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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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ある意味、ちょうどいいタイミングですの

 


 ……気が付いたら、私は古ぼけた教会の天井をポケーっと見上げておりましたの。


 そこに抽象化された女神様がやんわりと微笑んでいるような絵が描いてありました。


 本物のほうがもう少し美人でしょうか。

 何しろこの私のそっくりさんなのですから。


 私もあと数年ほど経って、更にスペシャルなレディになれたら、きっともっと似るかと思いますの……。


 今の私はまだ、子供と大人のちょうど境目にいるような、繊細なお年頃ですゆえに……。



 って、そんなことはどーでもいいのですっ!


 転移の異能に巻き込まれた(・・・・・・)反動なのか、今になって遅れて胃の奥から何か苦いモノが込み上げてくる感覚がございますっ。


 ごっくんと気合いで呑み込み直してから、声を荒げて抗議させていただきましたのっ!



「ぅぇっぷ。ちょっとぉミントさぁん!? 舌噛んじゃったではありませんのっ! 合図も無しにいきなり転移なさるだなんて!」


「バーカ。あのまま広場に留まってたら、下手したら命狙われてたかもしれないのよ? 主に過激派の連中にね」


「はぇあッ!?」


 そんな危機的状況だったんでして!?

 まったくそうは思えませんでしたけれども!


 むしろその逆、勝負のカタもついちゃいましたし、私たちは大団円の一歩手前にまで到達できているくらいに思っておりましたの。


 ……ゔぇっぷ。


 とりあえずまだ平衡感覚が完全には戻りきっておりませんゆえ、適当に教会の礼堂ベンチに腰掛けさせていただいてから、ふぅと一息整えつつ、改めてお尋ねいたします。



「どうしてまた私たちがそんな目にぃ……」


「絶賛ドヤ顔したアンタには見えてなかったかもだけど。来賓席に座ってる連中、あんまり良い顔してなかったわよ。ある意味、引き分けで助かったのかもしれないわね」


「と、おっしゃいますと?」


「戦争起こして金儲けしたい連中にとっては、今回の勝負はあの金髪共に圧勝してほしかったんじゃないかしら。

だから引き分けになって中途半端に先送りにされるくらいなら、いっそのことあの場でドサクサに紛れて邪魔なアンタらを……ってな寸法よ。知らないけど」


「さ、さすがにミントさんの考え過ぎと、思いたいですけれども……」


 とはいえ単なる可能性の範囲内ではわざわざミントさんも人前で目立つ離脱劇を繰り広げたりはなさいませんでしょうし、コレも一定の信憑性のあるお話なのでございましょう。


 私はミントさんを信頼しております。

 だから彼女の判断を尊重いたしますの。


 ミントさんはいつものようにハァと分かりやすくため息を吐いてから、続きをお話しくださいました。



「ま、適当な相手なら退けられるでしょうね。だけどアンタも知ってのとおり、ちょうど今ヘコヘコに凹んじゃってる困ったさんもいるわけで。革新派の連中にとっちゃまたとないチャンスってコトよ」


 ミントさんの目線に促され、私もその先をチラリと拝見いたします。


 礼拝堂の中央通路を挟んで反対側に、スピカさんがベンチに腰掛けておりましたの。


 ご愛用の小剣の柄を握り締めて、今にも泣きそうなお顔を……いえ、既に事後なのかもしれませんわね。


 今まさに涙を(まなじり)に溜めていらっしゃったのでございます。


 広場にいた先ほどまでは気丈に振る舞えていたようですが、こうして落ち着いて現実に直面してしまうと、色々と込み上げてくるモノがあるのでございましょう。


 剣を酷使してしまったことに対する後悔か、労いか、もしくはその両方か。



「……まぁ確かに、あの感じで普段の力を発揮しろというほうが、酷ですものね」


「形見だったんだっけ? 先代勇者の」


「ええ。私はそう伺っておりますの」


 私も肉親の遺したモノがあれば同じ気持ちになれたのかもしれませんが、おあいにくながら、思い出の品なんてモノは一つも持っておりませんからね……。


 私、案外ドライなのかもしれません。



「アタシもザコ勇者(アイツ)の気持ちも分からないでもないわ。けど、早いところ切り替えてもらいたいわね。ぐうたらしてる暇、無くなったんだし」


「ふぅむぅ。今はそっとしておいてさしあげましょうよ」


「とりあえず数日の間に身支度を整えて、そんでこの忌々しい神聖都市からさっさとオサラバする。当面はその方針でいくわよ」


「おっけですの。多分」


 私、この神聖都市でやり残したコトがお一つだけあるのですが、もう数日は滞在できるのであれば、おそらくは問題ないかと思われます。


 どのみちこの街から出るには私が自由に外を歩けないといけませんでしょうし、中途半端に足を引っ張るわけにもまいりませんし。


 どうしても出れなくなってしまう日があるのです。


 ええ、そうですの。

 もうすぐ〝真夜の日〟がやってきてしまいます。


 当日は私が先祖返りしてしまって、この身を覆うご加護も効果を失って、監視のために女神様が直接ご降臨してくださることでしょう。


 ある意味、ちょうどいいタイミングですの。


 今日この頃の私には、女神様に会わせてさしあげたい方がいるのでございます。

 

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