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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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ほら、このとおりパタリ、と

 

 ふぇぁ〜……なんとか上手くいったようでよかったですの〜。


 結果としては誰も傷付かずに済みましたの。


 確かにチカラを極限まで解放してしまえば彼らを本当に地中深くまで埋め込んでしまうことも可能でしたから。


 けれどもそれは諸刃の剣とも言えるのです。


 私には誰かを殺めたい欲求など毛先ほどもございませんし、何より一人のイチ聖職者としての自覚とプライドがございますもの。


 殺めた後ろめたさを抱えたままこの先の人生を過ごせるほど、私は厚顔無恥ではないつもりでしてよ……。


 たとえその行為が正当防衛と認められる状況なのだととしても、私にはきっと荷が重すぎるのでございます。


 こんな誰よりも卑怯者で小心者で、おまけに虚勢と過剰なお嬢様言葉で塗り固めただけの、ただただ美人なことしか取り柄のない乙女になんて……。



「何にせよ危機一髪回避の瞬間でしたのー……」


 そのまま天を仰ぎ見させていただきましたの。


 どんよりと灰色掛かった雲が薄く広がっております。

 湖の方角の空には晴れ間が見え始めております。


 おそらく雨は降らないとは思いますが、日もだいぶ傾いてきておりますゆえ、そろそろ灯りを用意しておかないと何も見えなくなってしまいますの。


 無いとは思いますが、万が一の奇襲に備えて結界魔法を張っておきませんと。


 重さの異能を発動したせいでだいぶ身体が重くなっておりますが、守りを固めておくのは聖女の務めなのです。


 軽く息を整えてから残った気力を振り絞ります。


 もはや空っぽにも近しい魔力をやっとの思いで練り上げて、天に向けて手を掲げます。


 ふるふると震えながらも指を振りますと、先端から淡い光が溢れ始めてくださいましたの。


 スピカさんが建ててくださったテントを中心に、周囲一帯を光の薄膜で覆っておきます。


 これで誰かが侵入してきたら一発で分かりますわね。


 おまけに悪意を抱く者が触れた際には、女神様の(いかづち)がバチリと走ってしまう仕組みにもなっております。


 そこそこ大きな音も鳴りますので、敵感知と防衛を一度に行えてとっても便利なのです。


 ちなみに私の完全オリジナル魔法ですの。


 原理自体は私の貞操帯を大いに参考にさせていただきましたけれども……!



「ふぅむ……これでおっけですの……ふわぁぁふ」


 まぁ何にせよ、これで私の役目は一旦完了したと言えましょう……。


 正直もう、(まぶた)を開き続けていることさえしんどくなってまいりましたし……。


 はぁ……これだから異能の発動はイヤなんですの……。

 全然コスパがよろしくないですの……。


 もはや小指の先も動かせそうにありません。


 少々はしたないですが、このまま地面に横たわらせていただいて、心と身体を休めるために一眠りさせていただきましょうか。



 ほら、このとおりパタリ、と――




「リリアちゃん!? 大丈夫ッ!?」



――思考を滲ませ始めたその瞬間、柔らかくて温かな何かが私の頬に触れました。


 本当に最後の気力を振り絞って目を開けてみます。


 それがスピカさんの手のひらだと気が付けたのはそこそこ後になってからでしたの。



「あら、スピカさん……ご無事で何よりでしたわね……」


 素直に微笑んでさしあげます。


 そういえばそうでしたの。


 私が〝重さの圧〟を解除したということは、強制的にうつ伏せにさせられていたスピカさんも、晴れて自由に身体を動かせるようになったというわけです。


 力なく横たわる私の姿を目にして、必死に駆け寄ってきてくださったのでございましょう。


 ありがとう、ございますの。


 ひとまずご安心くださいまし。

 彼らは無傷で追っ払えましたから。


 その分ちょーっとだけ無理を重ねて、体力と気力のほとんどを消費し切ってしまいましたけれども……。


 こればっかりは仕方のない反動ですの……。



「ああ、チンピラさん方のことなら大丈夫でしてよ……。彼らったら、私に恐れをなしてスタコラと逃げ去っていきましたの……。ついでに周囲に結界も張っておきましたから……これでようやく、一段落……」


「うん、うん……!」


「あの……もし、よろしけれ、ば……私を……テントの中に、お運、び、いただ……け……」


「リリアちゃん!?」



 ああ、もうダメですの。


 これ以上は、意識が保てな――




――――――

――――


――




 何か、夢を見ていたような気がいたします。



 私がとっても幼い頃、大好きだった誰かと一緒に遊んでいたような……そんな、儚くも穏やかで、温かな淡夢を……。



「……ゔぅぅ……行かない……で……っ」


「リリアちゃん!? 起きた!?」


「……はっ!? ここは!?」



 最初に目に映ったのは、心配そうに私の顔を覗き込むスピカさんのお姿でございました。


 目を動かして周囲を確認してみますと、淡いオレンジ色の灯火ランプに照らされた……おそらくここはテントの中でしょうか。


 どうやら気を失っていた間に運び入れてくださったようです。


 さすがは今代の勇者様ですの。基本非力でひ弱なスタイルの聖女とは根本から鍛え方がちがいますのね。


 徐々に思考がはっきりしてくるにつれて、あやふやだった夢の記憶が更に霧散していきます。


 懐かしいような、悲しいような、しかしながら嬉しいような、そんな夢でしたの。


 今はもう内容を思い出すことはできません。


 ……ぼーっと呆けていても、目の前のスピカさんをより心配させてしまうだけですわね。



「私、どれくらい眠ってしまっておりまして?」


「んーと、ザックリで半日かな。ついさっき日付を跨いだくらいだと思うよ」


「あらぁ。我ながら中途半端な時間に目覚めてしまったものですわねぇ……っとと」


 残念ながらまだ指先が震えておりますの。

 腰にも足にも上手く力が入りません。


 久しぶりに異能を発動したことですし、まぁ無理もありませんか。


 完全回復するまで丸一日ほど掛かってしまいましょう。どのみち今は真夜中ですの。


 朝まではじっとしている他に手はございませんものね。


 気長に待ちましょうか。



「それでね。リリアちゃんが眠っちゃったすぐ後のことなんだけどさ……」


 

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