ここがエルフ族さんの集落、なんですの……!?
それから三日三晩、歩き続けましたの。
もう一度言わせていただきます。
マジメに三日三晩、歩き続けましたの。
その細身のお身体のどこにエネルギーが詰まっているのかと小一時間ほど問い正したいほど、エルフ族の皆様は森の中では一切の疲れを見せませんでした。
一方の私たちはもうヘロッヘロなのです。
疲れ果ててしまった私とスピカさんは、途中でエルフ族の方々に担がれながら休眠をとらせていただいたくらいですの……。
いやはや、誰かの背中の上で揺られながら眠るのがあんなにも心地が良いものだったなんて……。
ふと、幼少の頃を思い出してしまいました。
今は特に深掘りはいたしませんけれども。
ともかくエルフ族さん方のご配慮のおかげで、体力的にはわりと回復することができました。
けれども代わりに長らく眠っていたせいで、これまで辿ってきた道順なんてこれっぽっちも覚えておりませんのッ!
今更引き返すつももはありませんが、私たちが今、大森林のどの辺に位置しているのか、これで皆目検討もつかなくなってしまったのでございますッ!!!
あ、いえ、正直に言えば、エルフ族さんがいてもいなくてもそのうち迷子になっておりましたゆえ。
実際はあんまり気にしていないのでございます。
「おい。そろそろ着くぞ」
「ふぇぇ……やーっとなんですの……?」
「本来なら目隠しをさせてから集落に入れるんだが、道中ずっと眠り呆けていた貴様らには必要もないだろう」
「そう仰るならこの腕のぐるぐる巻きも解いてくださいませんこと?」
……ふぅむ? あ、ちょっと。
なーんで無視なさるんですの!?
三日三晩付けてても全然慣れませんでしたの!
さすがにむくみ始めちゃいましたの!
癒しの魔法だけでは全然ケアが足りないのです!
さっさと外してくださいまし!
……ええ、分かっておりますわよ。
ぶーぶー言ってたって聞いてくださる気はないのでございましょう?
癇癪に身を任せるのはもう少しだけ待ってさしあげますの。
待てば森路の日和あり、ということです。
そろそろ着くとのお話ですし。
棒のようになってしまった足に気合いの喝を入れてもう一踏ん張りだけいたしましょうか。
さぁ、頑張りなさいまし!
リリアーナ・プラチナブロンド!
腕の自由が効かなくともめげてはなりません。
人生とは試練の連続なのでございます。
――――――
――――
――
―
「着いたぞ」
「ほわぁーっ! ここが……!?」
「ここがエルフ族さんの集落、なんですの……!?」
森の木々の中でも一際大きな、それこそ樹齢何千年かも分からない巨大な樹木の根元に、集落への門が構えてありましたの。
木製のアーチで形成されておりましたゆえ、遠目からでは気が付きにくくなっております。
どうやら木々の根っこ自体が集落を取り囲むかのように円形に広がっているようでして、自然と集落の存在を隠してくれているらしいのです。
大森林が天然の迷宮だとすれば、エルフ族さんの集落は天然の要塞だとも言えましょうか。
実際、森の奥深くにあるみたいですし、立地的にもそもそも分かりにくいですし、内側に入れる場所もかなり限られているようですし。
中に入ってみてもほぼ同じ感想ですの。
もちろんのこと、集落の内側もまた自然と一体化した造りになっておりました。
目で見える範囲でも、住処の大半はツリーハウスになっておりますし、渾々と湧き出でる泉とか、色鮮やかな果実のなる木とか、青々とした野菜の茂る農地とか、街中にはないモノが沢山あるんですものっ。
さすがは独自の文化圏を何百年も維持していらっしゃるエルフ族さんですわね。
文明の色が見えずとも少しも貧しさは感じられません。
むしろ森の魅力を最大限に活かした生活をしていらっしゃるのです。
素直に羨ましく思ってしまいましたの。
「それで、私たちはこれからどうすれば?」
「まずは集落の長に会ってもらおう。長老に認めてさえいただければ、集落の中はもちろん、大森林の中においてでも、ある程度の自由が約束されよう」
「ふぅむ。わりと破格な待遇ですわね。そんなシンプルでいいんですの!?」
「掟だからな」
緑髪の凛々しいお顔のエルフ族さんが、目を閉じながらも腕を組んで、自信ありげに頷いていらっしゃいましたの。
なるほど長老様が決めたことが絶対、ですか。
いかにもココは封建的な社会が成り立っていらっしゃるようですわね。
けれどもやはり前時代的だとは思いません。
そのルールがあったおかげで長い年月を経ても自然豊かな大森林が保たれているのですからね。
長命種であるエルフ族の長老様って、お歳はおいくつなのでございましょうか。
エルフ族の方々は見た目と年齢が一致しない種族として有名ですし、それこそ四桁は余裕で生きていらっしゃるかもしれませんの。
そう考えれば今に至るまでずっと同じ考え方を貫いていらっしゃるというのは、素直に感嘆の念をこぼしてしまうばかりなのです。
新しきことが良きこととは限りませんの。
おんこちしん? でしたっけ。
おちん……あ、いえ、何でもないですの。
「私、エルフ族さんってもっと気難しい方々ばかりなのかと思っておりましたの。ほら、余所者は一切近寄らせるなー、的なオカタイ感じの」
「基本的にその認識に間違いはない。だが、我々はパールスターの小僧には少々借りがあってな。その親族を無碍にすることはできないんだ」
「あら、先代の勇者様に借りですの?」
「詳しくは長老が話してくださるだろう」
であるならば尚更早く長老様に会って、この縄を解かせていただきましょうよ。
前方に見えている一際大きなツリーハウスにいらっしゃるのでしょう?
一目お会いすれば、スピカさんだけでなくこの私だって善人の中の善人なのだとご理解いただけるはずです。
白金髪の美女には何でもお見通しでしてよ。
そう確信いたしまして、小走り気味に近付いてさしあげようと……したのですけれども。
「待て。金髪の小娘。貴様の行き先はそっちではない」
「はぇ? でも長老様のお家はすぐそこに」
「貴様は地下牢だ。パールスターの面会が終わるまで大人しくしていろ」
「は、はぇぇえええぇえ!?」
さすがに理不尽すぎやありませんの!?
直接お話しする機会もありませんの!?
驚愕の格差が発覚してしまったのです。
私、どうやらマジめのガチめに招かざる客扱いされていたらしいですのっ!




