…………ちっ。はーい、反省してまーすのー
さて、これで私の秘密は全てお伝えしたも同然ですの。
真夜の日には先祖還りをしてしまって、更には女神様ご本人が監視に来てしまうという、色々と面倒な制約を抱えた超絶美少女、それが私リリアーナ・プラチナブロンドなのです。
長々とした自己紹介もこれで完了ですわね。
ふぅー。いやぁスッキリいたしましたの。
満足満足ですの。
さすがに今晩はぐっすりと眠れそうです。
この胸の憂いを解消することさえできれば、もう怖いモノも無いに等しいですゆえ、あとはのーんびりとひたすらにベッドの上でゴロゴロして時間を潰しておけばよろしい……ふぅむ?
いや、なーんか、忘れているような?
………………あ。そういえば。
毎度の〝お説教タイム〟がまだでしたの。
今回ばかりは見逃していただけないかしら。
気苦労ばかりで結構疲れてしまいましたし。
そう思って女神様のほうをチラリと横目でご確認させていただいたのですけれども。
……いつも通りの生真面目そうな微笑みが、ベターっと張り付いていらっしゃいましたの。
うっ。今、完全に目が合いましたわね。
スススーッと滑るように私の目の前まで移動してきましたの。
思わずベッドの中央まで後退りしてしまいます。
『それではリリアーナさん。いつもどおり、そろそろご正座いただいても?』
「……あのー、今回はスピカさんに見られながら、じゃなきゃダメなんですの?」
『これ以上包み隠さないと決めたのは貴女なのでしょう? 今更何を取り繕う必要があると仰るのです?』
「うっうぅ……ホント頭のお固い神様ですことぉ……プライドもプライバシーも平気でポイしてきますのぉ……」
べ、別に私、悪いことなんてしてませんしぃ。女神様の価値観を押し付けられてしまっても困ってしまうだけですしぃ。
むしろ執行猶予とかそういう優しさをいただいてもバチは当たらないと思うんですけれどもぉ。
「え、あ、何々? どうしたの?」
何も知らないスピカさんが小首を傾げていらっしゃいます。
「……ふっふん。今から、前回の真夜の日から今日に至るまで、どれだけ私が聖女らしからぬ振る舞いを行ったのか、反省会が開かれるんでしてよ……」
長い長いお説教タイムの始まりですの。
これまでに耳にクラーケンができるほど聞いた内容を、今日も何度も、何度も何度も何度も、ガミガミと聞かされなければならないのでございます。
まぁそこで見ていてくださいまし。
どれだけ面倒くさい内容なのか、数分も経たないうちにお分かりになると思いますゆえに……。
『さて、リリアーナさん。聖女たるモノ〝清く、正しく、美しく〟毎度口を酸っぱくしてお伝えしておりますが、これは絶対に遵守しなければならない鉄の掟なのでございます。
だと言いますのに、今回の貴女ときたら。男性に目を奪われた回数およそ72、心惹かれた回数は41、性懲りも無く発情した回数は24、あまつさえ色目を使おうとした回数については15にもなります。これはどういうことですか?
前回、貴女は確かに「分かりましたの。もうしませんの。今心に固く誓いましたの。これからは清く生きますの」と仰いました。その前にも「掟は絶対に守りますの。絶対とはつまり絶対ってコトですの」と声に出してお誓いなさいま――』
……ふわぁぁふぇ……ねっむぅ……。
それで、あれから何分経ちまして……?
ふぇぇ……まだ半刻足らずですの……?
下手したら夕方になっちゃいますわね……。
うぅ……お腹空いてきましたの……ジューシーなお肉をガッツリ食べたいですの……。
『リリアーナさん。貴女、今肉を食らいたいなどと考えましたね? 前々から言っているとおり、聖女という存在に殺生行為は似つかわしくありません。己の身に危険が迫った場合にのみ例外として許してはおりますが、自らの意地で生き物を殺して更にはその血肉を貪り食すなど、不浄にもほどがあると思わないのです――』
……そんなにガミガミと言わなくても分かっておりましてよぉ。
ちょーっと魔が刺してしまっただけですの。
だってお野菜だけですと肝心なときにチカラが入らないんですものぉ……。
これから長旅を続けるのなら、少しでもスタミナは付けておかないといけないと思うのです。
お芋だけではいつの日か必ず飽きてしまいますしぃ……。
せめて生肉は避けさせていただきますゆえ、よーく焼いたお肉くらいは許していただいても……。
最大限に命に感謝していただきますゆえ……。
ええ、そうですの……人生には緑黄色の彩り以外にも、赤や茶色といった実直さも必要だと思うんですのよねぇ……。
ね? ねぇ?
女神様もそうは思いませんこと?
……そ、そんな怖い顔しなくてもよろしいではありませんかぁ。
分かりましたわよぉ。
極力我慢いたしますの。
ホントにやむを得ないときまで、ちゃんと我慢いたしますわよぉ。
あー……それにしても足が痺れてきましたの……いくらベッドの上だとはいえ、オンボロ宿のお煎餅じみたマットレスなんですもの……それはもうビリビリじりじりと……段々と感覚が無くなってきてしまいましたの……。
こっそり自分自身に重さの異能をかけて、身体を軽ぅくしてみようかしら。
キチンと制御できるとは思えませんが、どうせ女神様は元から浮いていらっしゃいますゆえ、ほんのちょっとであればお気付きにならないかもしれませんの……なーんて。
『リリアーナさんッ!? 真面目に聞いていらっしゃいましてッ!? ただでさえ貴女は今回は異能を解放したせいで、いつも以上に魔族の身体に近しくなっているのです。まったく不浄も甚だしい。女神のごとき美しさが台無しです。
だと言いますのに、これ以上に罪をお重ねになるおつもりなのですか!? これは言語道断ですね。雷による裁きをも考えなければなりません。ご覚悟はよろしいですか!?』
「…………ちっ。はーい、反省してまーすのー」
ですけれども、さすがに今回の異能発動は大目に見てくださいまし。
私たちだってかなりピンチだったのです。
かなり命の危機にも等しい状況でしたの。
それこそやむを得ない場合のソレとして、仕方なく発動させていただいたわけですからノーカウントでもいいくらいだと思いますの。
……あー、分かりましたの。
一応言い訳としては聞いてはくださる流れではあると思いますけれども、使ったのは間違いないとして、いつも以上にお説教の尺が長くなるパターンですわよね? コレ。
夕方で終わればラッキーでしょうか……。
下手したら夜まで掛かるヤツですの……。
「……あのー、スピカさん。もしよろしければお夕食を買っておいていただけますとありがた」
『そこ! 無駄口を叩いている暇があるなら女神聖典を暗唱なさい。もちろん三周、間違えることなく唱えきるまで終えてはなりません。
ただでさえ貴女はうろ覚えのまま今日までやり過ごしてきたのです。今日という今日はキチンと唱えるまで帰――』
「あ、うん分かった。ちょっと買ってくるね……」
あー、コレ夜まで確定コースですわね。
先に言っておきますの。
ご愁傷様でしたの、私。
遠い記憶の彼方の聖典を唱えすぎて、顎が外れぬようご注意くださいまし。
今はただ、苦笑いを浮かべたまますーっと部屋から出て行かれたスピカさんが、気を利かせて柔らかいモノを買ってきてくださることを祈るばかりなのでございます。
えーっと? で、何でしたっけ?
女神聖典、第一章、第一約……おっと早速ド忘れしてしまいましたの。てへぺろり。
冗談ですわよ。
そう睨まないでくださいまし。
綺麗なお顔が台無しでしてよ?
えっと、うぅーんと……ふぅむぅ。
なかなか手強いですの、私の薄れた記憶って。モヤモヤばかりで全然実体化いたしませんわねぇ。
忘れたわけではないですの。
ちょーっと喉の奥に引っ掛かっているだけで。
もはや詰みかもしれませんの。
うっふっふっふっ……ふぅむ。
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