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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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じゃじゃーん

 


「――ふぅむぅ。想像していたよりもずっと大きな建物ですわね。温もりある木造建築なところには親しみを感じますの。こちらが?」


「そう。この街の冒険者ギルドだね」


 大通りから少し外れて路地をいくつか曲がった先に、やたらと大きな建物がドドンと建っておりましたの。


 ご丁寧にも正面に〝冒険者ギルド〟という文字の彫られた看板がデカデカと掲げられております。


 間違いなくここですわね。


 入り口は酒場のような両開きのスイングドア式で、誰でも出入り自由な空気を助長しているように感じられます。


 入ってみても感想は同じでしたの。


 強いて言えば、内部にいらっしゃった方々はどことなく私たちと雰囲気が似ているといいますか。


 皆ラフな革鎧を身に付けていたり、腰には小刀を取り付けていたりなどなど、旅支度な格好の方々がちらほらと見られましたの。


 余所者感というとあまり聞こえがよろしくありませんでしょうが、あくまでココは商売を生業にしている定住者ではなく、突発的にお金を欲している方々のための施設ということでしょうか。


 なるほど、だから冒険者(・・・)ギルド……!


 スピカさんが腕を組みながら得意げに言葉をお続けなさいます。



「ま、簡単に言えば冒険者ギルドってのは〝その街に住む人たちのためのお悩み相談所〟って感じかな」


「お悩み相談所?」


「そそっ。住人たちが片手間では終わらせられないような厄介事(お仕事)がココに集められて、外からやってきた旅人たちが代わりに片付けていくんだ」


 その仰りようですと、危ない闇取引や汚れ仕事を引き受ける裏家業の方々向けの場所のように聞こえますけれども……。


 しかしながら現実はその通りではなく、身なりの整った受付さんや壁に丁寧に貼り出さられた依頼書あたりを見る感じでは、キチンとした〝公的〟な施設なんでしょうね。


 おそらく大きな街にはこのような冒険者ギルドがほぼ確実に用意されているはずです。


 内側では処理しきれない内容を外側の人間が代わりに処理する……理には適っていると思われますの。



「ふぅむ。ともなりますとパッと思い付けるのは、臨時の力仕事やら害獣駆除やら落とし物探しやら、といったところでしょうか」


「まぁだいたいはそんな感じかなっ。この街は特に人の往来が多いから、いろんなジャンルの依頼があると思うよ。お金稼ぎにはもってこいってわけ!」


 珍しく私のようにフンスと鼻息を鳴らして、己の知識自慢をなさっていらっしゃいます。


 ふふっ。お可愛らしいこと。


 普段は私のほうが何倍もお淑やかでオトナな雰囲気を醸しているがゆえに、今ここでお姉さんぶれる優越感を存分に浸っていらっしゃるのでございましょう。


 私のほうがずっとオトナで落ち着きがありますゆえに?


 べ、別にこれくらいの世間知らずは私も承知の上ですの。気にもいたしておりませんでしてよ?


 彼女には存分に甘え頼らせていただきますの。

 とにかく誠実でまっすぐで信頼に足る方なんですものっ。



 受付さんに話しかける前に、とりあえずちょっとした人混みが形成されている掲示板のほうに近づいてみましたの。


 張り出されている依頼書の数、ざっと見積もっても三十枚ほどでしょうか。


 比較的新しげな紙から古ぼけてヨレヨレになったメモ書き程度のモノまで、わりと質のほうに差があるような気もいたします。


 おそらくずっと残っているのは内容が簡単でないモノや、金額的に誰も引き受けてくれない依頼など、ということなのでしょう。


 お悩み相談所でも、格差があるということですか。ふぅむ。こんなところにも社会の縮図があるんですのね。やれやれですの。

 

 更に更に、スピカさんがお続けなさいます。



「ちなむと、ほとんどの依頼は完遂して初めてお金を受け取れる後払い式が採用されてるんだ。前金制だと受け取っただけで逃げられちゃうかもしれないからだね」


「ハァーつっかえですの。チッですの。楽してお金を稼げるほど世の中甘くはないってことですわね」


「その舌打ちはなぁに、リリアちゃん」


「たたた大した意味はありませんでしてよっ」


 まさかそんな、依頼の前金だけをちゃっかりいただいて、あとは口笛吹き吹きとんずら(・・・・)をキメ込んでしまおうだなんてそんな倫理に反するような行為、女神の遣いである聖女が行うわけありませんの。


 し、失礼しちゃいますわねっ。


 スピカさんに隠れて、こっそりお手軽小遣い稼ぎを図ろうなどと考えていたわけがないではありませんかっ。


 早速出鼻を挫かれて、しょんぼり意気消沈しているわけでもございませんのっ。



「そ、それはそうとスピカさん。冒険者ギルドについてとってもお詳しいんですのね」


「ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれました」


 私の問いかけに、ニヤリと口元を歪ませつつ、腰に付けた小鞄の中をガサゴソとお探しなさいます。


 お取り出しなさったのは、小さな一枚の紙切れでございました。


 くすんだ色味に反して意外に丈夫そうな質感ですの。もしかしたら水に漬けても融解しないタイプかもしれません。


 で、それはいったい何なんですの?



「じゃじゃーん。〝初級〟冒険者証明書〜! リリアちゃんと旅に出るその前に、王都で取得しておきました〜!」


「おおーっ! 凄いヤツですの!?」


「うんにゃまったく。手続きしたら基本は誰でも受け取れる最初の証明書だよ。旅先での手間、少しは省けるかなと思って」


「なぁんだですの。数秒前の私の感嘆符を返してくださいまし――あ、いや嘘ですの。事前のご準備、大変ありがたいですのっ。実際、面倒な手間を省けそうですし。

だからシュンとなさらないでくださいまし、私の態度が悪かったですのっ! この通りほら、謝りますからっ!」


 うるうるおめめにさせてしまいました。

 素直に反省いたします。


 なるほど、スピカさんの得意げだったお話しぶりにも納得がいきましたわね。


 おそらく今からイチから冒険者登録を始めたら、それこそカウンターに佇む受付さんから全く同じような説明を受けていたものとお察しいたします。


 身分証の準備やら書類への記入やら、そういった手続きを全部すっ飛ばせるのでしたら他には何にも望みませんのっ!


 うぅっ。スピカさんは定期的に褒めてさしあげたほうがよさそうですわね。


 旅の処世術をまた一つ身に付けてしまいました。


 さぁほら、ガックリとしょげていないで換金のほうを進めましょうよ。


 早くしないとご飯とお宿が逃げてしまいますのっ。

 

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