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地下牢というよりは大迷宮というわけですわね

 

 そうして更にもう一日ほど、古ぼけた街道跡を辿り進んでおりますと。


 とある地点にて、スピカさんがついに完全にお立ち止まりなさいましたの。


 地図から目を離して顔を上げなさいましたので、私も彼女に倣って前方確認してみます。


 そこには視界いっぱいに広がる……至極青々とした木々がそれはもうボンボンバンバンとガムシャラに生えておりましたの。


 百や二百なんていう数ではありません。

 どこを見たって緑一色に染まってしまっております。


 奥のほうは陰で暗くて何も見えないくらいですの。



「着いたみたい。こっから先が大森林だ」


 むしろ木々だけでなく、地面にも所狭しと下草が茂っているようで、明らかに人の手の入っていない純度100%の自然(みどり)がそこに広がっていたのでございます……!



「はぇー。お空が見えなくなっちゃうレベルですわねぇ。これほど鬱蒼(うっそう)って言葉が似合う場所は無いと思いますの……」


「そうだねぇ。さすがは大森林って感じかな。トレディアの街が八個も九個も入っちゃうくらい広いんだってさ。凄いよね」


「ひぇー……トンデモない規模ですの……」


 わざわざ大と名を付けるだけのことはありそうです。


 きっとここにしか生息していない希少な動植物や魔物なんかもいることでしょう。


 しかしながら私には珠も石も見分けがつきませんゆえ、珍しいか否かの判断基準ではなく、単に美味しいモノが見つかれば嬉しく思っているのです。


 更にちなみにを呟かせていただきますと、残念ながら立ち入りを禁ず系の物騒な看板は立っておりませんでしたの。


 けれどもそんな注意書きが無くてもつい足を踏み入れることを躊躇してしまうような、ギュンと重苦しいオーラを森全体が放っているのを肌で感じ取れてしまうのです。


 来るもの拒まず、されども中に迷い込んだ者は一人残らず喰らい尽くしてしまうのような。


 そんな魔境の香りがいたしましてよぉ……っ。


 ふぅむ。ここが大森林の入り口ですか……っ!


 私たちが立っているこの場所で砂利道がパッツリと途切れていて、以降は土が剥き出しとなった獣道がうっすらと続いているだけなのです。


 この先は公道扱いされていないと見て間違いはありませんでしょう。


 つまりは王国の管轄下からは外れているということですの。


 場合が場合なら不法侵入と見做されてもそうおかしくはありませんけれどもっ。


 大森林とは、一応は所有者の存在しない、各国の緩衝材とも呼ばれる完全中立地域らしいんですの。


 主にエルフ族の皆さまが主体となって、独自の文化圏を形成して暮らしていらっしゃるようです。


 この先で彼らにお会いしたとしても、なるべく穏便かつスマートに、最低限の交友関係を結んでおきたいところですわね。


 間違っても彼らと敵対する気はないですの。


 いくらエルフ族が他種族に排他的だとは言え、一切の言葉も交わさずに攻撃してくるような野蛮な方々だとは伺っておりませんもの。


 きっと話せば分かり合えるはずなのです。



「それじゃあ、行こっか。早ければ二ヶ月もあれば森を抜けられるとは思うよ。もちろん一度も迷わなかったらのお話だけど」


「ちなみに迷わない確率は?」


「よくて半々か……それよりちょっぴり低いくらいかな」


「ってことはほぼほぼ長期滞在確定コースですわね。下手したら半年掛かりますの。改めて覚悟いたしましてよ」


 ただでさえ森の中は木々がたくさん茂っているせいで、陽の光による方角把握がしにくいのです。


 そしてまた、ずーっと同じような景色を見ながら進まねばならないわけですので、いずれは平衡感覚さえも失ってしまいそうな予感もいたします。



地下牢(ダンジョン)というよりは大迷宮(ラビリンス)というわけですわね」


「うん。カッコよさげな言い換えありがとう。でもまぁ、今回はちゃんと準備してきたほうだから、そこまで危険な場所でもないと思うよ。多分」


「その多分こそが一番の命取りなんでしてよっ。ちっちっちっ」


 進んでいると思いきや来た道を戻っていただけであったり、もしくは同じところをグルグルと何日も彷徨ってしまったり、と。


 迷いやすい場所特有のアレ(・・)が起こらないよう、常に周囲に細心の注意を払いながら進まねばなりませんわよね。


 ここから先は己の五感と勘が頼りなのです。


 その証拠に、スピカさんもお手持ちの地図をしまいなさいましたの。


 大雑把な地図を眺めたところであまり意味を成さないことをご存知なのでございましょう。


 懸命なご判断と思われます。



 ……あ、ですけれども私。


 お一つイイことを思い付いちゃいましたわね。


 地上にいる私たちにとっては前後不覚の場所でも、お空の真上からならいかがでございましょう?


 女神様なら、俯瞰で位置関係を確認できたりしませんかしら。


 例えば、私たちが進む方向を間違えているときは、裁きの雷でお知らせいただける、とかとかっ!


 そういう便利な活用方法はいかがでして?


 ほらほらどうでしてぇ? 女神様っ。


 胸に手を当てて祈り伺ってみましたけれども。



「………………ふぅむ。反応無しですわね」


「ん? どしたのリリアちゃん」


「あ、いえ、どうやら女神様はズルの類いは許してくださらないらしく。あくまで自分らの手で道を切り拓けとの(おぼ)()しですの」


「だろうね。私が女神様でもそう言ってるよ」


 やはりスピカさんは真面目さんですわね。

 さすがは女神様も一目置いた今代の勇者様ですの。



 といいますか、女神様。


 ウンともスンとも、むしろ電撃ピリリの一つも伝えてきてはくださらないとはどういうことですの?


 聖女らしからぬ行いをしようとしたときは間髪入れずに雷を落としなさると言いますのに。


 基本的には我関せずの監視スタンスをお貫きなさるおつもりなんですの?


 これではただの見守られ損ですのー。

 想定の範囲内ではございましたけれどもっ。



「それでは実際足を踏み入れてみましょうか。罠とか仕掛けられておりませんわよね?」


「さすがに入り口近くにはないんじゃないかな? エルフ族の集落周りは……もしかしたら、あるかもしれないけれど」


 物騒になるのはもう少し先ってことですわね。


 うっふっふっふっ。

 咄嗟の治癒ならお任せくださいまし。


 怪我でも毒でも何でもござれの万能聖女でしてよ。

 

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