いつぞやの同族嫌悪オーラを感じてしまいましたのッ!
「……ついに完全な別行動になっちゃいましたの……」
去り際のスピカさんは「後で迎え行くからね」というバツの悪そうな言葉を残して、女性エルフ族さん方と共に大きなツリーハウスのほうに進んでいってしまったのでございます。
こうなってしまったら仕方がありませんの。
エルフ族のご長老様に私の弁明と説得のほどをよろしくお願いいたしますわね。
私の今後は貴女のご対応にかかっているのです。
腕の自由を早く取り戻してくださいまし……!
というわけで未だ拘束されたままの私は、革装備で身を固めた衛兵と思しき男性エルフ族さん方に連れられて、集落のはずれの洞穴にまでやってまいりましたの。
どうやらかなり地下の奥深くにまで続いているらしいのです。
道中には細くて小さい松明が点々と設置してあるのみで、全体的に薄暗くて冷たい空気を漂わせておりましたの。
おまけに湿気がすこぶる凄いのです。
お肌がぷるんぷるんになっちゃいますの。
それでもしばらく突き進みますと、やがては最奥に到着してしまいました。
そこにはやたらと固そうな木材で組まれた立派な囚檻が設置されていたのです。
こちらが最終目的地なんですの……?
聖女の冴勘から察するに、火や衝撃にめっぽう強くなる魔法が付与されているらしいのです。
単純な鉄檻よりもずっと堅牢な造りですわね。
決してパワータイプではない私では、一度中に入ってしまったらどうしようもできないはずですの。
「……あのー、私、本当にこの中で待たねばなりませんのー?」
周りを囲むエルフ族さんにお尋ねいたしましたが、特にお返事はございませんでした。
その代わりか、最奥で待っていた看守と思しきわりと屈強めなエルフ族さんお一人だけが静かに頷いてくださいましたの。
そのまま黙って檻の鍵を開けてくださいます。
流れで私の手を取って優しくエスコートしてくださると思いきや……ふぅむ。
周りの彼らと同じように、首の動きでぶっきらぼうに中に入るように促されてしまいました。
はっはーん。分かりましたの。
さては重度の恥ずかしがり屋さんですわね?
私、こう見えてウブな殿方は嫌いではありませんでしてよ。
むしろ私色に染め上げてさしあげられる恰好の狙いどころとも言えますの。じゅるり。
ふっふんっ。ちょうど薄暗くて騒ぎになりにくそうな場所にいるのですし、今から私が甘ぁい手ほどきをして女性慣れさせてさしあげましょ――
「んひぅっ!?」
ニヤリとほくそ笑もうとしたそのとき。
私の喉元あたりでキラリと光ったのは、看守エルフ族さんの持っていた鋭槍の先っちょでしたの。
ほんの瞬き一つの間にグイと突き立てられてしまったのでございます。
恐れのあまりについ背筋がピンとなってしまいます。
「わ、分かりましたわよ。大人しく入っておけばよろしいんでしょう!? まったくぷんぷんっ。乙女の柔肌に傷が付いたらどうするんですのっ」
どうやら恥ずかしがり屋さんなのではなく、単にお仕事にド真面目だっただけみたいですわね、この看守のエルフ族のお方。
だって絶世の美女である私の美貌にも少しも反応を示してくださらないんですもの。
むしろ人扱いされていないまでありますの。
まるで歩く荷物か何かを見るかのような冷たい目つきは……結構メンタルに来ちゃいますのっ!
もっと優しく構ってくださいましっ!
図太くても私はか弱い乙女なんですのっ!
「ま、別にこの程度慣れっこですけれども……」
駄々を捏ねたところで始まりませんので、口を尖らせながらも小さめの扉を潜って、檻の内側に入らせていただきました。
ああ、よかったですの。
簡素ながらござは敷いてあるみたいです。
ばっちい地ベタにぺたんこ座りをしないで済むだけまだマシと思いましょうか。
たった二、三日の辛抱ですの。
しばらくは陽の光ともサヨナラしてしまいますけれども、耐えられないものではないのです。
口をムスーっと結びながらも静かに腰を下ろしておいてさしあげます。
はーぁっ。
早速ながら暇を持て余してしまいそうですのー。
スピカさん、早く迎えに来てくださらないかしら……。
狭い穴倉の奥底に聖女が閉じ込められているだなんて、こんなの世の損失にちがいありませんの。
もっと広くて明るくて優しい世界でパーっと弾けまわるのが私の務めだと言いますのにっ!
独房の中で独りで待っていなければならないだなんて、さすがの強心臓の私でも心細くなってしまいま――
……あら?
ちょ、ちょっと待ってくださいまし。
いつぞやの同族嫌悪オーラを感じてしまいましたのッ!
またまた聖女の冴勘がビビッと作動したのです。
この檻の中の……どうやら最奥に先客がいらっしゃいましたの。
最初は薄暗くて気が付けませんでしたが、こうしてしばらく経って暗い空間にも目が慣れてきた今、檻の隅をじーっと凝視してみれば……ッ!?
「あら、バレちゃったか。誰かと思えば聖女サマじゃない。奇遇ね、こんなところで会うだなんて。ざっくり半月ぶりくらいかしら?」
「はぇっ!? なんでこんなところにミントさんが!?」
「エルフ族なんかに捕まっちゃうだなんて、やっぱりアンタって所詮はざーこ♡聖女だったみたいね。ざーこざーこ」
檻の中にいらしたのはミントさんでしたの。
以前に見た姿と同じ灰色のフードをすっぽりと被りつつ、不敵に笑っていらっしゃいます。
そ、そうですのっ。
自分自身で忘れているかもしれませんゆえ、もう一度おさらいしておきますのっ!
つい最近、トレディアの街の郊外で撃退してさしあげたばかりのあの魔族のミントさんが、私と同じくその手をぐるぐる巻きにされた状態で、ぐでーんと檻の壁面に寄りかかっていらしたのでございます……ッ!?
「まぁ、今は囚人同士、静かに仲良くしときましょ。でないとまーた怖ぁい刃物を突きつけられちゃうかもしれないわよ?」
「うっ、んぐぅぅぅ、ですの……!」
時折お尻の辺りから生えている尻尾だけを右に左にゆらゆらと揺らして、手持ち無沙汰感を全身で表現していらっしゃるようです。
檻の中に閉じ込められている今この状況にすっかりと馴染んでしまっているかのような、それはそれはやる気のないご表情でしたの。
それでは彼女に倣って私も――って、そうは問屋が卸しませんでしてよッ!?
「イヤイヤちょっと! はぐらかさないでちゃんと質問に答えてくださいましっ! どうしてアナタがこんなところにっ!?」
「別にアンタに教える筋合いはないと思うけど? 言っておくけどヘタこいたわけじゃないわよ。ちょっとこの辺に野暮用があっただけ」
一応、また面倒くさいバトル展開になってしまうかもしれませんので、念のためにいつでも結界魔法を唱えられるように心を身構えておきます。
こんな地下の奥かつほぼほぼ密閉されているに等しい場所で、重さの異能を発動するわけにもいきませんし。
どういうわけか檻の中でも魔法は使えるようになってるみたいですし。
しかしながら。
「……はぁ。血気盛んなことで。別にこっちにその気はないんだけど」
「はぇっ?」
この前みたいに戦わないんですの?
もちろん前回だってミントさんが直接パンチやキックを繰り出してきたわけではありませんけれども……! それでも……!




