私も手加減できないと思うんだ
腰に取り付けた鞘を握り締めながらも、シロンさんのほうをキッと睨むようにして、スピカさんが淡々とお続けなさいましたの。
「剣は……その人の体型や戦闘スタイル、特性に応じて、どんなモノが相応しいかはその都度変わってくるんだ。だから――」
「御託はいい。さぁ、姉さん!」
「くっ……」
シロンさんに迫られてしまってか、スピカさんは渋々といったご様子で、鞘からご愛用の剣をゆっくりと抜き出しなさいます。
「…………ほら。これが、私がお祖父ちゃんから受け継いだ小剣だよ」
小剣とおっしゃったとおり、刃渡りは私の手のひらにも及ばぬほど短く、そして見た目だけを言えば頼りなさそうに見える剣でしたの。
やっぱり、私の記憶の中にあったモノで合っていたのでございます。
もはや小刀と呼んだほうが誤解のないくらい……まるでお子様用として造られたモノに見えてしまいます。
「……私は物心が付く前からコレを使ってるよ。今だって寝ているときも起きているときも、ずっと肌身離さず持ってる。だから――この剣を侮辱するのだけは、許さないからね」
決意と覚悟に満ち溢れた目を、しかと見せつけてくださいましたの。
柄や刃の部分に刻まれた細かな傷が、年季の入りようを示しているように思えましたの。
スピカさんはこの剣を毎日の丁寧に手入れをしていらっしゃいますゆえ、刃自体はまるで新品のように輝いているのですけれども。
それでも、今目の前のシロンさんが持つ、ピッカピカで宝石のような剣と比べたら……さすがに、ちょーっとだけ見劣りしてしまうような気も……しなくもないと言いますか。
決して言葉にはできませんけれども。
……実際のところ。
シロンさんには響かなかったようなのです。
「……フッ。アッハハハハ。そんな小刀のどこが勇者の武器だというんだ。姉さんも知らないとは言わせないよ。御伽話にも子守唄にもなってるじゃないか。勇者の武器は長剣だって」
「ぐっ……!」
「……言われてみれば、そうかもですの」
私も孤児院に保護されてから、耳に大ダコができるほど子守唄を聞かされましたもの。
光り輝く長剣を振りかざし、この世の悪という悪をバッサバッサと薙ぎ払う正義の味方、それが勇者なのだと、数多の美辞麗句と共に謳われているのでございます。
少なくとも歌詞の二番にも三番にも、こじんまりとした小剣について触れられてはおりません。
「でも、私の身体では長剣は合わないからさ。この小剣が一番しっくり来てるんだ。それに勇者が小剣を使っちゃいけないとも、誰も定めてなんかいないはずだよ」
「そ、そーですのっ。今代の勇者が扱っている剣こそ、勇者の剣そのものなんですのッ!」
何も間違ったことは言っておりません。
別に厳密な規格やルールがあるわけではないのです。
地面に突き刺さった古剣を勇者だけが引き抜けるだとか、触れた瞬間に錆びが吹き飛んで虹色の光を放ち始めるだとか、そういう仰々しいイベントが必要とされているわけでもないんですのっ!
「木刀同士じゃ分が悪いなって思ってたけど、そっちが飾宝剣を使うなら、私はもう逃げも隠れもしない」
「屁理屈を……まぁいい。全力の姉さんを捩じ伏せてあげるよ。そして見せてあげよう。格の違いってヤツをねえ」
ぃよーしっ、スピカさんがやる気になってくださいましたの。
こうなれば百人力なのでございます!
彼女は私のほうに振り返ると……ふぅむ!?
「リリアちゃん。よろしく頼むよ」
「も、もちろんですのっ! どんなおケガを召されても私がバッチリと治してさしあげますのっ!」
「あ、うん。それもそうだけど……そうじゃなくて」
「ふぅむ?」
どうなさいましたの?
やたらと言葉を濁されていらっしゃいますけれども。
こくりと小首を傾げてさしあげます、と。
「さすがに今回は本当の本当に全力を出さないと厳しそうだからさ。私も手加減できないと思うんだ。だからもしものときは……シロンくんのほうも治してあげてねって」
「ッ!? りょ、了解ですのッ」
相手を労われる余裕がないからこそ、もしものときがあるということですわねっ!?
確かに真剣と真剣のぶつかり合いであれば、単なる切り傷では済まないかもしれません。
四肢の再結合は難易度が高いので、できるならやりたくはないんですけれども……。
あの温厚なスピカさんが加減をできないとおっしゃっているのですから、私だって覚悟を決めなければなりませんわね。
まもなく開戦を知らせるベルか鳴り響くことでしょう。
ふぅむ。それまでに今一度。
気合いを入れ直しておきましょうか。




