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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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お互いの信条に沿って、お互いにお互いの使命を

 

 目を凝らして彼女のお手元を確認してみましたの。


 ただでさえ古ぼけて傷だらけの小剣だったかと思いますが、今見てみると、それはもう刃こぼれは酷いですし、刀身にもくっきりとヒビが入っているみたいですし……。


 ふぅむ? ヒビ、ですって?


 前見たときはそんなモノありませんでしてよ。



「……そろそろ、休ませてあげたいんだ」


 しかしながら今は、指で軽く弾いただけでもパキリと折れてしまいそうなくらい、ボロボロになってしまっているようなのです。


 酷使してしまったのでございましょう。

 戦うために、仕方なかったとはいえ。



「えっと、その……あえて言葉を選ばずにお伝えいたしますけれども。満身創痍を軽く通り越しておりますわよね、その剣」


 正直、刃の部分が鞘にくっ付いているのが不思議なくらいの損傷具合だと思いましたの。


 私は武具に明るいわけではありませんゆえ、詳しくは分かりません。


 それでも酷い状況だとは一目見て分かりますの。



「そう。そうだね。その通りだと思う。戦わないリリアちゃんでも分かるくらい、限界ギリギリなんだよ。完全に折れちゃったら……もう、元には戻せなくなっちゃうから」


「今日までずっと、一緒に旅をしてきましたからね」


 あの剣は常にスピカさんの手の中にありましたもの。


 もちろんのこと予備の剣も鞄の中には入っているのですが、使っているところを見たことがございませんし。


 きっと新調する機会は何度もあったはずですの。


 それでもずっと使い続けていらっしゃいましたの。


 それほどまでに、あの剣はスピカさんにとって無くてはならないモノなのでございましょう。


 不自然なくらいに落ち着いたご表情で、スピカさんがお続けなさいます。


 少しばかりの諦念さも感じてしまいます。



「今回の勝負は勇者と勇者のぶつかり合いなんだ。だから、お互いの愛剣を使わなきゃ意味がない。でも、好きに剣を触れなくなっちゃった時点で、私の負けなんだよ」


「スピカさん……」


 庇いながら戦う余裕もなかったのでしょう。


 シロンさんの振り回す重い宝剣を何度も受け流したりいなしたりして、相当な負荷を掛け続けてしまったにちがいありません。


 彼女は最後に刀身を労るように一撫でして、ゆっくりと鞘に収めなさいましたの。


 そのままふっと息を吐いて、もう一度キリッとした目付きにお戻りになります。



「でも、シロンくん。勘違いはしないでね」


「……勘違い?」


「私はもう、キミをいつでも殺せる(・・・)。その覚悟も決心も、とうの昔に終わってる」


「「んひっ」」


 まさかシロンさんと悲鳴が被ってしまうとは。


 今の殺気は私に向けられたモノではございませんでしたが、突如として放たれたその凍り付くようなオーラに、思わず息を呑んでしまったのでございます。


 直接に身に受けたシロンさんなんて、情けなく尻餅を突いてしまっているくらいでしたゆえに……っ!



「あっはは。別に警戒しなくてもいいよ。そうする理由がないなら、まずしないもん」


 ケラケラとからかうように笑っていらっしゃいますが、その瞳の奥は少しも笑ってはおりません。


 牽制の意味も込めているのでございましょう、



「できれば今後も理由は作らないでほしいかな」


 あのー……けれども、スピカさん?


 その牽制の裏を返せば、シロンさんがまだ討魔派の勇者を名乗ろうとするのなら、そして私たちの旅の邪魔をしようものなら、今度こそ容赦はしないってことにもなりますわよね……?


 今回のような判定方式の勝負ではなくて、あくまで次に実戦の中で屠るおつもりなのだと、暗にお示しなさっているんですのよね……?


 ……おぅふ。想像したら怖いですの。

 当の本人はガクブルものだと思いますの。


 私はまだスピカさんを本気で怒らせたことがございませんゆえに、いつもニコニコしていらっしゃる彼女がマジのガチで本気を出したらと思うと夜も眠れなくなってしまいますのっ。


 ある意味、緊張の空気が張り詰めております。


 しかしながら、その空気を自ら一転させるかのように、スピカさんがパチリと平手を叩きなさいました。


 察するにどうやらまとめに入られるようです。



「とにもかくにも、さ。お互いに一勝一敗みたいな状況なんだけど、実際のところ、どうしよっか」


 存分に便乗させていただきます。



「こっほん。事前の取り決めに(のっと)りますと、引き分けではお互いに肩書きを剥奪し合うことはできないはずですの。

かといって終わった後に行う中途半端な足の引っ張り合いほど見苦しいものはございませんし。そうですわよね? イザベラさん」


「……ええ。認識に相違はありません」


 またシロンさんに話を振ると駄々を捏ねられてしまう可能性がございましたので、今回はイザベラさんに助け船をお願いしてみましたの。


 今の彼女であれば、きっと冷静に、そして建設的なお話ができると思いましたゆえに。


 話を振られたイザベラさんが静かに見解を続けてくださいます。



「……引き分けになった以上、今後はお互いの信条に沿って、お互いにお互いの使命を全うする形になるのが至極自然な流れかと。

残念ながら今の私は、彼を諌められるような優れた人間ではありません。そしてまた、彼も私も個人の権限で何かを決められるような立場でもありませんから」


「ふぅむ……」


 小難しい言葉ばっかりで分かりにくかったですけれども、自分なりに噛み砕いてみますの。


 シロンさんとイザベラさんはこの神聖都市セイクリットから〝都市の勇者〟として世界平和の命を受けているのだと伺っております。


 私たちが国王様の勅命に従っているように、イザベラさんたちにも、そういった上司的な存在がいらっしゃるのかもしれません。


 武によってヒト族の世界平和の推し進めんとする、いわゆる革新派の女神教徒の派閥かと思われます。


 彼らは300年もの間休止されている戦争を復活させて、当時敵対していた魔族を現代で正式に滅ぼすことで、恒久的なヒト族中心の平和を作ろうという理想論を掲げていらっしゃるのです。


 勇者の血筋であるシロンさんが、神聖都市の上層部勢に扇動されたのか、それとも自ら進んで名乗り出たのかは分かりかねますけれども……。


 このまま彼らの好きにさせてしまっては、私たちの願う温厚で融和で世界とは真逆な世の中になってしまうにちがいありませんっ!


 でも、お互いへの干渉は、ダメなんですのよね?


 ふぅむ。早くも混乱してしまいました。

 こんな複雑な状況に打開策なんてありまして?


 うぅむと一人唸っておりましたところ。

 イザベラさんが更に続けてくださいましたの。


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