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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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ほら、ほら、しっ、しっ。

 



『――これに懲りたら、今度こそ清く正しく慎ましくお生きなさるよう、その心に刻み込みなさい』


「うぃですの。へぃですの。あぃですの……」


『元より聖女とは人々の模範となるべき存在なのです。よろしいですか? ただでさえリリアーナさんは――』


「っていうか何周目ですの……このお説教話題は……」


 このままでは本当に耳にクラーケンどころかヒュージプラントが自生してしまうレベルで聞き飽きましてよ……。


 ため息を吐くだけでは収まらないのです。


 ふと見た窓の外はもう完全に真っ暗になってしまっておりましたの。


 ホントにお説教だけで半日が経ってしまったようです。


 先ほど見送ったと思ったスピカさんもいつのまにかお部屋にお戻りになられて、今はもうテーブルに買ってきたご飯を並べてくださっております。


 ちょっと耳を澄ましてみれば、私だけでなく、彼女からもお腹の虫の鳴き声が聞こえてくる始末。


 いや、そろそろさすがにご勘弁願いましぃー……。


 私、今度こそイイ子になりますからぁー……ッ!



 と、言うとでもお思いでして?



 乙女たるもの、弱みは決して見せてさしあげませんの。


 清く、正しく、美しく。


 その美女基本三原則と同じくらいに、私には大事なモットーがあるのでございます。


 両耳を綺麗にお掃除してお聞きなさいまし。

 こちらも三言で済ませられますゆえ。



 強く、気高く、ふてぶてしくッ!



「こっほん、女神様。差し出がましい物言いで大変恐れ入りますけれどもっ! 貴女の後ろをご確認くださいまし。このままではせっかくのお夕食が冷めてしまいますの」


『あら、もうそんな時間になりましたか。仕方がありませんね。では続きはまた次回ということで』


「……うっへぇぇぁぁ……やっとですの……ご慈悲に感謝いたしましてよ……」


 ちらりと女神様の顔色をお伺いしたのち、溜め息を見届けてからチカラなくパタリとベッドに倒れ込ませていただきます。


 やーっと終わらせてくださったみたいですの。


 長時間の正座のせいで足の感覚が完全に無いのです。

 ツンツンするとガチでビリビリきてしまいます。


 念の為に足全体に治癒魔法を施しておきましょうか。

 もちろん詠唱は省略いたしましてよ……。


 すかさず女神様がジロリと睨んできなさいましたが今は知ったこっちゃないのです。


 ほら、見てくださいまし、この真っ赤っかの肌を。

 それはもうシーツの模様がくっきりと。


 緑色の治癒光がより映えて悲しくなりますわね。

 それでも何もしないで待つよりはマシなのです。


 このまま放っておいて、乙女の大切な御々足(おみあし)が大変なことになってしまうよりはずっとですの。


 このままでは立ち上がることさえままなりませんゆえにッ!



「ぅあー……こんなとき……近くに広くて温かいお風呂があれば……そうでなければ気軽に湯浴みができれば……」


 すぐにでも疲れを癒せたのでございましょう。


 しかしながら、私の嘆きは部屋の埃と同じように宙にふわわっと浮いてしまって、終いにはそのままどこかに消えていってしまいます。


 それこそちょっと擦るだけで先っちょからお湯が吹き出す魔導具とか、桶の中のお水を湯に変える魔法が載っている便利な簡易聖典とか……。


 別にそんなモノでも構いませんの……。

 どうしてこういうときに限って無いんですのー?


 はぁ……難儀ですこと……イヤ本当に……。


 しかーし、顔には出しません。



「こっほん。お待たせしてしまいましたわね。とりあえずの治癒は終えましたの。あとはご飯を食べて体力的に回復させられたらとっ!」


「おつかれ。リリアちゃんも色々と大変だったんだねぇ」


「ええ、ご理解いただけて何よりですの。こんな気苦労を毎月のように耐えてる私、実はとっても偉いのではありませんでしてっ!?」


 唇を尖らせながらも食卓につかせていただきます。


 ほっほう。スピカさんったら気を利かせて今日は菜食メインの献立にしてくださったみたいですわね。


 さすがですの。これでお肉でも食べようものなら女神様が黙っちゃいないのでございます。


 彩り葉野菜の生サラダに、メインディッシュのこちらは根菜のソテーでしょうか。豆を柔らかく煮込んだ汁物も付け加えてくださっております。


 これなら女神様も文句はございませんでしょう?

 見て分かるくらいにヘルシーで健康的ですもの。


 

 二人して手を合わせて静かにお食事をいただきます。


 もちろん食べ物への感謝は忘れてはおりませんの。

 すぐ目の前で女神様に監視されちゃってますからね。



「はっへぇー……それにしても一日が地味ぃに長かったですのー。正直まだ熱っぽいままですし身体も(ダル)いことですし、今日は早めにお布団に横にならせていただければ、と」


「あ、うん。大丈夫だよ。洗い物もやっておこっか?」


「いやぁーありがたいですのー。本当に恩に着ますのー。この埋め合わせはいつの日か必ずや」


「あっはは。そんなに畏まらなくてもいいのに」


 ぺこりと誠心誠意頭を下げさせていただきます。

 親しき仲にも礼儀有りという言葉もあるのです。


 いつか、恩返しは必ずいたしましてよ。


 ふぅむ……そう、ですわね。

 一日マッサージ使役権なーんてのはいかがでして?


 凝り固まった筋肉を上から下まで綺麗に揉みほぐしてさしあげますの。


 こう見えて指遣いには自信があるのです。

 特にご奉仕周りは一番得意なスタイルなのですしっ。


 朝も夜もいろんな意味で慣れておりま――おっと、今は女神様の御前でしたわね。


 再三に叱られてしまっては元も子もありません。

 今は心を無にして黙っておきましょう。


 はい、ツーン、ですの。



 何でこういうときに限って目が合ってしまうのでしょうか

 そう眉間にシワを寄せて睨まないでくださいまし、女神様。



『そもそものお話、リリアーナさんがもっと敬虔な聖女であればこんな不毛な説法もしなくて済むのです。比べたいわけではありませんが、過去の聖女方はもっとずっとスムーズに事を終えていましたよ?

むしろこんなにも手が掛かっているのは、歴代でもリリアーナさんだけかと思います』


「はいはい分かってますのー。私は不出来で不憫な末端聖女ですのー。けれどもヨソはヨソ〜、ウチはウチ〜だから別に構いませんのー」


 世の中的には手が掛かる子ほど可愛いのでございましょう?


 といいますか、先代や先々代の聖女様は混じりっけ無しの真人間だったのですから、こうして真夜の日に反省会を催す必要もなかったと思うんですけれどもっ。


 よくよく考えてみると不公平極まりませんのー。

 どうして私ばっかりこんな目にぃー。

 抗議をするだけならタダなんですのーっ。


 百歩譲って色恋に聡いのはダメだとしても、重さの異能については完全に生まれながらの特異体質なのですから、多少は大目に見ていただいてもよろしいのでは、とは思うのです。


 使えるモノはじゃんじゃん使ったほうがよいのでは?

 何か反論、ございまして?


 ……ふっ。もちろん分かってますわよ。

 どうせ思想がお淑やかではないと仰るのでしょう?


 何年監視されてるとお思いでして?

 全部まるっとするっとお見通しでしてよ。



 とにもかくにも、ですの。


 今日は貴女の仰るとおり慎ましく過ごしますゆえ、安心してお空にお帰りくださいまし。


 夜遊びに出かけられるほどの体力も残っておりませんし。


 そこそこ長い付き合いなのですから、私のこと、少しは信用していただいてもよろしいかと思うんですけれども……。


 ほら、ほら、しっ、しっ。



 うぅっ。ななな何でまた睨むんですのー?


 女神様ってば、相変わらず頭が石のようにお固いんですから――ぅあっふんっ♡



 だから冗談ですってば。


 今のはただのおちゃらけですの。

 可愛らしい茶目っ気のお一つではございませんか。


 裁きの雷はホントにご勘弁願いますの。


 ああ。我ながら、まったく難儀な人生ですこと。

 先が思いやられましてよ、まったくもう……。


 

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