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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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さすがにこの子も、限界みたいだから


 ミントさんの圧にイザベラさんがついに首を上げなさいましたのっ。


 今も不安そうな顔をしているかと思いきや、どこか清々しいようなお顔をしていらっしゃるようにも見えてしまいましたの。


 私の気のせいではないと思います。

 心境の変化があったのでございましょうか。


 彼女は静かにそのお口をお開きなさいました。

 意外にも落ち着いていらっしゃるようです。



「……私は、リリアーナさんに対して、治癒魔法の行使においては少しも劣っているとは思っていません」


「むぅ。それは重々に存じておりますけれどもっ。


 だから先日から私もずっとそう申し上げておりますでしょう。


 何も私だけが凄いのではないのです。

 皆、何かしら優れたチカラをお持ちなんですもの。


 そもそもイザベラさんはおべっかを使う必要もないくらいに優れた治癒術師なのですし、私よりもずっと敬虔な女神教徒さんでもあるのですし。


 ホントに強いて言わせていただくなら、私のほうがちょっぴり運が良かっただけのお話なのです。


 ふっふんっと地味にドヤりつつ。


 つい得意げに唇を尖らせてしまった、その直後のことでございましたのっ。


 私、思わず目を疑ってしまったのでございます!



「……しかしながら。そう、ですね」


「……ふぅむっ!?」


 今、イザベラさんが私のほうに微笑みを向けてくださったような気がいたしましたのっ。


 おそらく目の錯覚ではないはずです。


 私のくりっくりの両瞳が確かに捉えましたもの。脳裏にもすぐに思い浮かべられるのでございます。



「……それでもリリアーナさんは……私よりも遥かに高い、慈愛の精神と度胸の両方を持ち合わせているのでしょう。そしてまた、少なくとも今日の私では、彼女の献身性には敵うはずもないのだ、と。先ほどの手際を目の当たりにしては、そう感心せざるをえません」


「えっと、あの。それってもしかしなくとも、手放しに褒めてくださっておりまして?」


「……あくまで今日の私では太刀打ちができない、というだけの見解です。下手に勘違いをしないように」


 私の問いかけにツンとそっぽを向いてしまいましたが、そのお顔に冷たさはありませんでした。


 むしろ憑き物が取れたように清々しそうで、ある意味、先ほど見せてくださったのは照れ隠しのような微笑みだったのかもしれませんわね。


 彼女は紅に染まりつつある空をゆっくりと見上げては、ふぅ、と大きめの息を漏らしなさいます。



「……ただし、今回ばかりは素直に負けを認めてさしあげましょうか。私も無益な悪あがきをするほど、己に絶対の自信を抱いているわけでもないのです」


「イザベラさん……っ」


 今度は明確に微笑んでくださいましたのっ。


 そのお口振りから察するに相応の悔しさはあるのでしょうが、それでも私に対しての妬ましさなどは少しも感じられない、とっても清々しいお言葉だと思いましたの。


 静かにガッツポーズをさせていただきますっ。



「二番勝負、とりあえずの白星ゲットのようね」


「でーすのですのっ!!」


 やれやれとため息を吐くミントさんも、どこかホッとした雰囲気を醸していらっしゃいます。


 私も同じく胸を撫で下ろさせていただきました。


 二番勝負の先勝ちを得られた以上、少なくとも私たちに敗走の二文字は無くなったのでございます!


 これでもう、勇者と聖女という身分を身勝手に剥奪される恐れはなくなったのです。


 正直、とっても気が楽になれましたわよね。



「おい日和(ひよ)ったかイザベラッ! だが僕はまだ負けていないッ! 認めてもいないッ! 途中棄権は許さないぞッ!?」


「…………別に、治癒術師としての責務までは放り出すつもりはありませんよ。どうぞ、後は貴方のお好きなように。背中は変わらずお任せいただければ、と」


「フン。分かっているならそれでいいッ」


 イザベラさんの降参宣言により一層の焦りを感じられたのか、シロンさんはなりふり構わずといったご様子で怒声を撒き散らし始めなさいましたの。


 勝ちの線は消えてしまったと言いますのに、健気なことで。まだ継続なさるおつもりのようです。


 まったくもって潔くないといいますか。

 カッコよくないといいますか。

 さすがに悪あがきが過ぎるといいますか。


 ……まぁ別に構いませんけれどもっ。


 本気を出したスピカさんであれば、いつでもまた彼を戦闘不能状態にしてさしあげられますでしょうし、文字通り朝ご飯前のちょちょいのチョイでしょうし、きっとすぐに手のひらの上で転がしまくっ――



「――シロンくん。やる気になってるところ悪いけど、私はこれ以上続けるつもりはないよ。ぶっちゃけた話、勇者対決のほうはキミの勝ちでも構わない」


「って、はぇぇあっ!? 今がノリに乗っておりますのにッ!? 何故でしてェッ!?」


「だってもう負けは無くなったからね。それに……さすがにこの子も、限界みたいだから」


 スピカさんがおもむろに腰の鞘から愛用の小剣を抜き出しなさいましたの。


 根本の部分を一心に見つめては……ふぅむ?


 あの、どうしてそんな哀しげなお顔をなさっていらっしゃるんですの?

 

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