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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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これは私からの宣戦布告です

 


――ガラーン、ガラーン、と。


 やがて、広場に聳え立つ時計台から、重たいベルの音が聞こえてまいりましたの。


 こちらが勝負開始の合図なのでございます。


 中央で互いに見合っていたスピカさんとシロンさんが、三回目の鐘の鳴り始めと同時に一気に駆け出しなさいますッ!


 ガキンバキンという剣のぶつかり合う音が聞こえてきておりますの。


 ご多分に漏れず、あまりの動作スピードに、追えるのは音だけで姿を目で捉えることはほとんど叶いませんけれども。


 たまーに、チラリと見えるだけですの。



「早速、始まりましたわね」


「……ほう。意外に落ち着いているようで」


「私たちの出番はもう少し後なんですもの。今はまだ、スピカさんを信じて見守ることしかできませんでしてよ」


 私たちのような治癒でのサポート役は、いつでもすぐに治癒魔法を唱えられるように構えておくのが役割の一つなのです。


 私もイザベラさんも、ただいまは広場のやや端のほうで静かに待機をしております。


 戦闘に参加できるわけもありませんし、下手に近付いて足手まといになってしまってもアレですし。



「どのみち、私たちなりに全力を尽くさねばならないのは変わりませんし。今のうちに、話せることを話しておきませんこと?」


「…………勝負が始まった、今に……?」


「ですのッ! 今だからですのッ!」


 私たちは競い合う者同士ですが、直接剣を振るったりなどの対決まではいたしません。


 あくまで聖女としての能力的に比べ合って、最終的にどちらがより優れていて、より相応しいのかを確定するのでございます。


 判定を行うのはここにいる観客全員ですの。


 そしてまた、買収などの卑劣な行為は行われていないと、始める前にあらかじめ確認をし合いました。


 私たちはもちろん、この場にいる皆が一律に女神様へと誓いを立てましたゆえ、簡単に反故にはできないはずです。


 女神教徒にとって、女神様に誓うというのは、とっても重い意味を持つ行為なんですもの。


 ただ静かに事の成り行きを見守っている今だからこそ、そして互いの正々堂々さが保証されている今だからこそ、私たちはお話をしておかなければならないと思うのです。



「こっほん。正直に言って、イザベラさんは私のことが許せないのでございましょう? 何故自分ではなく私のような小娘が聖女に選ばれたのだと。こんなチャランポラリンの塊みたいな女が、と!」


「……そこまで自分で分かっているのならば、アナタは随分と能天気で幸せな方なのでしょうね。しかし、その通りです。アナタさえいなければ、この私が聖女に選ばれているはずだったのですから」


 舌打ち混じりにお答えくださいましたの。

 横目に私のことを睨み付けてきております。


 身体の正面はスピカさんたちのほうを捉えておりますゆえ、見守る観客たちの視線も気にしていらっしゃるのでございましょう。


 私もまた、目線だけは中央のほうに残しながら、言葉の追撃をさせていただきます。



「その自信こそ、いったいどこから生まれてくるものなんですの? 確かにイザベラさんは優れた聖職者だと、先代様もおっしゃっておりましたの。でも、それだけだと思いますの」


「……〝自他共に認める〟という言葉に、裏も表もないと思いますが?」


「それはそうですけれども。傍目から見ても、イザベラさんには決定的に足りないモノがあると思いますの」


「……はぁ? 足りないモノ……?」


 綺麗な修道服に袖を通されるのも結構、ご自身の有能さを周囲にアピールされるのも結構。


 ですが、聖女にとって一番に必要なモノとは、自分自身についてではないと思うのです。


 齢二十にもギリギリ満たない私が、有能なアナタにお説教やお説法をするのは、身分不相応なのかもしれませんけれども。


 これだけは言わせてくださいまし。



「聖女に一番必要なのは、慈愛と献身(・・・・・)の精神ですの。癒しのチカラはあくまで民の願いを叶える上でのイチ能力に過ぎませんの。何より大事なのは人々に寄り添える心の温かさだと、私は確信しているのです!」


「……戯れ言を」


「戯れ言なんかではありませんの! そうでなければどうして人々は女神様を慕うんでして!?

 そして女神様はその願いに応えてくださるんでして!? 慈悲と慈愛は似て非なるモノですの!」


 私のは慈愛ですの。より多くの人々に笑っていていただきたいから、私は頑張りますの。


 そしてあわよくば、私も幸せになりたいから、常に前向きに生きようとしているんですの。


 対するイザベラさんのそれは慈悲でしかないと思うのです。


 自身が優れた聖職者であるからこそ、あくまで憐れみの心で、癒しを施してさしあげるという……。


 自己顕示欲の激しい女神様なら、その立ち回りをしてもよろしいかもしれませんけれども。


 私たちは女神様ではないのです。

 民々と共にある、同じ立場のヒトですの。

 ゆえに上も下もありません。


 チヤホヤされたくは思いますけれどもッ!


 より多くの人を癒してさしあげるため。

 まずは目の前の傷付いている人を助けてさしあげるために。



「――だから私は、あくまでスピカさんに勝ってほしいからではなく。私の代わりに戦ってくださる彼女が、少しでも辛い痛みを感じないで済むように。そのためにありったけの治癒の魔法を行使させていただく所存ですの」


 これは私からの宣戦布告です。

  

 聖女の精神性(ありかた)を賭けた、決意表明なんですの。

 

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