股間……触れ……え、あ、はぁぁぁっ!?
まさに両手に花! ならぬ両手に肉!
という素晴らしき状況なはずでしたが、女神様からの牽制ジャブを受けてしまったせいか、イマイチテンションが上がりきりませんの。
むぅ。せっかくのお肉ですのにぃ……。
今すぐむしゃぶりつくだけの簡単なお仕事でしたのにぃ……。
口元をほんの少しムッと結びながらも、道の脇に適当なベンチが空いておりましたので、スピカさんと一緒に腰掛けさせていただきました。
手に持った串のうちの一本を彼女にお渡しいたします。
二本買ったのはコレが理由ですの。
この私が独り占めなんてするわけがないでしょう。
美味しいモノはできるだけ楽しくシェアして食べたいですもの。
「で、どしちゃったの? なんだかいきなり悄気ちゃったみたいだけどさ」
心配してくださったのか、さっそく掘り下げてくださいましたの。
いつもなら適当に笑って誤魔化していたかと思いますが、これ以上秘密を秘密のままにしないとも誓いましたものね。
おっけですの。分かりましたの。
素直に打ち明けてさしあげましょうか。
「たった今、女神様の加護が働きましたの」
「女神様の、ご加護?」
今のうちから小出しにしておいたほうが、二十日後に控えた〝お披露目の日〟にも緊張しなくて済むというものです。
けれども、長ったらしい実演に入る前に、まずはお肉を食べさせてくださいまし。熱々の焼き串が冷めてしまっては一番に台無しですゆえに。
「……食べ終わったら、キチンとお話しいたしますわね。それでもよろしくて?」
「あ、うん。私は大丈夫だけど」
「それではどうかご覚悟願いまし。聞いて終わるだけでは済まないお話になりましてよ……ッ!」
「何だかいつにも増して焦らすねぇリリアちゃん」
別に内容が重っ苦しいわけではありません。
双方に痛みが伴ってしまうだけなのです。
私にも、そしてお試しになるスピカさんにも。
とにもかくにもそちらは一旦後回しですの。
腹ごしらえと舌鼓を終えてからですのっ。
不安定な串を持っている以上、しっかりと手を合わすことはできませんので、代わりに軽く会釈をする形でいただきますの意を示させていただきます。
もっとテンション上げなさいまし、リリアーナ。
ふふっ、ふふふっ。あぁあ〜。
体感にして数ヶ月ぶりのお肉ですものねぇ〜。
思えばヒュージプラントの鍋煮込みもお肉と言えばお肉だったのでしょうけれども、これぞまさしくお肉、というお肉は本当の本当にお久しぶりですの〜。
……旅の初めに干し肉を食べたような記憶もございますが、保存食もノーカウントにしておきましょう。
新鮮かつジューシーな、焼いた肉。
聖職者にとって紛うことなき背徳の味。
紛うことなきレアなお食事なんですの。
一口ずつ大事に味わっていただきましょう。
まずはオーソドックスな焼き色のお肉からですわね。
ほっほう。なかなかに柔らかそうな肉質ですこと。
きっと牧場かどこかで丁寧に丁寧に育てられた家畜さんのお肉なのでございましょう。
もちろんのこと全ての命に感謝をいたしまして。
それではっ。いざ、ガッツリはむっと。
「ふぉぉ……噛めば噛むほど溢れ出す肉汁ぅぅう……お塩と香辛料が引き立たせる素材本来の旨みと甘みぃぃい……五臓六腑が宮廷ダンスを踊り出してしまいますのぉおおぉ……」
「あっはは。魔物肉のほうも若干クセがあるけど美味しいね。歯ごたえとそこそこの獣くささが逆に食欲を湧き立たせてくるっていうか。ピリ辛風味が絶妙なアクセントになってる感じ?」
「これぞジビエ料理とかいうヤツですわよね!? 巷で話題の!」
「多分そうかも。あんまりよくは知らないけど」
ミックス串は動物肉と魔物肉が交互に刺さっておりますゆえ、見た目的にも味的にも飽きの来ない形態となっておりますの。
正直、病みつきになってしまいそうなくらいです。
毎日どころか毎食いただきたいレベルの美味しさではございますが、あくまでこういった大通り沿いの屋台は観光客向けの価格設定になっているんですのよね。
本当に毎日のように通い詰めていてはお金が出ていくばかりで、旅の資金などは全然貯まりませんでしょう。
くぅぅ。
やはり人生とは我慢と忍耐の繰り返し……!
世知辛い世の中ですこと。
早いところ旅の目的を片付けて颯爽と凱旋して、お国から莫大な礼金をいただいて、悠々自適な余生を送りたいものですの。
そしたら毎日お肉三昧にもできるはずですの。
「ふぅ。けれども久しぶりに己の欲を満たせて大満足ですの。お野菜だけではパンチが足りませんでしたもの。脂肪分を摂らなくてはいずれお胸が小さくなってしまいますし」
「いや、リリアちゃんはもう充分すぎるほどあると思うけど」
「ちっちっちっ。ソコに存在するだけではダメなんですのっ! この美乳を維持し続けることにこそ大きな意味があるのでございますっ!」
今は若さに甘えて潤いピッチピチのお肌をキープできておりますが、これを五年後、十年後も保っていられてこそ本物の美女と呼べますの。
だって万が一に旅の最中に素敵な旦那様を見つけられなかったらどうするんですの!?
私は隠遁生活を行う気満々なのですから、その後は王都にて殿方のほうからアプローチしてくるように仕向けなければなりません。
ただ単にお金に目が眩んで寄ってくるような小物さんなどはこっちから願い下げですの。
私の姿を見てくださる方でないと……っ!
「ま、ないモノねだりしてもしょうがないか。ごちそうさま。えっとお次は甘いモノを食べるんだっけ?」
「あらまぁお召し上がりのお早いこと……。たしかにこのままお口直しとまいりたいところですが、ふぅむ……」
甘味につきましてはお肉以上に吟味しておきたい気持ちがございますし、それこそトレディアの街を歩き回って至高の逸品を探し出すくらいの気概はあるつもりですの。
夕方になってしまう可能性も考慮いたしますと……そう、ですわね。
やはり面倒な説明事は先に片付けておいたほうがよろしいかもしれません。
今から、お先に、打ち明けてしまいましょうか。
私の秘密の一端を、ですの。
「……いや、街中散策に戻る前に。スピカさん」
「うん?」
「私の秘密をお教えしたいと思いますの。女神様の加護についてです。こちらは見聞きするよりも、実際にご体験いただいたほうが早いかと思うんですけれども。心のご準備はできていらっしゃいまして?」
「体験? ……うーん……例えばどんな感じの?」
「ご心配なく。やってもらうこと自体は至極簡単な内容ですの」
お首を傾げなさる彼女を他所に、私はおもむろにベンチから立ち上がって、そのまま彼女の真正面に立ってさしあげます。
そしてまた、声高らかにお伝えいたしますのっ。
「……ってなわけでさぁどうぞスピカさん。できるだけ邪なお心持ちで、私のお股間に触れようとしてみてくださいまし!」
一瞬、辺りを静寂が支配いたしました。
「は……え、あ……えぇぇッ……!?」
スピカさんが硬直から帰ってきましたの。
これを機会にと畳み掛けさせていただきます。
修道服のスカート部分をちょっぴりたくし上げて、更にはほんの少しだけ触りやすいようにポーズも構えてさしあげましてっ!
さぁほら! ほらほらほら!
YESリリアーナGOタッチな状態なんでしてよ!?
勇者たるもの据え膳食わぬは何とやら、ですの!!!
「股間……触れ……え、あ、はぁぁぁっ!?」
「わわわ分かってますのっ。頭がパンクしてしまうのも無理はないと思いますの。わ、私だってずっとこの格好でいるのは恥ずかしいのでございますっ!
ささ、ですからここはお一つスパパッと! どうぞむふふな下心をおマックスに!」
「ふぇえぇええぇ……っ」
……ふふっ。お顔を真っ赤にしたスピカさん。
とってもお可愛らしいですこと。
貴女がそんなウブな態度をしてくださるからこそ、私も照れを多少は誤魔化せるってもんですの。




