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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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ごめんね。もう少しだけ付き合ってね、と。

 

 息を呑むのも忘れて見守っておりました。


 戦闘の最中、ふとスピカさんが攻撃の手を止めなさいましたの。


 その様子を見て、シロンさんは微かに眉間にシワを寄せなさいます。


 明らかに訝しんでいらっしゃるようです。



「……姉さん? 諦めたのかい?」


「まさか」


 スピカさんが小さく溜め息を吐きなさいます。やれやれとまではいきませんが、わりと平然と受け答えしていらっしゃいますの。


 始まる前に纏っていた不安さのオーラは、どうしてか今の彼女からは少しも感じられません。


 むしろ自信ともまた微妙に異なる……ある種の諦めといいますか、達観した顔付きになっていらっしゃるのでございます。



「シロンくん、私が防戦一方だと思ってるでしょ。まだいつでも勝てるだなんて、タカを括ってるんじゃないかな。さっきのラウンドから剣筋がだいぶ鈍ってるよ」


「フン。姉さんにだけは言われたくないね。剣を振るチカラも残っていないから、鞘に納めたくせに」


 始まったのは口撃のし合いですの。


 シロンさんもスピカさんも、お互いの間合いはキッチリと見極めつつ、偶然に訪れた手休めタイムにひっそりと息を整えているようです。


 それはそれとして、お一つ気になることがございます。


 スピカさんが剣を使わなくなった理由についてですの。


 剣を振る元気がなければ拳を振る元気もないのではありませんでして?


 何か別の理由がありそうですけれども。


 この疑問への回答は思ったよりも早かったですの。



「別に私のチカラが残ってないわけじゃないよ。もうチカラが残ってないのは……この剣のほうかな。愛剣の寿命くらいキチンと把握できなきゃ、勇者失格だからさ」


「愛剣の寿命……?」


「そう。ずっと、ずっと一緒に過ごしてきたからね。今回のでだいぶ無理をさせちゃったし」


 答えながら、労るように鞘を撫でなさいます。


 それはそれは優しい手つきでしたの。



「シロンくんの剣はピカピカだよね。まるで一度も実戦で使われてないかのように。まさに宝剣って感じがするよ」


「……フン。対する姉さんの小剣はオンボロもいいところじゃないか」


 そ、その意見につきましては私も同意せざるをえませんわねぇ……っ。


 勇者の剣としては明らかに年季が入っているモノですし、見た目もとにかく傷だらけでボロっちいですし、何よりも勇者の剣としては最高レベルに地味ぃで小さな剣だと思いますけれども。


 それでも、スピカさんは大事に大事に毎日欠かさずお手入れをなさっておりましたの。


 私もスピカさんがどれほど大切にしているかは彼女の次くらいに理解しているつもりなのです。



「オンボロ、か。そうだよ。その通りだ」


 スピカさんは自嘲するように微笑んで、そして。



「だからこそ、ホントはこんなつまんない(・・・・・)ことで終わらせたくはなかったんだけどね。そろそろ私も前に進まなきゃなってさ」


「さっきから何を――」


「えっとね。私気付いちゃったんだ。シロンくんの弱点」


 そしてもう一度、鞘から剣を抜きましたの。


 流れるような動作で、まるで内に秘めていたチカラを一気に解放するかのように、とにかく氷のように冷たい目で、シロンさんの喉元(・・)に向けてその切先を突きつけなさったのでございます……ッ!


 さすがのシロンさんも、殺意に満ちたスピカさんの行動に、ビクリと肩を揺らさざるをえなかったようです。


 スピカさんが静かにお続けなさいます。



「シロンくん。本当は人を斬る覚悟できてないでしょ」


「んなッ!?」


「図星みたいだね。正直に言って、稽古のときの模擬刀のほうがずっと重みがあったし手強さもあったよ。でも、今は全然ちがう。

確かに技術も早さも少しも変わってないけど、とにかく剣が軽いんだよ。そんなんじゃ咄嗟のときに――ヤらなきゃヤられるってときに、誰かを守れるわけがない」


 冷たい目のままですが、そこには微かに憐れみや慈悲の色も含まれているように見えましたの。


 これが従姉(あね)として、従弟(おとうと)を見る目なのだと、独り身の私でも分かってしまいます。



「……この勝負に判定勝ちはないんだよね。どちらかが戦闘不能になるか、もしくは自ら進んでリタイアするかするまで終わらない。

だから私は今からシロンくんを戦闘不能にするよ。私たちの未来と、私たちの世界を守るために。覚悟ってのはそういうモノだと思うから」


 スピカさんから優しさのオーラが消えましたの。

 残っているのは研ぎ澄まされた冷徹さ、でしょうか。


 最後にもう一言、彼女は小さく何かを呟いていらっしゃいました。


 もちろん遠いせいで聞き取ることはできませんでしたし、唇を読むような技術など持ち合わせておりませんゆえ、あくまでコレは想像でしかないのですけれども。


 その手に持つ剣に対しても話しかけていたようにも見えましたの。


 ごめんね。もう少しだけ付き合ってね、と。


 きっとそんなふうに愛剣に語りかけていた気がするのでございます。



「…………じゃあ、いくよ」


 駆け出す直前、私のほうにチラリと一度だけ視線を向けなさいましたの。


 ええ、しかと伝わっておりましてよ。


 言葉なんてなくとも分かりますもの。

 そろそろ私の出番ってことですわよね。


 これから何が起こるのかは分かりませんが、なんとなくの想像はできております。


 スピカさんが完全にヤる気になられたということ。


 それはつまり、シロンさんを治癒せざるを得ない状況にしてしまうということに他なりません。


 万が一なんて事態、起こしてなるものですか。


 私の予想通りの展開になるのだとすれば、私はその最悪の事態(・・・・・)を回避することだけに専念させていただきますの。


 即効系の治癒魔法を展開し始めておきます。


 ここから先は瞬き禁止なのでしょうね。

 きっと一瞬でカタが付いてしまいますから。


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