私のことを直接ご監視なさるのでございます
「そんでさ。真夜の日の秘密ってのはコレだけ?」
引き続き私の角をモミモミとなさっているスピカさんが、普段と変わらぬ飄々とした感じでお尋ねしてくださいました。
「むむ。コレだけとは何ですのコレだけとは。スルーしていただけるのはありがたい限りですけれども」
私の見た目がこんなのでも別に気にしない、と。
私が何者であっても関係ない、と。
その言動をやはり体現なさってくださるようです。
本当に頼もしくてありがたい限りですの。
胸の内に渦巻いていた不安が無くなった以上、これからは怯えず隠れず堂々と真夜の日を迎えられるようになったわけですけれども。
それはそれとして。
ワクワク心もまだ捨てないでくださいまし。
隠してきた事実は一つだけではありません。
お次は〝聖女〟としての新たな話題ですの。
「むしろここからが本題かもしれませんわね。ちょっと複雑めお話になってしまいますが……聞いてくださいまして?」
「おっけおっけ。今更何でもドンと来い」
「多分こっちのほうがビックリなさるかと。実際にお呼びしたほうが手っ取り早い気がいたしますが、一応、先に伝えるだけお伝えいたしますわね」
平手をパチリと合わせて、半ば強制的に私のトークターンにさせていただきます。
スピカさんも私の真剣な表情を見てか、パッと角から手を離して、静かにお膝に乗せてくださいましたの。
ふふ。お手本のような拝聴モードですわね。
それではどうか心して聞いてくださいまし。
「こっほん。私は普段は純度99.9%の人間ではありますが、こうして真夜の日にだけは先祖還りが起きてしまって、魔族の身体的特徴が表れ出てきてしまいますの。すると、どうなるか」
「どうなっちゃうの?」
「なんと女神様のご加護が外れてしまうのでございます」
「ありゃりゃ。そりゃ大変だ」
ええ。大変でしてよ、そこそこに。
メリットもデメリットもたくさん浮き出てしまうのでございます。
ここで今一度、女神様のご加護をおさらいしておきましょう。
ご加護は治癒魔法の才能をスパパーンと強化してくださいますが、代わりに私の純潔を守らんとするがために、余計な貞操帯までを付与してきますの。
どうやら女神様は清き癒しのチカラと清き身体の両方が聖女たらしめる絶対的要因だとお考えらしく。
言いたいことも分かりますけれども。
個人的にはイイ迷惑なんですの。
完全な善の押し付けでしてよ、押し付け。
私だって自由恋愛したいんですのに。
女神様の加護が外れるとどうなってしまうのか。
それはつまり、私は治癒魔法が下手になってしまう代わりに、いろんな意味でこの身体を好き勝手に扱えてしまうということに他なりません。
ふふっ……ふふふっ……。
貞操帯がまるっと意味を無くしてしまうんですもの。
もはや勝ったも同然ってコトですのッ!
ただでさえ好色かつ開放的な私の性格を考えれば、お股間のノーガード状態はフルウェルカムと同じような意味を持つとお分かりになりますでしょう?
無論、魔族の見た目と聖女の身分の両方を隠して、男漁りに走った夜も幾度となくございます。
セイなる一夜のためなら見た目のコンプレックスなど多少は我慢いたしますのっ!
それはもうこの一瞬の大隙を狙って、前々から計画を練りに練って、身も心も悶え果てるような熱ゥい一夜を過ごそうと、あらゆる手段を画策してまいりましたけれどもッ!
……しかーしッ!
今まで、全て徒労に終わっております。
といいますのも。
「誠に残念ながら、真夜の日はご加護が外れてしまう代わりに、女神様が地上にご降臨なさって、私のことを直接ご監視なさるのでございます。
おかげさまでなーんにもできやしませんの。ホント商売上がったりでしてよ、まったくぅ」
唇を尖らせてご機嫌斜めを演出しておきます。
「ふーん、そっかぁご降臨……って、え?」
「もちろん今日ももれなく来ていらっしゃいますの。今は単にお姿をお隠しなさっていらっしゃるだけで、呼んだらすぐに現れ出てきてくださると思いますの。わりと自己顕示欲高めな方ですし」
「え、ええぇぇえぇぇーっ!?」
ただでさえ普段から信徒にチヤホヤされるのを是としていらっしゃるような方ですからね。
聞いたところによれば、たまーに適当に人里に姿を晒したりして、都合の良いように神託を下して信仰心を煽るようなコスいこともなさっているようで。
むしろ日々ヨイショされるために全力を注いでいるようなお茶目さんですの。
信徒の私が言ってよいものか甚だ疑問ですけれども。
とりあえず実際にお会いしてみるのが一番だと思いましてよ。
むしろ今すぐ会ってくださいまし。
そして私の心労を共有してくださいまし。
本当に私以上に癖の強い方なのでございます。
というわけで問答無用に呼んじゃいますわね。
早速ながら心の準備はよろしくて?
「では、お呼びいたしますわね」
「う、うん……」
「こっほん。リリアーナ・プラチナブロンドが乞い願いますの。どうか女神様。敬虔なる私どもにその御身をお見せくださいまし」
パンパンと手を叩いて、ちょこんと座りながらも仰々しく首を垂れさせていただきます。
こういうのは雰囲気が大事なんですの。
少しでも敬っている感を出しておいたほうがスムーズにコトを進められますし。
コレは慣れと経験から来る最善&最短策なのです。
更に追言してヨイショさせていただきます。
「ああ女神様。この声が届いていらっしゃるのであれば、どうかそのお美しいお声で、私どもに直接神託をお聞かせくださいまし。ははーん。平伏して乞い願わせていただきますのー」
ほら、スピカさんも私と同じように頭を垂れてくださいましっ。
重ね重ね申し上げますが、無駄に仰々しくしておくのが一番のポイントですの。
言葉の意味自体はどーでもいいのです。
虚言とお世辞で塗り固めておけばだいたいセーフなんですの。
ひとまず二人してシーツに突っ伏しておきます。
一呼吸分だけ、お待ちいたしましたところ。
『よろしい。特別に聞き受けました』
私の脳内か、それとも耳の内側か、あるいは心の中に直接か――どこからともなく、それはそれは透き通った声が聞こえてまいりましたの。




