……神話の中にある女神様そのものだよぉ……
そのお声を皮切りに、突如として目の前の空間が裂けて、中から眩い白光がピカピカと漏れ溢れてまいりましてぇ……ッ!?
お次には、こう、ふぁっさぁあっ……と。
まるで光の羽衣がそのまま翻されたような、柔らかくてキラキラとした衣擦れ音が聞こえてきたのでございます。
おまけに爽やかな風まで吹いてきましたの。
新緑と花のイイ香りがいたします。
ふぅむ。もはや何でもアリの神々しさですわね。
ゆっくりと目を開けて確認してみます。
『ご機嫌うるわしゅう、聖女のリリアーナ・プラチナブロンドさん。そして勇者のエルスピカ・パールスターさん』
「うそ、まさか、あ、あなたが……!?」
『ええ。迷える民々を導く女神様その人です。……正確には、女神様その神です、でしょうか』
神様という存在は簡単には頭を下げません。
その代わりに優雅に軽ぅく微笑んでくださいます。
ぱっちりウィンクをするだけで目元から光の粒が弾けるんですのよね。
魅力度高めでちょっとだけ羨ましいのです。
今度魔法で真似してみようかしら。
とにかく第一関門は突破できましたの。
何事もなく普通に女神様がご降臨してくださったのでございます。
私のモノと同じかそれ以上に色の濃い金髪をサラリと靡かせて、七色に煌めく薄法衣をその身に纏わせた絶世の美女……もとい究極の美女である女神様が、ふわふわと宙に浮かんでいらっしゃいます。
足を組んで優雅に寛いでなさいますの。
全ての行動において余裕を感じられますの。
ハイハイさすがは女神様ですのー。
イイ感じに褒めておかないと言い表しておかないとすぐに拗ねちゃいますからね。
まったく手の掛かるお方ですの……。
先が思いやられましてよ……。
女神様から溢れる光がある程度収まったのを見届けつつ、改めて仰々しくぺこりと一礼させていただきます。
「どもどもですの。今日もお美しいお姿、ホントに羨ましいですこと。私の金髪が霞んで見えてしまいますのー」
『あらあら。貴女は本当にお世辞が上手ですね。リリアーナさんも充分にお綺麗ですよ。これからも聖女に相応しい容姿を保ち続けなさい。女神様との永遠の約束です』
「へいへいかしこまりぃですのーっ」
言われなくてもお手入れいたしますのー。
手櫛でほぐれる美髪は乙女の鉄則ですのー。
何よりの心の糧になりますものー。
ご心配なさらずとも、たとえ旅の都合で毎日お風呂に入れなくとも、せめて浄化魔法くらいは掛けさせていただくくらいには美意識は高いのでございますっ。
私も自分の容姿はとても優れているほうだと自覚しておりますが、こうやって本物の女神様と相対してしまうと、自信も驕り昂りも半減していってしまいます。
もはや指が貫通してしまいそうなくらい透き通った瑞々しいお肌に、作りたてのデザートのようにぷるんとした唇、夜空の星をそのまま散りばめたようなキラキラのお目々、さらには腰まで伸びる綺麗なゴールデンなブロンド髪を見せつけられてしまっては……ふぅむ。
私なんて所詮は中の上レベルの井の中の蛙乙女でしかありませんの。
ほら、その証拠にスピカさんを見てみてくださいまし。
「……ほわぁぁ……綺麗だぁ……すっごく……神話の中にある女神様そのものだよぉ……」
女神様のあまりの神々しさに、見惚れて言葉を失ってしまっていらっしゃるではありませんか。
もしもーし。ぽーっと呆けてしまうお気持ちはとっても分かりますけれどもー。
さっさと帰ってきてくださいましー。
このままではお話を進められませんものー。
こっそりと彼女の背中をツンツンとして、現実に連れ戻してさしあげます。
ビクンッと小さく一回跳ねた後、ペチペチと頬を叩いては平常心をお取り戻し直しなさっていらっしゃいましたの。
改めて緊張したような面持ちのスピカさんが続けなさいます。
「ぅぁっと。あっ……ごめんなさい。あまりにも女神様が綺麗で、なんか凄くって、つい。あっはは。全然いい言葉が浮かんでこないんだ」
『別に構いませんよ。私の容姿に見惚れてしまうというのは、何ら間違ったことではないのです。エルスピカさんの美的センスが大いに正しいこと、素直に喜んでしまいなさい。
そして、これからも従順で純朴な勇者であり続けること。分かりましたか?』
「は、はいっ! ありがとうございますっ!」
なーんかさっそくありがたそうで実は別にそうでもない信託を下し始めなさいましたの。
要約するに引き続き綺麗な私のことを崇め奉りなさいってことですわよね?
いやはや抜け目がないですの。ホントに。
そういえばスピカさんはわりと真摯な女神教の信者さんでしたものね。
こうして実物に見えられた現実に、そして直接褒められてしまったことに大興奮してしまっていることでしょう。
実際、貴重な体験だと思いますの。
私はもう慣れてしまいましたけれども。
にこやかに見守ってさしあげます。
と、ここで大興奮を抑えきれないのが、スピカさんが私の袖の辺りを引っ張りなさいましたの。
どうやら何かを言いたげなご様子で。
すかさずスッと耳を近付けてますの。
黙って聞いてさしあげますわね。
「えっとさ、あのさあのさっ。確かに女神様って超絶綺麗な方だと思うんだけどさっ。見た目っていうか雰囲気っていうか、どことなくリリアちゃんに似てる気がするんだよね」
「うっふふ。なかなか良いところにお気付きになりましたわね。さすがはスピカさんですの」
『ええ。まったくその通りですね』
「ほぅわぁあう!? 何で聞こえてるの!?」
驚き後ずさるお姿のお可愛らしいこと。
そういえば私もイッチバン最初にお会いしたときはまったく同じ反応をしてしまいましたっけ。
幼少の頃を思い出して、ちょっとだけ懐かしくなってしまいました。
私の口から補足させていただきます。
「女神様は読心術を使うのに長けていらっしゃいますの。ゆえに小声で話したところであんまり意味はありません。基本、思考も発言も全てが筒抜けだと思った上でお話していくのが一番スムーズでしてよ」
「ひぇー……なんかすっごい……」
『もちろんのこと、リリアーナさんの失礼な物思いも全部私に届いていますからね』
ふ、ふっふんっ。
私も全部そうだと理解した上でやってますの。
ずぅっと手のひらで転がされ続けるのもアレなんですもの。
ガチお説教されるまでは自由にさせていただきましてよ。
というわけですので、会話の主導権は私に握らせていただければと思いますの。
えっと、私と女神様の容姿が似ている、という点についてでしたわよね。
僭越ながらご説明させていただきますの。




