘束にもようやく終わりが訪れた、と判断してよろしいんですのよね!?


 もはや質問する必要もございませんでした。


 スピカさんがスタタと駆け寄ってきて、自ら牢屋の錠を外してくださったのでございます。


 そのまま私を縛り付ける括り縄を解いて、ゆっくりとゴザの上に降ろしてくださいまして……。



「遅くなってゴメンね。エルフ族の皆さん、思ってたより本当に頑固でさ」


「私も看守様のガードが固くて苦労いたしましたのー……。最初のうちはもう少し楽な体勢だったんですけれども……。途中に何やかんや起こって、事態が悪化したりしなかったり」


「何やかんや?」


「実はココにミントさんがいらしたんですの。もう逃げちゃいましたけれども。後で詳しくお話しいたしますわね……」


「あ、うん」


 どこまでナイショにするかは決めかねております。


 私自身もよく理解していない異能について、上手く説明できるか自信がないのでございます。


 スピカさん、意外なほどに脳筋ですものね。

 今も私の身体を片腕でお支えくださっております。


 スキンシップ的なご厚意は大変ありがたいのですが……実はそれ以上、近付いてほしくはありません。


 この集落に連れてこられてからも考慮しますと、もう五日以上はまともに身体のケアをできていないのです。


 それはつまり、その。


 正直なところ、私、臭いませんこと……?

 

 天性の美女たる私であっても、さすがにバラのフレーバーとまではいかないでしょうが、ツンと鼻につく香りを放ってしまっている可能性はゼロではないのです。


 私も一人のうら若き乙女でございますゆえ、メンタルが弱っている頃にあんまりそばに近寄られると、こう……引け目を感じてしまうのです……っ。



「あ、あのっ。私、自由の身になれましたの!? もうここから出られますの!?」


 とりあえず興奮を装ってパッと離れてさしあげます。



「うん。ちゃんと説得してきたよ。しばらく滞在しても構わないってさ。お宿も借りられたから、行こう」


「……はぇー……九死に一生を得ましたの……」


 ようやく温かなお布団の中で寝られるんですのね……。


 可能ならお風呂にも入りたいですが、エルフ族の皆さんに沐浴の文化があるかどうかは分かりません。


 なければせめて綺麗な湧き水で身清めをさせていただければ嬉しいんですけれども……。


 単なる清らかな聖女としてではなく、一人の乙女として身体を清潔に保たせていただきたいんですの。


 私目当てに集まってくるのが殿方ではなく、そこら辺の羽虫になってしまったら悲しいですもの。


 あ、そういうお花が存在しておりましたわよね。

 ラフレ……何とかというお名前の強烈なお花が。


 私はあくまで良い香りのほうで数多の男を惹きつけ続ける、魔性の女であり続けたいものですの……。


 そしてあわよくば人生の伴侶を見つけて、もちろん子宝にも恵まれて、素敵な余生と第二の人生を過ごしていきたいなと……思って……。



 ふぇ……? あら……?

 安心して気が抜けてしまったのでしょうか。


 何だか、急に視界が……。

 肩にも腰にも力が入らなくなっちゃいましたの。



「リリアちゃん!? 大丈夫!?」


「……あぁ……なるほど……ちょっと……眠たくなってしまっただけ……ですの……。

大変お手数お掛けします……が……お宿まで……運んで……いただけ、ます、と……」


 最後のほうは言葉にもなりませんでしたの。


 ここ数日は特に寝不足気味でしたゆえ、体力の限界が来ていたのかと思われます。


 鏡を見たら目の下のクマが気になってしまうレベルだと思いますが、こうしてスピカさんが迎えに来てくださってはじめて、己を支えていた緊張の糸もほろほろと解け始めてしまったのでございましょう。


 自分でも驚いてしまうくらいに身体が重たくなってきているのを感じております。


 もはや腕も足も肩も首も……全然思うように上がりませんの……。


 すでに限界ギリギリだったようなのです。



 次に目覚めたときは……ふふふ。


 知らない天井ですの、ができるかもしれませんわね……。


 ……薄れゆく意識の中でも……アレだけはしっかりと覚えておきますの。


 牢に閉じ込められた初日にミントさんが教えてくださった、エルフ族の中に〝反・魔王派〟の因子が広がりつつある、ということを……。


 お次に目を覚ましたらキチンとスピカさんにご報告しなければなりません。


 勇者と聖女の次なるお仕事は単なる大森林の踏破などではなく。


 探偵業的なモノになりそうだ、と。

 今のうちに、未来の戦争の火種を取り払っておきませんと、と。


 私の中の淡い善意(正義)が重い腰を上げようとしております。


 いくつかの集落を転々しながら、少しずつ情報を掴んでまいりましょう。



「……ふわぁぁ……ふぇ……でも、今は……しばしの休息を、とらせていただければ……と……」


「リリアちゃん!? リリアちゃんッ!」


「……大袈裟でしてよぉ……ただの、居眠り、れす……の……」



 そうして、ほんの数分も経たないうちに。


 私の思考と視界も完全に真っ暗になりましたの。


 

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