後ろってことは、おし、えぅぁッ!?
「そっ、それじゃあリリアちゃん。ほ、本当に触っちゃうよ……!?」
「さぁさぁご遠慮なくですの! ただ触るだけではダメでしてよ! なるべくムフフな感じでお願いいたしますの!」
「ななな何度も言わなくても分かってるからぁ……っ」
ふふっ。むふふふっ。
ハタから見られたら今の私たちの姿はどのように映っているんでしょうね。
公共の面前で相方のお股間を弄ろうと赤面なさる美女一人と、それを堂々と受け入れようとする美女が一人だなんて……っ!
ある人によっては桃源郷か、はたまた夢のまた夢か。
どちらにせよ非日常の一片だと思いますの。
ああっ。スピカさんの華奢な指が私の下腹部へと伸びてきております。
誰かが後ろからちょんと小突いたら、すぐにでも触れてしまいそうな距離ですの。
それが少しずつ、少しずつっ!
ゼロになろうとしておりまして……っ!
……そして、ついに。
彼女の指が布一枚を挟んで触れるか触れまいかといった、超絶ギリギリレベルの――まさにその瞬間のことでございましたッ!
「……あふんっ♡」
「ひッ!? ぁいやァ痛ッつぅぅぁぁあッ!?」
白い稲妻が私のお股間から放たれたのでございます。
それも単なるパチッと感ではございませんでしたの。
それこそ、ビバチリビビビリィッッッ! と。
放たれた閃光のせいで辺りが一瞬明るくなったくらいなのでございますッ!
道ゆく人々が思わず何事かとこちらを振り返っていらっしゃいました。
とりあえず何の事件性も含んでいない旨を示すため、適当に愛想笑いを振りまいて誤魔化しておきます。
「今のが私の秘密、そのイチですの」
私はもう幾度となく経験しておりますゆえに、この突き刺さるような痛みにも慣れてしまいましたけれども。
初めてご体験なさったスピカさんにとっては、到底耐えられるものではなかったのではございませんこと?
その証拠に、ゴロゴロと地面を転がりまわっては必死に生じた痛みから逃れようとしていらっしゃいますの。
勇者様でも耐えがたい痛みを与える……これこそが私の貞操を頑なに守らんとする――女神様のご加護そのモノと言えましょう。
「ふふっ。いかがでしたか? あの、えっと……そんなに転がれてはお召し物が汚れてしまいましてよ?」
「全然聞いてなかったよぉこんなのッ! ッ痛ぅぅ」
「一度もお伝えしておりませんでしたもの。また私の匙加減で程度を抑えられるものでもありませんゆえ、女神様の代わりに謝らせていただきますわね」
「……うっくぅぅぅうぅぅぅ……」
てへぺろぺこりと頭を下げつつも、彼女に見えないようにこっそりと下唇を噛み締めておきます。
申し訳なさが二割と、悔しさが残りの八割です。
このご加護こそが最大の厄介さんなのでございます。
私自身にはどうすることもできない、消すことも止めることも叶わない絶対的な防衛のチカラ……。
幸か不幸か、私は女神様に強制的に守られてしまっておりますの。
聖女とは清き存在でなくてはならないゆえに。
身の穢れなどは到底赦されないらしいのです。
それこそ、私の意思などは一切関係なくですの。
つまり私は、純潔のまま生きることを。
――神に強制されているも同然なのでございます。
己の弱さをひた隠すように、微笑んでさしあげます。
「ほら、スピカさん。立てまして?」
「うぅ……とんでもない目に合っちゃったよ……」
横たわる彼女にすっと手を差し伸べて、あくまでクールに立ち上がらせてさしあげました。
手を伸ばしたとき、先ほどの痛みを思い出されたのか、彼女は一瞬だけビクッと身構えられましたの。
しかしながら、どうか安心くださいまし。
この裁きの白い稲妻が走るのは、あくまで良からぬ気持ちで私のお股間に触れようとしたときだけですの。
清潔さのために洗うときや、ふと偶然に触れてしまったときなどは一切発動いたしません。
更にちなみにを言わせていただきますと、ですわね。
他人からの接触だけでなく、私自らの行いだけでも加護が反応してしまったりするのです。
ちょーっと情欲に駆られてしまった夜などはもう大変なんですの。
熱やら火照りやらが治まるまで、じーっと我慢をキメ込むしか解消させる方法がないのですから。
もちろんいつも耐えれるわけではありませんの。
わりと三回に一回ほどは、先ほどのスピカさんと同じように痛みに悶え苦しんでは己の浅はかさに後悔するだけのときを過ごしていたりもするのです……っ!
はーぁっ。まったく困っちゃいますわよね。
こんな、制約と不自由ばかりの身体なんて……。
「物心ついた頃には既に女神様に愛されてしまっておりましたゆえに。このままでは私、永遠に処女を貫き通す未来しか残されておりませんのよね。ふふ、ふふふふ……ふぅ」
「……あー、ってことはさ。リリアちゃんがいつも言ってる〝未来の旦那さまを探す旅〟ってのは、つまり?」
「ええ。私をこの祝福から解き放ってくださる方を、という意味合いも含めさせていただいております、
真実の愛は何よりも優ると信じておりますの。たとえそれが泡沫の夢に終わるとしても」
「……リリアちゃん……」
そんなに悲しそうなお顔をなさらないでくださいまし。
貴女と旅を続けていく間に、もしかしたら画期的な解除方法が見つかるかもしれないのですからね。
それに私は、今更に己の人生を悲観して嘆くつもりも、与えられた運命を過度に呪ったりもいたしませんの。
私は私の生き方を貫くだけ、なのでございます。
誰かに言われて簡単に諦められるほど、物分かりのよい娘でもないつもりです。
「あ、ちなみに、アレですの。こちらの女神のご加護についてですが、あくまで絶対貞操防壁の対象は前のほうだけであって、後ろのほうには全く影響はありませんでしたのっ」
「うん……? 後ろってことは、おし、えぅぁッ!?」
「ぅぇへへへ♡ ですのっ♡」
「ちょっとリリアちゃんッ!? それってどういう!? え、えええ!?」
ふっふんっ。これ以上は極端にセンシティブな話題に繋がってしまいますので詳しくは伏せさせていただきますけれどもっ。
こんな街中で、赤面に高揚を掛けて興奮で割ったようなスピカさんにぶっ倒れられても困っちゃいますしっ。
こっほん。彼女に秘密にしていることはまだまだいくつか残っておりますが、完全に打ち明けるのはまた今度の機会にさせていただきましょうか。
ほら、一度に情報を詰め込みすぎてもパンクさせてしまうだけでしょう?
それにこれ以上は私も相応に心の準備が必要となりますの。時期が来ないと上手く伝えられないものもあるのですから。
真夜周りの話題は特に、時期に合わせてご説明したほうが早いはずなのでございます。
「ふ、ふぇぇえぇぇ……後ろぉ……ふぇぇ……」
……でも、さすがに今回のカミングアウトは心身両方に対して刺激が強すぎたかしら。
一応ひそかに反省しておきますの。
はい、反省女。
……もちろん冗談ですのっ。
「それはそうとスピカさん? アナタ、人並みの下心なんて持ち合わせていらしたんですのね。私、山の湧き水よりも澄み切った心の持ち主かと思っておりましたのに。驚きでしたの」
「……だ、だってっ!」
「さてはピュア系を装ったむっつりさんですわね? へぇー、アナタもお年頃の乙女だったってことですか、そうですか」
「り、リリアちゃんなんてもう知らないッ!」




