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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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やるんですのね!? 今ここで!

  

 深く被った灰色フードの内側で、彼女の赤い瞳が一際怪しく輝きなさいましたの。


 ニヤリと歪んだ口元にはお子ちゃま八重歯が見え隠れしております。


 まるで重さを感じさせないような軽々とした歩みで、私たちのほうに近付いてきましたの。


 そうして、下から仰々しく顔を覗き込みなさいまして。



「ホントはアタシが味見してやってもよかったんだけどさ〜。ただ相手するだけっても面白くないし。だから今、依頼主に会わせてあげるわね」


 一瞬だけ無邪気そうな微笑みを見せたかと思いますと、次の瞬間にはスンと元の姿勢にお戻りなさいましたの。


 そのまま即座に細腕を高く掲げて、パチリと指を鳴らしなさいます。


 もちろんコレといった障害物も何もない湖ですので、見事に辺り一体に響き渡りました。


 すると……ふぅむ!? どういうことでしょう。



「くくく。ようやく出番かァ?」


「待ちくたびれてたところだァ」



 次に耳に届いてきたのは何故だか男性のお声でしたの!


 彼女の左右の空間に色が付き始めたかと思えば!?

 だんだんと人の姿を形成していくではございませんかっ!


 それも一人だけではございませんでした。

 二人分の人影が一度に姿を現したのでございます。


 どちらも全体的に筋肉質で、かなり屈強そうなお身体は……いえ、ちょっと待ってくださいまし。


 私、このシルエットを……!


 つい最近に見たような記憶がございますのッ!



「ま、見えねえところから不意打ちしてヤらなかっただけ、俺らの優しさに感謝してもらいてェもんだぜェ。なぁ、あんちゃんよォ?」


「おうよ全くだ。へっへっへっへっ」


 下卑た笑い声と共に、ついにその全身が露わとなりましたの。


 上半身はほぼほぼ裸で、見て分かるくらいに古傷だらけで、おまけに私の背丈ほどの大きな戦斧を背負っていて、更にはまるで鶏のトサカのように髪を立たせているこの風変わりな殿方たちは……ッ!?



 そう。あれは私たちがトレディアの街に初めて足を踏み入れた日のことだったでしょうか。



「アナタ方、先日の冒険者ギルドで(たしな)めてさしあげたチンピラさん(・・・・・・)方ですわよね!?」


「よーゥ憎たらしい小娘(ガキ)ども。覚えててもらって光栄だよ」


「ああ。その節はお世話になったよなァ?」


 ギルドの受付様にダル絡みをなさっていた、あの逃げ腰チキンのチンピラさんご両名が、この地に姿を表しなさいましたのッ!


 ちなみに赤いトサカが右側で青いトサカが左側です。


 どちらもいかにも人のワルそうな笑みを浮かべていらっしゃいます。


 なんとまぁ、あの日見たまんまのお姿ですわね。

 何一つとして紳士的な成長が見えてきませんの。


 やはり顔付きからして品性のカケラも感じられません。


 あのイザコザ以降は街の中では一度も見かけてはおりませんでしたゆえ、とっくの昔に立ち去られたものだと思っておりましたけれども。


 まーだ街のお近くに潜んでいらしたんですのね。

 大した度胸とご神経をお持ちのようで。


 それだけに飽き足らず、私たちをこんな人気のないところに誘い出したということは、おおかた先日の辱めに対する復讐でも行いたい腹積もりなのでしょうか。


 はーぁっ。モテる女は辛いですわね。

 本当にイヤになっちゃいますの。


 無駄に押し売りしていた喧嘩につい口を出して買ってしまったツケを、こんなところで払わなければいけないだなんて。


 これだから脳みそのほとんどを筋肉で埋めていらっしゃるような方々はご面倒極まりないんですの……っ!



「それにしても男らしくない方々ですこと。こんな回りくどいことをなさらずとも、決闘なら喜んで受けて立ってさしあげましたのに。

もしやそんなに人前で負けるのがお恥ずかしいんでして? アナタ方のお腰にぶら下げたソレはただのお飾りですの? ちっちぇですわよ、色々とッ!」


「いやァなに。途中で観客共からストップを掛けられちまっても面倒だからなァ? ヤるならトコトン最後までヤらねぇと気が済まねえタチだからよォ。俺たちってヤツはなァ。へっへっへっ」


「あら。お下品さも相変わらずのご様子で。さすがの私でもまったく食指が動きませんでしてよっ。しっしっ」


 何度でも言わせていただきますの。

 おととい来やがれでしてよ。


 だって以前にも申し上げましたでしょう?


 今のご時世、不躾なオラオラ系は流行りませんわよって。


 実際のところ、今もなお私の殿方好き好きセンサーはピクリとも動いておりませんもの。


 確かにその割れた腹筋やら太くて逞しい腕やらは魅力的に見えるのですが、アナタ方からはそれを大きく上回るほどの強烈な嫌悪を感じてしまっているんですの。


 正直反吐が出ましてよ。ぺっぺっ。


 清潔さも聡明さも感じられないような方に抱かれてみたいと思うほど、私は軽い女ではおりませんの。


 今すぐに魔除けの光魔法でもぶつけてさしあげましょうかしら。


 性懲りも無く私たちに襲い掛かるおつもりなら、正面から正々堂々と返り討ちにしてさしあげましてよ。


 ……も、もちろんッ!

 ここにいるスピカさんが、ですのっ!


 だ、だだだって私はっ!

 表立っては戦えませんものッ!!


 それこそマジめのガチめの超絶ピンチな状況にでもならなければ、ですのッ!!!


 そうはならないと信じているからこそ、いつもスピカさんに託しているんですのッ!!!!



「ってなわけでやるんですのね!? 今ここで!」


 一応スピカさんの顔色を窺っておきます。



「それが一番早そうっかなー。この人たち、口で言っても分からなそうだし。実力差見せつけたらさすがに黙ってくれるでしょ」


 ふぉーう。さっすがの余裕ですの。

 自信の程度が違いますの。頼りにしてますわよ。


 コレを機に当面の間はスピカ(ねえ)さんとお呼びしてさしあげましょうか?


 ご安心くださいまし。もちろん冗談ですゆえに。


 とりあえず正面に相対するチンピラさん方に睨みを飛ばします。


 向こうも向こうで睨みを返してきましたの。


 赤トサカのチンピラさんが酷い嫌味面で続けなさいます。

 

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