いつも以上にキュッと引き締めておきましてよ
その後、依頼主のミントさんとは一旦別行動いたしまして、私たち二人はお宿のほうに野営用の道具を取りに戻りましたの。
朝早くから出てきた甲斐がありましたわね。
今から出発すれば夕方までには目的地に到着して、ほぼ確実にキャンプテントを張り終えることができるらしいですの。
さすがに余裕のヨっちゃんですわね。
先ほども申し上げたとおり、頑張って日帰りを試みるくらいなら、現地に泊まったほうが色々と楽なのでございます。
私たちはもうキャンプは慣れっこなのですし。
日帰りしなければならない理由も特にありませんし。
全報奨金の支払いは行って帰ってくるまでが条件でしたものね。
ミントさんのご用事が片付くまでどれほどの時間が掛かるか分からない以上、数日の猶予を用意しておくくらいがベストかと思われます。
ちなみに、私たちが愛用しているのは狭い二人用テントですの。
更にもう一人寝られるようなゆとりまではございません。
とはいえ今回のミニ旅には華奢めな乙女しかおりませんし、各々が本気で縮こまればギリギリ収まりはするかもしれませんわね。
おしくらまんじゅう状態でなら寝れるかもってことですの。
スピカさんならともかく、あの人の性格を考えればそれを是とするとは到底思えませんけれどもっ。
お財布事情も厳しい今、さすがにお客様用の新たな宿泊グッズを買い足せるほどの余裕はありません。
狭いのが嫌ならご自分でご用意くださいましっ。
さすがに衣食住の面倒は見切れませんのっ。
結構な額の前金をいただけるのだとしてもっ。
「というわけで、そろそろ出発いたしましょうか」
「そだね。護衛任務頑張ろっ。前は任せてね」
「ならば私は後ろのほうですわね」
いつも以上にキュッと引き締めておきましてよ。
もちろん気合いのほうですけれども?
ふふっ。他にナニがあると仰いまして?
そんなこんなの経緯はございましたが、昼前には無事にミントさんとも合流できましたの。
待ち合わせは町外れの門の下だったのですが、意外にもどちらも遅刻をすることもなく、すんなりとミニ旅を始めるに至れたのでございます。
一応は護衛の任務ですゆえ、横一列ではなく隊列を組んで進みますの。
これから辿るはメインの街道からは一本外れた道ですが、毎シーズンのキャンプ客によって踏みならされているせいか、歩きにくさ自体はあまり感じません。
背の低い草原の間に、一目見て分かるくらいには土肌の獣道ができているようです。
元より旅を始めてからずっと歩き続けてきた私たちなのです。
足も腰もかなりガッチリしておりますの。
多少の凸凹ぐらいなら気にも留めませんわね。
「いやぁー、なんだかピクニック気分だよね。気を抜いちゃダメなんだけどさっ。ずーっとリリアちゃんと二人旅だったから、もっともっと賑やかになるのは大歓迎かも」
「やいのやいの言いながら歩くのは楽しいですわねぇ。いただいた前金でおやつの一つくらいは買ってもよかったかもしれませんの。道すがらのお口が寂しい感じですの……」
「あ、紐飴買っといたけど食べる?」
「うぉっほうっさっすがスピカさん! 甘味の大事さを分かっていらっしゃいますことっ!」
是非とも飴をしゃぶしゃぶいたしますのっ! しゃぶっ!
さてさて。
ただ今はスピカさんを先頭として、その後ろ側にミントさんが、その更に後ろを私が見張るようにして道を歩いております。
脇から魔物でも飛び出してくれたら護衛感も出るのでしょうが、いかんせん平和な街から伸びる一本道ですからね。
正直、魔物の気配はおろか、私たち三人以外の気配さえ感じることはできません。
時折立ち止まっては息を吐いて、お茶休憩を挟めるくらいにはリラックスできてしまっているのでございます。
いくら足腰に筋肉がついたとは言っても、終始歩き詰めでは体力か保ちませんからね。
長旅のコツはこまめな足休めなんでしてよ。
「ほいいまふは、ほいらいぬひさんはいつまれらんまりをひめほまれてうおつもりれひれ?」
紐飴をれろれろと舐りながらお尋ねしてさしあげます。
ただ今ほんのりとした甘さが口いっぱいに広がっておりますの。
すこぶる気分がいいのでございます。
ミントさんってば、冒険者ギルドの建物内でも灰色のフードを深く被っていらっしゃいましたが、それは街のお外でも相変わらずなんですのね。
もしやお召し物のファッション性に強いこだわりがございまして?
それとも何か別の秘密を抱えていらしたり?
ちら、ちらり。
やっぱり背格好が気になってしまいますの。
いけないことだとは分かっておりますけれども。
「ジロジロ見ないでくれる? きーんもぉっ」
「そうだよリリアちゃん。あんまりマナーがよろしくないよ。あと口にモノ入れながら喋るのもね」
「ふ、ふっふんっれっすのっ」
好奇心は猫をもチョメチョメ、という言葉がございますが、私は私の中の違和感を解消しておきたいんですの。
彼女に対する同族嫌悪の気持ちがどこから来るのか、それこそ単なる性格だけか、それとも身体的なところから来るものなのか……。
彼女には私と似たオーラを感じてしまっております。
乙女的な勘だけでなく、聖女的な予感のほうも同時に知らせてきておりますゆえに、ほぼ間違いなくナニかがあるとは思うんですけれども……。
ミントさんと二人っきりになれるタイミングがあれば、軽く問い詰めてみるのも悪くはないかと思いますの。
下手に今からそわそわした素ぶりを見せて不信感を抱かれてしまっても面倒ですし。
そうですの。ここはお一つ。
「……あ、あのっ。たった数日の間柄とはいえ、私たちは同じ道を歩む同士なのですし。お互いのこと、もっと知っておいても損はないと思いませんでして?」
「人のこと聞くならまず自分から。常識でしょ? 習わなかった?」
こちらを振り返りまではなさいませんでしたが、手を腰に当ててやれやれとなさっているのが見て分かりましたの。
ふぅむ。しゃーないですわね。
軽率に悪口を吐けないよう、話術にて絡め取ってさしあげましょうか。
「ふっふんっ。残念ながらおあいにく。私、まともな教育を受けられたのはわりかし大きくなってからでして。何より孤児の出身ですもの。おほほほほほ」
「……ふぅん。アンタも訳アリってヤツね」
「さぁどうなんでしょう。他所様の事情は分かりませんし。
ただ、生みの親は顔も知らず、育ての親は幼い頃に死別して、その後は修道院に引き取られたって経緯は本当の話ですの」
「え、あ、ちょっと!? いきなり重たい感じ!? そういう話の流れだったっけ!?」
あんまり人に打ち明けるようなお話でもございませんが、ミントさんやスピカさんがお望みとのことであれば、お伝えするのもやぶさかではございません。
実際、気にはしておりませんもの。
過去は所詮過去でしかありませんし。
常日頃からなるべく軽いノリをと心掛けている私ではありますが、その逆ができないわけでもないのです。
むしろ己の声や仕草によってその場の空気の〝重さ〟を支配してさしあげることなど、迷える民々を導く私にとっては朝飯前の所業でしてよ。
ふっ。キマりましたわね。
コレでこの場の主導権は私が握ったも同然ですの。
どのみちスピカさんには次回の〝真夜の日〟にでもお伝えしなければならなかった内容ですし。
一応、さわりだけでも話しておきましょうか。
あ、そうだ。
ただいま新しいキャラ挿し絵を制作中でございっ!
よきタイミングで公開しますので
首を長ぁくして待っててくださいねっ!
(*´v`*)