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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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さっさと平伏しなさいまし

 

 ポカンと口を開けたままのスピカさんでいらっしゃいましたが、しばらくしたのちにハッと元に戻られて、その後すぐにほんのり困り眉になられましたの。



「で、でもリリアちゃん。前に攻撃魔法は扱えないって」


「正確には、扱うには面倒かつ後払い(・・・・・・・)な制約がある、とお伝えしておくべきでしたわね。少なくともおいそれと普段使いできるような代物ではございません。ゆえに扱えないと表現させていただいたまで」


「後払いの制約って?」


「詳しくは〝真夜の日〟に。いずれは打ち明けねばとも思っておりましたし、案外ちょうどよかったのかもしれませんわね」


 とりあえずはにかみがちに笑って誤魔化しておきます。


 今は事細かにご説明している暇はございませんの。


 普段は勝手に発動しないように心掛けておりますゆえ、いざ使うと決めた際は結構集中しなければなりませんもの。



 今から私が扱う魔法――というよりも、正確には私が元来から有していた異能のチカラ(・・・)と呼ぶべきシロモノは。


 この私自身でも完全には制御しきれていないほど凶悪なモノなんですの。


 女神様の加護を受けるようになってからは、尚更に厳重に封印しておくよう努めてまいりました。


 ……あの人、コレを使うとあんまりイイ顔をなさいませんし。かなり怒られてしまいますの。何度夜通し正座の姿勢で説教を受けてしまったことか……。


 それに私自身もまた、行使した直後はかなりの倦怠感に苛まれてしまって、その後に迎える真夜の日がいつもよりももっと大変なことになるのですし。


 あくまで私の異能のチカラは奥の手であり、隠れた虎の子であり、普段は引き出しの隅にしまっておくべき必殺のヘソクリなのでございます。


 ……今がその解放のときだと思いますの。


 未だ不安の色が絶えない彼女の肩をポンと叩きつつ、ご安心しなさいましと伝える代わりに、大人の余裕な笑顔を見せてさしあげます。


 

「ま、この私を信じてお気楽に見ててくださいまし。パパパッと軽ぅく片付けちゃいますゆえに」


 ふふっ。でも、ちょっとだけ、悔しいんですの。


 私、努力や鍛練があまり好きではない人間ではありますけれども。


 それと同じくして、この世に生きる一人の常識人として、何の苦労もなしに手に入ってしまったモノについては総じて価値がないとも思ってしまっているのです。


 ゆえにこのチカラ然り、聖女のチカラ然り。


 ただ偶然に得てしまっただけの私には、あまり価値はないんですのよねぇ、と。


 異能のチカラを使えば使うほど……。

 自虐の心がドンドンと満ち溢れていってしまいます。



 それでも……誰かを守るために行使できるというのであれば、少しは気が楽になれますでしょうか、


 未だ少々息切れをなさるスピカさんを背中に守るようにして、私がチンピラさん方の前にドドンと仁王立ちをしてさしあげます。


 その流れで腕を組んでキッと相手方を睨みつけて、即座に臨戦態勢の構えを取りますの。



 早速発動してさしあげ――ようと思ったのですけれども。


 お一つ、大事なことを忘れておりました。


 チラリと彼女のほうに振り向いて、茶目っ気を含めたウィンクと共にお知らせしてさしあげます。



「先にお伝えしておきますの。残念ながら私は、これから扱うチカラを100%掌握できているわけではございません。一度発動を許してしまえば、それこそ私の意思決定に関係なく、誰しもに平等に作用してしまいましょう」


「えっ……えぇっ!? ホントにソレ大丈夫なの!?」


「ですからどうか耐えてくださいまし。私も何とか頑張って制御を試みますの。何もしないよりはいくらかマシになりますでしょうから」


 詳しくは実際にご体験いただければ分かりますの。


 特に貴女は小柄で体重も軽いですから、ムキムキでゴツゴツのチンピラさん方に比べれば負荷は相当少なく済むはずです。


 ふふっ。おそらくきっと、多分大丈夫ですの。


 少なくともコロっと逝ってしまったりするようなモノでもございませんの。


 せいぜいお召し物が汚れて、地面とキスすることを余儀なくされてしまうだけの、簡単なお話ですのっ!



 というわけですので改めてチンピラさん方に啖呵を切ってさしあげます。


 すぐさま目が合いましたの。

 ホントに憎たらしい顔をしていらっしゃいます。


 しかしながら、私たちの秘密の打ち合わせをお待ちいただいていたことには一応は感謝しておきましょうか。


 普段からそういう紳士的な部分をもっと表に出してみなさいまし。


 今のゴロツキ感よりはずっとモテると思いましたよ?

 今日を心を入れ替える記念日にしてみたらいかがでしょうか。


 私がお手伝いしてさしあげますわね。


 簡単に手を出してはいけない相手がいるということを、身を以ってご記憶しておいてくださいまし。



「アナタ方、筋肉増強を試みたのが運の尽きでしたわね。たしかにスピカさんの小刃(ナイフ)は弾き返せたかもしれませんが、お次の私は一筋縄ではいきませんの」


「アァン? 次はオメェが相手してくれンのかぁ? 負けたらどうなるか、分かってんだろうなァオイ」


「勝手な皮算用はお見苦しくてよ。今のうちに大きく息でも吸っておいたほうが身のためかと思いますけれども。堪える準備はよろしくて?」


 一応、先に忠告はしておきましたの。

 後で後悔なされても知りませんからね。



 フッと不敵に微笑んでさしあげたのち、天に向かって右手を大きく掲げます。


 ゆっくりと下ろして、彼らに手のひらを向けて。


 そうして一言、言い放ってさしあげます。


 普段の喋りのテンションとは雰囲気をガラリと変えた――とにかく冷たくて、声色低くて、誰よりも傲慢さと艶やかさに満ち溢れさせたような、トゲのある声で。




「頭が高いですの。さっさと平伏しなさいまし(・・・・・・・・)



 ドギュウウウウン、と。


 私の身の周り以外の空気が一気に重く(・・)なりましたの。


 それはもう、空や大気がそのまま質量をもって落ちてきたかのように――目の前の彼らにも、そして近くにいる彼女らにも、等しく重く降り注いでいったのでございます。


 目には見えない圧が周囲全体にのしかかります。


 周りに生えている草木は既に地面に力無く倒れ込み、湖の水も何かに抑えつけられているかのように、ワナワナと細かな振動を繰り返しておりますの。



「ングッ……!? なンだァコレ……立っていられネェ……!?」



 あらまぁ情けないこと。案外倒れるの早かったですわね。


 発動した始めこそ耐えていらっしゃったようですが、赤チンさんが先に膝から崩れて地面に突っ伏しますと、後を追うようにして青チンさんのほうも無様に這いつくばりなさいましたの。


 肘を軸にして何とか抗おうとなさっておりますが、見えないナニカに押しつぶされてしまって、少しも身動きができない状態になっていらっしゃいます。



「……リ、リアちゃん……! これ……っ!?」


 か細い声にチラリと振り返って見てみれば、スピカさんもまた、険しい表情で地面に突っ伏せられていらっしゃいましたの。


 生まれたての子鹿のようにプルプルと小さく震えていらっしゃいます。



 勇者として厳しい鍛練を積んできたはずのスピカさんでさえ抗うことができない、絶対的な威圧のチカラ。


 これが私が物心ついた頃には既に有していた〝重さ〟を操る能力ですの。


 聖女の癒しの魔法とは程遠い……誰かを傷付けたり屈服させたりすることしかできない、凶悪すぎる負の異能なのでございます。



 率直に申し上げまして。


 私は、この強すぎるチカラが大嫌いですの。


 

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