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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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シンとかハンって、つまりはどういうこと?

 

 すーっと大きく息を吐いて、それより少しだけ小さく息を吸って、最後にふっと微笑んで。

 


「私は戦争孤児(・・・・)でしたの。ここよりずっと北の山脈付近で育ての親を亡くして、一人彷徨っているところを王都の方に拾われましたの」


「戦争孤児……え、あ、だけどもう300年近くも休戦してるんだよね? 魔王と人類ってさ」


「ええ。仰る通りですの。しかしながら王都から離れた地では毎日のように無益なイザコザが起こっているとも耳にしております。場所によっては今も結構な血みどろ騒ぎだとか」


「ち、血みどろって……っ」


 信憑性のほどは分かりかねますけれども。


 私たちが今いるこの近辺はまだ王都の影響下にありますの。

 それゆえにある程度の治安と平和意識は維持されていると言えましょう。


 ゆえに休戦相手への差別心とか偏見とか、そういったつまらない考え方はほとんど根付いていないのに等しいのでございます。


 ほら、このトレディアの街が良い例ではございませんか。


 ここは東西南北、各地出身の方々が一堂に会する商業の拠点的な土地ですの。


 どんな人であれ種族であれ、誰しもが好きに仕事をして、好きにお金を稼いで、そして好きに暮らしておりますわよね?


 気難しいことで有名なドワーフさん方だって職人街の一角にドドンとお店を構えていらっしゃるくらいなんですし。


 最初に立ち寄ったアルバンヌの村だって同じような空気感だったでしょう?


 私たちがほんの少しの仲人をしただけで、ヒトとゴブリンさんとが仲良く一緒に小麦を作れるようにもなれましたの。


 そこに有ったのは無知と言葉の壁だけなのです。


 お互いを本気で憎み合っていたのであれば、そもそも歩み寄ってみようと思えるはずがありません。


 このように広い目で見てみれば、世の中には休戦と平和の意識が確立されつつあると言っても過言ではありませんでしょうね。


 戦争の時代は次第に過去のものとして風化していって、先代たちが結んた休戦協定(仮初の平和)が、また新たな時代を築こうとしているのは紛れもない事実なのでございます。



 ――それでも。しかしながら、ですの。



「人類《私たち》のお国が複数に分かれているように、魔物や魔族(あちらさん)だって全ての種族が一律に魔王の意向に従うほど、一枚岩にはなっていらっしゃらないんでしょうね」


 現に、世界には休戦を是としていない方々もいらっしゃいますの。


 その理由は相手方への復讐心だったり、報復であったり、もしくはお金儲けのタネであったり……。


 それこそ嫌悪の意識を抱く方は、戦火のド真ん中に晒されたご地域や、直接的に辛い思いをされた方々など、人よりも寿命が長い方々に多いと聞いたことがございます。


 それこそ魔物や魔族の皆さま、ですわね。


 魔王の管轄領に近付けば近付くほど、水面下での人類側と魔王側の軋轢は増していくことでしょう。


 おそらくの境界線は、広域地図に載っていた北の山脈地帯の辺りではないでしょうか。


 あの大きな山々が文字通りの障壁となって文化の混じり合い自体を遮っているはずです。


 地図を読めない私にだって分かるくらいですの。


 ゆえに率直に申し上げまして、越えた先の治安は何も保障できませんでしてよ。


 表向きには休戦中だとは言え、勇者と聖女が招かざる客なのは疑いようがありませんもの。


 現地でどれだけのアウェーな洗礼を受けることになるのか……想像もしたくないですの。


 それに、一番には、アレですわね。


 この世に存在する全ての魔物さんや魔族の方々が、キチンと話の通じる理性をお持ちだとも限らないのです。


 脳筋好戦野郎さんと対峙してしまった際には、結局は実力で退けてさしあげるしかないのでございますっ。


 いわゆる境界線の向こう側は、チカラこそパワーの世界になっているってことですのッ!



「イザコザってヤツも、ほとんどは〝親・魔王派〟と〝反・魔王派〟の間で起こってるのよね。その周りが割りを食っちゃってるって感じ」


「あらミントさん。よくご存知のようで」


 珍しく私の発言に肯定の意で乗っかってきてくださいましたの。


 そのまま彼女がやれやれ顔でお続けなさいます。



「つーか、無駄に騒ぎを大きくしてるヤツもだいたいは〝反・魔王派〟の連中よ。アイツら、鍋底の焦げ付きよりもタチが悪くてさぁ。まったく、所詮ざーこの分際でぇ……」


 まるでその現場を実際に見てこられたかのように、感情のこもった情報をご提供してくださいましたの。


 むしろ最後のほうは、先ほどまでのガキンチョ感がまったく感じられない、酷く疲れきったような声色でお呟きなさったのでございます。


 ……ふぅむ。

 それににしても、本当にお詳しいんですのね。


 派閥についてはこの近辺ではあまり出回っていない超内々向けな話題なんですのに。



「アナタ、少しは分かるクチみたいですのねぇ。そちらの情報、どこで仕入れ(・・・)なさいまして?」


「アンタこそやけに詳しいじゃない? そんなアホ面晒して歩いてるわりにさ」


「むっ。これはアホ面じゃないですの。誰もが羨む天性の美人顔ですのっ。

……私の場合、王都の修道院には良くも悪くも様々な情報が入ってきておりましたゆえ。ちょーっと隠れて聞き耳を立てていれば、この程度はペロッと朝飯前でしてよ」


「ふーん。なるほど、へぇー」


 尋ねてきたわりには興味なさげにそっぽを向いて、それ以降ミントさんは特に何も仰いませんでしたの。


 灰色のフードをより深く被って、ツンと口をつぐむようにして、またスタコラと早歩きを始めなさってしまったのでございます。


 ポツンと独り取り残されてしまっても悲しいだけですし。


 私もまた静かに彼女の背中を追わせていただきましたの。




「あのさあのさっ。話戻すようでゴメンなんだけどさっ。シン(・・)とかハン(・・)って、つまりはどういうこと?」


「あらまぁ。ふふっ」


 まったく空気を読まないスピカさんが、今はとっても素直で愛らしくて逆に頼もしいですの。


 しゃーないですわね。

 特別にお答えしてさしあげましょうか。


 貴女に教える側になることなんて早々ありませんしっ。


 なんだか鼻が高いのでございます。

 

  

〝親・魔王派〟と〝反・魔王派〟

 

コレ、テストに出るらしいですよ

(*´v`*)

 

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