表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

345/347

……これが、本物の戦場ってヤツなんだよ


 私が口の中で改めて祝詞を唱え始めたのとほぼ同時、スピカさんが地面を蹴ってシュバッと駆け出しなさいましたのッ!


 この目に映せたのはその最初の一歩だけで、まさに世界から存在そのものが消え失せたかのごとく、一瞬で見えなくなってしまいます。


 相対するシロンさんもさすがに驚かれたようで、咄嗟に手に持つ銀の長剣をガッチリと構えて、防御めの体勢を取っていらっしゃいました。



「さては姉さんの奥の手ってヤツかな?」


「……どうだろうね。おあいにくだけど、そんな中途半端な姿勢じゃ私の剣は防げないと思うよ」


 今もトンデモないスピードで移動し続けているためなのか、スピカさんのお声は文字通り四方八方から聞こえてきております。


 シロンさんもどの方向を警戒したらよいのか分からないようで、ほんの少しだけ目が泳いでいるようにも見えますの。


 風を切る音だけで肌が裂けてしまうかと思えるくらいに、バチバチと張り詰めた空気が辺り一帯を支配しているのでございます……ッ!



「フン。早いだけで何も変わらないじゃないか。今更、そんな子供騙しのような技が効くと思うかい?」


 口では強がっているようですが、その手はほんの少しだけ震えているようにも見えましたの。


 相手の姿を見失うというのは、次の行動を予想することもできなくなるのです。



「子供騙しじゃないよ。さすがの私もコレだけは手加減できないんだ。痛かったらゴメンね。なるべく一瞬で終わらせる(・・・・・)からさ」


 聞こえてきたのは、どこか憂いを帯びたようなスピカさんのお声でしたの。


 今、視界の端にほんの一瞬だけ映り込みなさったような気もいたしましたが、とても悲しそうなお顔をしていらしたように思えます。



「……シロンくん。本物の戦場ってのは――とっても怖くて、辛くて、寒いところなんだよ。キミはまだ、知らないだけなんだ」


 シュンシュンという風を切る音が一瞬止みましたの。


 それとほぼ同時、シロンさんのすぐ目の前で、スピカさんの手に収まる小剣がキラリと夕光を反射させて煌めいたのです。


 その光景を彼も見てしまって、つい、前方を意識した構えになってしまったのでしょうか。



 宝剣とシロンさんとの間に、ほんの少しだけ隙間が空いてしまった――その刹那。



 膠着していた時が動き始めましたのッ!



「――グッ!?」


 シロンさんの手に持っていた銀の宝剣が、瞬く間に真っ赤に染まってしまったのでございます……ッ!?


 それがシロンさんの喉から噴き出た鮮血のためだと気が付くのに、この私でさえも理解が追いつきませんでしたのッ!


 既に彼の周りに水溜まりができ始めております。


 ハッと我に返って、私も中央のほうに駆け出しましたのッ!


 何かが起こると分かっていながら、まったくもうッ!


 しっかりなさいまし、リリアーナッ!



 これはあくまで憶測になりますが、おそらくスピカさんがシロンさんの一瞬の隙を突いて、手に持つ短剣で喉元を掻き切ったのでございましょう。


 ヒト族を戦闘不能にするのに、大技や強力な魔法などは必要ありません。


 ただ致命傷を負わせればいいだけのお話なのでございます。


 そう。ただ単純に。

 無防備な喉元を掻っ切るだけで……ッ!



「……これが、本物の戦場ってヤツなんだよ」



 けれども、えーっとスピカさんッ!?

 お一言だけ抗議させていただいてもよろしくてッ!?


 さすがにこの赤一色の光景はセンシティブなのではありませんことッ!?


 大衆の面前に晒してよいモノではないと思いますのッ!


 気の弱い方なら即座に卒倒しているレベルの惨状でしてよッ!?


 だからこそ今の今まで渋っていらしたのかもしれませんけれどもッ!!!


 今も赤い水溜まりが広がりつつありますし、シロンさんも地面に横たわったまま、ビクビクと痙攣しているようですし……ッ!


 刻一刻を争うような状況に違いありませんの。


 

「イザベラさん! 何をボーッとしていらっしゃいましてッ!? 治癒は私が行いますゆえに! アナタは目隠しの結界魔法でも張っていてくださいましッ!」


「あっ……あぁ……っ……!?」


「ああもうッ! ですのッ!」


 まさに心ここに在らずといった感じで、動揺しまくりなさっているようです。


 さすがの私も治癒魔法と結界魔法の同時発動はできませんのにぃ。


 えっと、えぇっと……ふぅむぅ……!


 このタイミングでもできるモノとなりますと、治癒の緑光をあえてビッカンビカンに発現させて、簡易的な目隠しにすることくらいしか……ッ!


 いやいや! 我ながら名案ですことッ!

 この際迷っている時間などありませんものね!


 悲惨な現場を大衆に晒し続けるよりは多少はマシになるというものでしてよッ!!



「こっほん、天におわします女神様ッ! とにかく今は緊急事態ですゆえにッ! ありったけの治癒のチカラをとっとと私にお授けくださいましッ! なるべく即効性があって練度も精度もピカイチなヤツをよろしくお頼み申し上げますのッ!!!」


 スマートな無詠唱とかどーでもよろしいのです。


 急いで手のひらに治癒の光を集めて、スタッとしゃがみ込んではシロンさん目掛けて一斉照射いたします!


 とりあえず範囲治癒の光のベールで覆い隠す形にしておきましょうか。さながら緑色のレースカーテンみたいな感じですの。


 修道服の裾が赤く染まるのも気にいたしません。

 とにかく全力で治癒のチカラを注ぎ込みまくるのみですの。


 死ななきゃ後で何とでもなるのです。

 今ならまだ全然に間に合うんですものっ。


 奴隷解放作戦の子供たちのほうが、もっとずっと悲惨でお可哀想な状況だったでしょう!?



「……それに、スピカさんにつまらない(とが)など背負わせてなるモノですか……ッ!」


 親族殺しの勇者の血筋だなんて、そんな悪名を。

 いくら真剣勝負の最中の出来事だったとしても。


 こっほんっ。さぁさぁリリアーナ!

 ココが気合いの入れどきってヤツでしてよッ!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ