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潜入っ! ゴブリンの巣穴

 

 そして、明くる日の早朝。


 朝日がキチンと登りきったのを確認してから、私たちは村近くの森の中にまで足を運びました。


 眠い目を擦りつつも歩みは止めません。

 奥へと足を踏み入れば踏み入るほど、周りの木々も密集度を増していったのでございます。


 まるで私たちを誘い込んでいるかのようでした。


 ふとお空を見上げても常に葉っぱの屋根に覆われていて、全体的に薄暗いように感じられたのです。


 お一つメリットを挙げるとすれば今日ばかりは日焼けのことを考えなくもてよさそうなところでしょうか。


 ただでさえ日焼けは乙女の天敵なんですの。

 色白でキメ細やかな私にとっては特に、ですのっ!



「ふぅむぅ……しっかしこうも足元が悪いと前に進むだけでもやっとですの。服に枝が引っかからないか、もう心配で心配で……スピカさんはよくスイスイと進めますわね」


「そう? これくらい別に普通だと思うけど」


 さすがは身軽で細身で運動神経のよろしいお人なのです。

 大した苦もなくという言葉が本当にお似合いですの。


 見た目ばかりに気を取られてしまう私とは違って、まるで大自然で遊んでいるかのように、大きな倒木やら岩やらをヒョイヒョイとかるぅく乗り越えていっていらっしゃいます。


 ドンドンとお進みなさると思いきや、たまに振り返ってはその場で待っていてくださいますので、私たちの距離が離れることはありません。


 きっと斥候的な役割も買って出てくださっているのでしょう。貴女のおかげで私も安心して前に進めておらますの。


 ついでに私を背負って運んでくだされば、もっと素早く先に進めましてよ? 今からでも遅くはありませんの。


 息を切らしてハァハァしている私をこう、まるでお姫様のように優しく抱え上げてみるだとか、ほら……っ!



「ふぅ、ふぅ……にしてもスピカさんの前世はお猿さんか何かなんでして?」


「えへへ。残念ながら今も昔も変わらぬただの勇者だよ」


「勇者にタダもへったくれもございませんのぉ……っ」


 いやむしろただの勇者って何者ですの。

 勇者自体がそもそも稀有な存在なはずです。


 貴女がそう仰るのなら私だってただの聖女様なのでしょう。


 しかしながら私は天地がひっくり返ったってあんな素早い身のこなしはできません。ひたすら祈ることしかできませんの。


 彼女の肩書き自体が既に只者ではないことを物語っておりますゆえに、只者でない聖女である私も、今はただ深いため息を零すだけなのでございます。




 さてさて。そういう経緯もございまして。


 そんなこんなで森の中を散策すること。

 おおよそ一時間が経過いたしましたでしょうか。



 ふと、一際大きな木の目の前でスピカさんが立ち止まりなさいましたの。ざっと見積もっても樹齢500年は経っていそうな太い巨木です。


 どうやらその根本の一部分が気になっていらっしゃるご様子で、先ほどから入念すぎるほどに調べていらっしゃいます。


 木の根っこのキワやらその周りの石やら、実際にペタペタと触診なさって確かめておりますの。


 ちなむと私はお近くの岩に腰掛けさせていただいておりました。歩くのに疲れちゃいましたの。


 適度な休息こそが最高のパフォーマンスに繋がるのです。


 未だひぃひぃと情けない息を吐きながらも、彼女には疑問符のこもった熱視線を向けてさしあげます。


 わりとすぐに気が付いてくださいました。

 さすが、周囲への警戒能力がお高いんですのね。



「あ、あの、何か分かりまして?」


「うん。多分ビンゴ。なんだか妙なところに薄い岩板が嵌め込まれてるみたいでさ、向こう側に空洞が有りそうな感じなんだ。もしかしたらコレ、ドア的な役割のモノなのかもしれないなって」


「はぇー……っ。ってことはその先にゴブリンの巣が?」


「かもしれないね。とりあえず動かせるか試してみるから、もうちょっとだけ待ってて」


 ほいほいもちろん了解ですの。


 非力な私に何かが出来るわけでもございませんし。ご心配なさらずともイイ子にして指を咥えて待っておりましてよ。


 こっくりと頷きを返してさしあげますと、ニコッという微笑みを零したスピカさんがおもむろに両手を伸ばして、まるで柔らかクッションを抱き抱えるように目の前の薄岩をお掴みなさいましたの。


 まさにがっぷり四つといったご様子です。


 ……え、あ、もしかしなくても物理なんですの?


  物理的に無理矢理に動かしなさいますの?


 もっとこう、棒っきれを隙間に捩じ込んでみて効率よくこじ開けてみるとか、そういう悪知恵を働かせた方法はご存知ありませんでして?


 いくら薄そうな岩板だとはいえ、サイズ的には大人の人一人分くらいはあるんですからきっと相応に重いはずでしてよ?


 非力な乙女では苦労いたしますの。



 それでもまさか本当に勇者パワーとやらでどかしなさるおつもりで――



 ガコッ、っと。



「――うわぁお。とっても力持ちなのようで」


 はっきり言って杞憂のキッちゃんでしたの。


 ゴゴゴゴという地響きと共に、今まさに岩板がスライドしていっております。


 周りの木の根っこも少しひしゃげておりますの。



「ふふふ、どやどや。こう見えて勇者だからね」


「本当にどんな便利ワードなんですの勇者(それ)って……」


 けろっとした顔で笑っていらっしゃいますけれども!?


 華奢でスレンダーでロリ体型な乙女が出してよい馬鹿力ではないと思います。


 どんな研鑽を積んでいけばそのチカラが身に付くのでございましょう。


 もしや女神様からのご加護の賜物なんですの? それとも生まれ持った才能ですの?



「力技って、本当なら筋骨隆々な屈強戦士さんが担ってる役割だと思うんですけれども」


「でも仕方ないじゃん? 私たちパーティには勇者と聖女しか居ないんだし。足りない分は兼ね役しておかないと上手く立ち回れないでしょ?」


「それは確かに……でしたら私は遊び人を兼任いたしますの」


「あっはは。ホントにそうなったら女神様げきおこ案件だと思うんだけど……ねっとッ!」


 最後に息をグッと呑み込みつつ、持ちうる限りのお力をお込めなさったのか、グワッと土煙を巻き上げながら、完全に岩を真横に移動させ終わりなさいましたの。


 ふーっと一仕事終えたかのように額の汗を拭っていらっしゃいます。


 私は見ているだけですみませんわねぇ。

 基本的に無用の長物、遊び人筆頭な乙女なもので。


 岩のフタが取り去らわれたその先には。


 なるほど確かに洞穴のような空間が広がっているようです。おまけに結構深そうですの。


 奥のほうは真っ暗で何も見えません。


 狭い入り口ですが、ボンキュッボンな私でも少し屈みながら進めばギリギリ大丈夫そうな気もしております。



「ここまで来たらGO一択ですわよね?」


「もっちのろん!」


 ふふっ、イイご返事ですの。


 貴女がその意気であれば私だってちゃんと最後までお付き合いしてさしあげるつもりでしてよ。


 それでは、いざっ!

 謎の洞窟とやらに踏み入ってみましょうかっ!


 潜入っ! ゴブリンの巣穴と思われる場所へっ!

 

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