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……いや、なんか妙だなぁって思ってさ

 


 ひぃひぃ、ふぅふぅ、みぃみぃみぃ。


 私、ただ今かなり息切れ気味ですの。



「……ああん、まったく誰ですの……?

直近で寄れそうな村なんて……簡単に宣いなさったのは……!?」


「うーんおっかしいなぁ。そろそろ着いてもよさそうなんだけど。どこかで道を間違えたかなぁ」


「こんな一本道でどうやったら間違えられるんですのぉ……」



 出発から数えて、早くも二晩(・・)が明けてしまいました。


 ずらーっとまっすぐに伸びる街道は今日も果てしなく続いております。


 未だ終わりなどは見えてきておりません。

 ふと思ったのですけれども。


 この道、そもそもの段階で人がひたすらに歩くことを想定されておりませんわよね?


 大抵は馬車でサクっと通り抜けるのが基本中の基本になっておりますわよね!?


 徒歩で進むにはさすがに長すぎましたの。

 絶対に王都にイジメられているにちがいありません。


 行き交う馬車に乗せてもらえたらどんなに楽だったことか。


 残念ながらすれ違った馬車は全て向かう先側から来るモノばかりで、進みたい方向とは逆方向の進路なんですのっ!


 もしも乗ったら王都に逆戻りしてしまいます。


 こんなにも運が悪いことってありまして!?


 ホントにいったい誰ですの!?

 このパーティには強運の持ち主が居るとか何とか宣いなさった大馬鹿者は!?


 はぁぁあーっ。

 早くも足が棒のようになってしまっております。


 ふくらはぎも太腿も既にパンパンのパンなのです。 

 焼き立てならぬ酷使したての熟れお肉です。

 乙女の柔肉が情けなく泣いてしまっているのです。


 日頃の運動不足が目に見えておりますわね。

 過酷ですのぉ……早くも帰りたいんですのぉ……。



「まぁこんなコトもあるさ。のんびり行こうよ。別に先を急ぐ旅路ではないわけだし」


「ほぉんとスピカさんは真面目で健気で幸せそうですわねぇ……そんなにお元気なら私を背負(おぶ)って運んでくださってもよろしくてよぉ……?」


「それじゃリリアちゃんのタメにならないでしょ――あ、ちょっと待って、あれ見てみて」


「ふぅむぅ……?」


 唐突に立ち止まったスピカさんが、その華奢な細腕を持ち上げて、何やら道の(わき)のほうを指差しなさいました。


 そこには小さな看板が立ててありましたの。

 文字自体は掠れていてよく見えません。


 とりあえず二人して駆け寄って、その内容を直に確認してみます。


 古ぼけた赤い塗料でこう書かれておりました。



『アルバンヌの村。この先→』



 ご丁寧にも小さな案内矢印も描かれております。


 指し示す方向を見つめてみれば、確かに街道から外れるように脇に小道が伸びておりましたの。


 二頭引きの馬車がやっと一台通れそうな狭さの砂利道です。


 一応の整備はされているようですが、こんな精神状態では、看板が立っていなかったら見逃していたかもしれません。



「ああっ。ようやく、ようやくなんですのねぇ……!?」


 思わず目頭に涙が滲んでしまいました。

 さすがに三夜連続の野宿はイヤだったのです。


 多少高く付いても構いませんので、今夜こそはちゃんとしたベッドで横になって眠りたいのでございますぅ!


 更に欲を言わせていただけるのであれば!


 持参してきた乾燥携行食を齧るだけの質素なお食事ではなく、もっとこう、焼きたてふわふわなパンに採れたての野菜を挟み込んだようなフレッシュネスなサンドを、お腹いっぱいに食べてみたいんですのぉ……!

 

 想像しただけで涎が垂れてしまいます。

 おおっと。お腹まで鳴ってしまいました。


 既に身も心も限界に近かったのでございます。

 多少はしたないのは許してくださいましっ。


 

 しかしながら、ホッと安堵のため息をついたのも束の間のことでございました。


 私の横に佇むスピカさんが、何やら険しさと訝しさを二で割ったような、複雑そうなご表情を浮かべていらっしゃったのでございます。


 素直に疑問符を投げかけてさしあげます。



「あのスピカさん? どうかなさいまして?」


「……いや、なんか妙だなぁって思ってさ」


「むむむ? と仰いますと?」


 確かにこんなにも王都から離れているのはおかしいと私も思いましたけれども、


 ド田舎の農村ともなれば、多少は仕方ないかとも納得してしまいましたの。


 それとも、もっと別の内容についてでしょうか。


 この私が気付けていない違和感とは……?



 そのお顔を見つめてさしあげます。



「村が近いっていうならさ、少しくらいは麦畑が見えてきてもイイと思うんだ。リリアちゃん、今まで畑とか見えてた? 私あんまり身長高くないし、単に見逃しちゃってただけなのかもしれないけど」


「なるほどそういえば……」


 軽く記憶の中の光景を掘り返してみて、その後すぐに首を横に振らせていただきます。


 少なくとも私は見ておりませんの。


 もしこの瞳に映せていたら、多少なりともテンションが上がって、前に足を進ませるだけのやる気に繋がっていたはずですもの。


 街道の周りは常に背の低い雑草やら青々とした木々ばかりで、少なくとも手入れをされた畑のような光景は今の今まで一度も無かったはずです。


 遠くに見えるのも鬱蒼とした森林だけですの。


 ええ、ですから間違いありません。

 畑なんてものは今の今まで一度もありませんでしてよ。



「……私の気にしすぎだったらイイんだけどね。とりあえず急いでみよっか」


「おっけですの。動かぬ足は気力で何とかしますの。私はヤればデキる乙女ですものっ」


 二人して顔を見合わせて頷いて、砂利道に足を踏み入れさせていただきました。


 ついでに棒のようになってしまったこの足にも軽い喝を入れさせていただきます。


 今はただ、この胸騒ぎが杞憂に終わってくださることを祈るばかりなのでございます。

 



――――――

――――


――



 

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