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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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そのとき、リリアーナに電流走るぅ……!?

 


 そうして迎えました、初宿泊の翌日。


 今日は街の中を自由に散策する日と昨晩にしっかりと定めておりましたゆえに。


 もちろんのこと有言実行させていただきましたの!


 お昼過ぎに街の大通りのほうを歩いてみれば、それはもう辺りに漂う香ばしい匂いに食欲をそそられてしまうのでございますっ。


 目が右に左にと泳いでしまいますのっ。

 私にとってはココは楽園にも等しい空間ですのっ!



「んっほらスピカさん見てくださいまし! 飴で塗り固められた果物の串ですの! あちらは香草で味付けされたお肉の焼き串ですの! 私、とってもお腹減りましたの! 幼い頃は串になりたいと夢見ていたくらいにペッコペコのペコ娘ですの!」


「いや、言ってることがめちゃめちゃだからねリリアちゃん……。興奮しすぎて瞳がハートになっちゃってるよ……例え話だけどさ」


「だって食欲には勝てないのでございますぅっ!!!」


 ほら、こうやって無駄に問答を繰り返している間にも、私の足は勝手に連なる屋台のほうへ……っ!


 あ、ダメですのスピカさん。止めないでくださいまし。大通りの真ん中側に戻そうと服を引っ張らないでくださいましぃ!


 私を、私を早く自由にしてくださいましぃ……。


 懐中(ふところ)に忍ばせたお財布の封を解こうと、足の次に腕のほうが勝手に動いてしまいます。


 こんなにも甘味と脂身の世界を見せつけられてしまっては、心拍数を上げずにいられる乙女がこの世のどちらにいると仰るんでして!?


 まして私は禁欲に節制を足して清貧を掛けた生活を強要されてきた哀れな修道女なんですのっ!


 面倒な監視者(修道院長さま)が身近にいないのであれば、今こそハメを外しておかないで、いったいいつ頃に外せばよろしいと仰いましてよぉ!?


 屋台の商品を指差しては抗議させていただきますっ。



「ほら! ほらぁ! 見てくださいまし! たった今お肉が焼き上がりましたのぉッ! 脂が炭に垂れてジュウジュウ美味しい音を奏でておりましてよぉッ!? 私たちに食されるのを待っておいででしてよぉッ!?」


 この機を逃すという選択肢こそ、この世に一切存在してはならない愚の骨頂だとは思いませんこと!?


 この後即座に購入してそのままガブリと喰らいつくしかないってコトなのでございますッ!!!



 渋い顔を続けるスピカさんの腕を掴んで、そして千切れるほどにブンブンと振って、私の意思決定が揺らがぬことを明確に示してさしあげます!


 今代の聖女様がいつでも女神様の思惑通り(潔白で純朴で無垢)に動くと思ったら大間違いなんですのっ!


 私は私の人生を歩ませていただくのでございますっ!


 私は今、猛烈にお肉が食べたいんですのっ!

 お金ならありますのっ! 昨日手に入れましたのっ!


 潤々(うるうる)の瞳で彼女をお見つめいたします。


 渾身の下目遣いで猛アピールも重ねましたの。


 ……すると。



「はぁ、分かったよぉ。けど甘いのも肉汁たっぷりなのも、買えるのは一つずつだからね。たしかに臨時収入はあったわけだけど、余裕なわけじゃないんだから」


「いやっほいさっすがは勇者様ですのっ! 迷える子羊(聖女)を救う寛大な御心をお持ちのご様子でっ! お隣を歩む者として誇らしい限りですのッ!」


「まったく調子がいいんだから……」


 やれやれ顔をなさいながらも、ようやく私の引っ張る方向に着いてきてくださいました。


 ここからは私の独壇場というわけです。


 というわけですので屋台巡りと洒落込みましょうか。

 甘いのが先か、それともお肉が先か。

 非常に悩ましい限りですわね。


 デザートは別腹とよく言いますし、であればお先に食すべきはやっぱりお肉のほうですわよねっ!?


 鼻腔をくすぐる脂の香りをいち早く察知して、スタタとそのお店の前にまで歩み出します。



 屋台の定番といえば何といっても串屋ですの。


 ほら見てくださいまし。この目に映る赤と焦茶(生と焼き)の世界が、私たちに更なる彩りを与えてくださいますでしょう……!?


 柔らかくて食べやすい動物由来のお肉でも、少々硬めで癖のある魔物由来のお肉でも、どちらでも喜んでいただきますゆえに……!


 はぇぁっ!? なんと〝ミックス串〟なるものがこの世に存在するんですの!?


 この二種類の味を一度に味わえるお得串だなんて、そんなお得かつ贅沢な商品が既に生み出されていただなんてっ、なんと人の欲と業の深いこと深いこと……っ。


 まさに今の私にピッタリな商品ではございませんか。



「おじさまっ! お肉屋台店主の素敵なおじさまっ! こちらのミックス串とやらをお一つ……いえ、お二ついただけまして!?」


 スピカさんと一緒に楽しみたいですものね。



「おうよ嬢ちゃん毎度あり――あ、いや、待て」


「ふぅむ?」


 あら、どうなさいましたの?

 私の何を見てお手を止める必要があったと仰るのでしょうか。


 もしや勇者と聖女を眼前に立っているこの状況に、驚き慄いてしまいまして?


 それとも単に私たち二人が美人すぎて見惚れてしまいまして?


 恐る恐るといった具合に、ガタイのよろしい店主様がお口をお開きなさいましたの。



「……いいのか? アンタ見たところ、聖職者みてぇなナリしてるが。お固いんだろ、教法ってヤツがよォ」


「あらそんなことを。ご安心くださいましっ。貴方が気にする必要はございませんのッ! あくまでこの衣装はコスチュームプレイの一環みたいなモノですゆえ――あひんッ!?」



 そのとき、リリアーナに電流(いかずち)走るぅ……!?



 耐えられずにビクンッと身体が跳ねてしまいます。


 まるで雷にでも打たれてしまったかのような、ビリビリッとくる鋭い痛みが体中を駆け巡ってしまったのでございますぅ……!


 あ、ちなみに感じたのは主に下腹部のほうですの。


 ……コレ、十中八九、女神様の仕業ですわよね。



「ん? どうかした? リリアちゃん」


「い、いえ、何でもありませんの。コッホン。さっさと買わせていただきましょう。

とにかくご安心くださいまし。聖の道を歩む者であっても、ときどきたまにの食事でなら、お肉を食すのも許されておりますゆえに。生命に感謝をってコトですの」


 わざとらしく空咳をして誤魔化しておきます。


 おそらく今の(いかずち)は、肉を食らうこと自体を怒ったのではございませんでしょうね。


 単にコスチュームプレイという単語を狩られてしまっただけだと思われます。


 ……まったく。


 女神様はとにかく無駄にお固くて、そしてプライドもお高い方なんですから。


 別にコスチュームプレイでも構わないではございませんか。


 既に正式な修道服の形ではなくなっているのですし。いや、私が勝手に衣装にスリットも入れたのが原因なんでしょうけれども……っ。


 着ても着ずとも特に何かが変わるものでもありませんの。大事なのは己の生き方と精神性ですの。



「…………はぁ、ですの」


 私の人生を語るにおいて、決して切り離すことのできない異質な〝制限〟のチカラ……。


 女神様から愛されている(・・・・・・)がゆえの面倒な制約……。


 いわゆる裁きの閃雷(女神の加護)というものが、私の軽はずみな発言に対して、即座に喝を入れてきたのでございましょう。


 まったくもう。

 お暇さんなんですの? あのお方は。

 私を監視することの他にやることがなくって?


 お肉串の代金を店主様にお渡ししつつ、もう何度目かも分からない、少し重めの溜め息を吐いてしまいます。



 き、気持ちを切り替えましょうっ。

 せっかくのお肉がマズくなってしまいます。

 

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