真剣……ってことは、木刀じゃなくて……?
……さぁ、時は来ましたの。
「……それだけでしてよ」
渋ぅい顔付きのまま、ボソリと呟いてみます。
「は? いきなり何言ってんよアンタ」
「戦う前に負けるコトを考えるお馬鹿さんは、どこのどなたでして!?」
「うっさいわね。まさかアンタ、緊張してんじゃないの?」
「ぐふぅ。まっすぐに貫いてくる図星の矢言葉ッ」
全くしてないと言えば嘘になりますの。
これだけの観衆に見守られるのは、王都を出発したとき以来ではありませんでしょうか。
あのときはただ手を振り返しながら背中を見せ付けてさしあげればよかったのですが、今回は私たちの特技を披露して、おまけに相手を圧倒せねばなりませんもの。
深呼吸を二度三度と繰り返しておりますが、胸の鼓動はドンドンと早まっていってしまいます。
おのずと手に汗を握ってしまうというものでしてよ。
一瞬だけ困り眉になってしまったところを、ミントさんは見逃さなかったのでしょう。
「ま、アタシにできるコトはもうないわけだからさ。せいぜい頑張ってきてくることね。ここから応援してるわよ、わりと素直に」
「……あらまぁ」
「世界の――いえ、魔族の平和が掛かってるんだもの。当たり前じゃないの」
「ふふっ。素直じゃありませんことっ」
あえていつも通りにミントさんが接してくださったおかげで、私もくすっと微笑みをこぼせた――ちょうどそのときでしたの。
パーパラッパッパッパー、と。
勝負開始の合図を知らせる、ラッパの音が辺り一帯に響き渡ったのでございますッ。
中央へお集まりください、というアナウンスも聞こえてまいります。
「行こっか、リリアちゃん」
未だ静かなままのスピカさんと目を合わせ、お互いに神妙に頷き合います。
この緊張と不安が完全に無くなることはないのでしょう。でも、いつも以上のチカラを出す必要もありませんわよね。
いつも通りにすればよろしいのですから。
「ええ。行きましょう。スピカさん」
そもそも私たちは二人でワンペアなんですの。
お互いにお互いを助けてこそなのです。
これまでもそうしてまいりました。
これからもそうしていくのでございます!
熱い心で広場の中央へと足を運びます。
……既にイザベラさんとシロンさんが待っておりましたの。
どちらも不敵な妖しい笑みを浮かべております。
「逃げ出さなかっただけ褒めてあげるよ、スピカ姉さん」
「……うん」
「はぇー。すっごい騎士さんみたいなご格好ですことぉ」
お着替えに行っていたとおっしゃっていましたが、さすが、キメキメに決まっておりますの。
騎士といってもゴテゴテの甲冑を着込んでいるわけではございません。
まるで白馬に乗った王子様が着ているような、金の刺繍がなされた貴族服をスマートに着こなしていらっしゃるのでございます。
青いコートと白いショースが良いコントラストを醸しておりますし、ロングブーツのおかげで足が尚更に長く見えますの。
何よりお腰に差した長剣が紳士性をより一層に際立てているのです。
見た目からして勇者感がパナいですの。
余裕のあるご表情で、シロンさんがスピカさんに話しかけなさいます。
「姉さんたちが望むなら、文字通りの真剣勝負でも僕は構わないと思ってる。お互いのパートナーの治癒魔法を比べられる、いい機会にもなるだろうしね」
「真剣……ってことは、木刀じゃなくて……?」
「そう。もちろん姉さんもお祖父様から譲り受けているんだろう? 勇者の血族に伝わる、由緒正しき刀剣ってヤツを、さ」
シロンさんがお腰の刀剣に手を掛けて、ゆっくりと鞘から抜き出しなさいました。
あまりの眩さに目を細めてしまいます。
陽光をキラリと反射して、その刀身を銀色に輝かせるそれは――まさに宝剣と呼んでも過言ではないほどに美しい刀剣でございましたの。
あまりに美しすぎて、表面が鏡のように辺りの景色を写し返しているくらいですの。
「さぁ、姉さんのも見せておくれよ。さぞ素晴らしい業物を受け継いでいるはずだからね」
パッと見では優男のお顔なのですが、明らかに挑発的な目をしていらっしゃいますの。
まさか、ご存知の上で聞いておりまして!?
スピカのご愛用の剣といいますと。
お祖父様から幼少の頃に譲り受けたとおっしゃっていたアレですわよね?
「……先に言っとくけどさ。剣ってのは飾りじゃないんだよ。大きくて綺麗でカッコよければいいってシロモノじゃないんだ」




