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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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では食べ歩きは!? お土産屋巡りは!?

 

 ときはほんの少しだけ流れまして、ちょっとしたお小遣いを手にすることが叶ったその日の夜のこと。


 私たちはやや年季の入ったお宿の少々埃っぽい一室にて、ゆったりと身を休めておりましたの。



「いやー、何軒も何軒も訪ね歩いた甲斐があったねー。ここなら滞在費用をウーンと抑えられそうだっ」


 ベッドに腰掛けられたスピカさんが、ボッフーンと背中から倒れ込みなさいます。


 ……すかさず埃が舞い広がりましたの。


 溜め息混じりに口の中で魔法を唱えて、周囲の空気を綺麗に浄化し直します。


 ふぅむ。ひたすらに安いお宿ってのも考えモノですわよね。屋根の下で眠れるのは大変にありがたいんですけれども。


 こちらのお宿、大通りから外れた寂れた小道にポツンと建っておりまして、他の場所と比べても明らかにお安くなっておりましたの。


 二人で相談に相談を重ねた結果、ここにしますかと渋々ながらに決断いたしまして。


 さすがは半野生児のスピカさんですの。

 汚れも古臭さも気にも留めていらっしゃいません。



「連泊プランで更にお得になるんだって〜。結構なオンボロさでも寝泊まりするだけなら何の問題もないもんね?」


 ああ、無垢な瞳が眩しいのです。


 自意識に(まみ)れた(よこしま)な聖女には到底直視できない存在ですの。


 咳払いと共に頷いてさしあげます。



「……たしかに、背に腹は変えられませんものね。一応ながら、たった今お布団に浄化魔法をかけておきましたの。清潔さは保証いたしましてよ」


 本当ならしっかりと天日干しをしておきたいところですけれども。


 おあいにく、外はもう真っ暗ですものね。



「幸いこの部屋は扉に鍵は掛けられるようですし、念には念を入れて結界も張っておきますし。乙女としてもギリギリ滞在許容レベルですのっ。多少の不便には目を瞑りますのッ」


 狭いながらにベッドも二つご用意いただけました。しばらくの間、ここを私たちの拠点とさせていただきますッ!


 部屋の中の造りは、仰るとおりオンボロの極みですけれどもっ。


 その代わりに窓の外を見てみれば、ほら。


 こんなにも素敵な夜景が……いえ、嘘を吐きましたの。まったく何も見えませんの。


 視界に映るのは薄ら汚れた壁だけですわね。


 しかも四隅には大小様々な蜘蛛の巣が張られておりまして……。


 視界的にもばっちぃことこの上なく……。


 こ、こういうときは前ではなくて足元を見てみませんこと? このお国事情では珍しく土足ではありませんので、床の土埃を気にする必要はないってことですわよねっ。


 そこそこに好感触なのではっ……!?


 踏む床すべてがギシギシと音を奏でてしまっていることはサッパリと忘れ去りますの。


 寝返りを打つともれなくギィギィうるさいのも、気合いで何とか我慢いたしますの。


 ……スピカさんはほとんど鳴らないのに、私だけが鳴ってしまうという摩訶不思議現象にもじっと堪えてさしあげましょう。


 念のために釘を刺させていただきますが、決して彼女が軽くて私が重いからではございません。


 きっと運が悪いだけなのです。


 まぁでも、それでも。


 そこそこ安全でおおむね快適な(一応不快ではない)夜を過ごすことのできる環境には間違いないのでございます。


 住めば都ならぬ〝寝れば良室〟ということにしておいてさしあげましょうか。



「ふぅむぅ。ささっとガッポリお金を稼いで、もっと良いお宿をお借りいたしましょう、ええそうしましょうっ」


 もちろんのことこんな安宿にお風呂などは付いておりませんでしたが、宿の管理人に伝えればアツアツの湯桶とタオルをお借りできるとのことでした。ギリギリ及第点と言えましょう。


 全くないよりは全然マシってことですのっ。


 もう少しだけお金に余裕ができたら、そのときは今度こそ街で有名な湯浴み処にでも立ち寄らせていただきましてよ。


 泡風呂に寝風呂に香花風呂に打たせ湯に露天風呂にぃ……っ。


 ほわわと湯気が立つイメージを脳裏に思い浮かべます。


 そしてまた、更に大きな溜め息を吐くのです。



「……頑張るのですリリアーナ……。今は明日のための我慢ですのっ……未来の喜びのための忍耐ですのっ……必要なのは安らぎのための辛抱強さですのっ……」


「お金があればねぇ。とりあえずはこの街で、うーんと……金貨1枚分くらい? は貯められたらベストかな。

大森林を越えるための下準備とか、その先の崖下街での滞在費とか、港町に着いてから海を渡るための船のチャーター費用とか……あとは……」


「そぉんなにお金が必要なんですのぉー……?」


 でしたら行く先々の町に到着してから、都度稼ぎを行えばよろしいのでは? とも思いましたけれども。


 ここは交易の街だから、相応に様々なヒトの手を求められているんですのよね。


 自給自足で成り立つ農業や漁業がメインの街では、外からやってきた人向けのお仕事がないかもしれません。


 同じく、今回は無事に魔物素材を買い取っていただけたのでセーフですが、魔物素材が価値を成さない場所だって存在するかもしれませんし。


 このトレディアの街が商売の中心地だからこそ、お金の巡りもよろしくて、旅の準備資金を確保するためのうってつけの場所、なのだと一応は認識しております。


 おっけですの。

 勝手に再確認いたしましたの。

 そしてまた深く納得もできましたの。


 この街で旅の資金を稼ぐ必要があるのです。

 それはもう、ガッポリたっぷりと。


 節約できるところはキチンとしておきませんとね。


 幸か不幸か私は〝清貧さ〟にだけは慣れております。


 その分どこかで反動(・・)を発散する機会が必要になってしまいますが、お金を稼ぐ意味さえ分かっていれば、人一倍以上に我慢もできましょう。


 私はヤればデキるイイ女なのでございます!



「一応、明日は街中の散策デーってことでお休みにしよっか。ずっと気張ってたら疲れちゃうもんね。どこに何があるのか把握もしておきたいし」


「では食べ歩きは!? お土産屋巡りは!?」


「うーん……そうだなぁ」


 文字通りの道草を食すのはご勘弁願いましてよ!? せめてお肉の切れ端でも食せなくては旅のテンション駄々下がりでしてよぉ!?


 今日の換金を鑑みて、お金稼ぎの大変さは重々に理解いたしましたのっ。


 お高いお化粧品に手を出すつもりは毛ほどもございませんのっ。


 せめて足りなくなってきた保湿乳液の補充くらいは!? ご当地ならではの香り付き美顔パックの試供品獲得は!?


 それくらいは構いませんわよねッ!?



「まぁ初日だから、多少はいっか」


「いやっほぉぉいですのー! ついでの道中でイケメンさんをお見かけしたら即逆ナン開始ですのーッ!」


「そっちはほどほどにね……。女神様に怒られても私知らんぷりしちゃうからね」


「うっ。相変わらず痛いところつきますわね」


 さすがに一緒に叱られてくださいましとは言えませんの。


 ……次の真夜(シンヨ)の日まではおおよそ二十と余日といったところでしょうか。


 滞在のスケジュール感的には、おそらくはこの街で迎えることになるんでしょうけれども。


 となりますと今回は下手なことはできませんの。


 私の秘密を打ち明けるとお伝えしてしまった以上、己の心へのダメージは最低限に留めておきたいのでございます。


 ……はぁ。やっぱり我慢が必要ですか。


 トンデモなく悔しいですの。

 真の意味で自由になりたいですのー。


 一日も早く足枷(祝福)から解き放たれたいですのー……っ。


 再三に溜め息を吐かせていただきます。




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――――


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