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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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私はまだ、あの子の本気を見たことがないんだ


 イザベラさんに決闘を申し込まれてから。

 数えて九日が経過しようとしております。


 常に緊張感をもって特訓してまいりましたゆえ、それこそ数日前に比べれば、ずっと精度の高い治癒魔法を展開できるようになったように思えますの。


 先代のアナスタシア様には、基本のキだけでなく、無詠唱のコツみたいなモノも伝授していただきました。


 もちろん祝詞を実際に唱えるほうがより確実に発動できるのですが、どうしてもその分の実時間が掛かってしまうのがネックだとのことで。


 言葉を発する代わりに心の中で唱えるようにすれば、効果を落とさずに時短を図ることができるらしいんですのっ。


 無詠唱は緊急時には必須のスキルということで、それはもう必死に磨かせていただきましたの。


 私の鍛練を見届けてくださった先代様、いわく。



「……まぁギリギリ及第点といったところですね」


「ふぅむっ!? 免許皆伝ってコトでして!?」


「まさか。ようやくスタートラインに立てただけですよ。これからは長い時間をかけて、少しずつ自らの聖魔法と向き合っていきなさい。元より聖女の道とはそういうモノなのですから」


「は、はいですのっ」


 ありがたいお言葉、しかと胸に刻み込みましたのっ。励みになりますのっ。


 何にせよ先代様の弟子として、記念すべき第一歩を歩み始めることはできたのでしょうか。


 ふっふんっ。どうぞ大船に乗ったつもりで見守っていてくださいまし。


 私も先代様と同じように、キチンと聖女の責務を果たしてみせますゆえにっ。



 とまぁそんな感じで、私はこの九日間をかなり有意義に過ごさせていただきましたの。


 板以上布未満というような硬さのベッドでしたが身体も十分に休められましたし、何より士気が大きく上がりましたの。


 相方のスピカさんも同じく……と、なとまていればよかったのですけれども。



「…………はぁ」


 私の期待も虚しく、ここ数日の間、彼女はずーっと浮かないご表情をなさっていらっしゃるのでございます。


 ただいまは大聖堂に設置された長椅子に腰掛けながら、お祖父様の形見である短剣の手入れをしていらっしゃいますの。


 乾いた布で手際良くキュッキュとなさっているのですが、いつになく口が固く横一文字に結ばれておりますし、真剣そうというよりはむしろ、焦っているかのようにも見えますし。


 特別に集中なさっているわけでもなさそうですけれども……。



「あのー、スピカさん?」


「………………へっ? ああ、ごめん。どしたのリリアちゃん」


 私に呼ばれたことにワンテンポ遅れて気が付いたのか、ほんの少しだけバツの悪そうな顔をしながら目を合わせてくださいましたの。


 手を止めて、おもむろに短剣を鞘に納めなさいます。カツンという乾いた音が聖堂内に響き渡ります。



「その、スピカさんったら随分と難しいお顔をしていらっしゃるなぁって思いまして」


「……え、ああ、うん。……そうかもね」


 あらまぁ。とっても素直ですこと。


 元々スピカさんは素直な方なのですが、ここまでシュンとなさったお姿を見るのは珍しいのでございます。


 小首を傾げつつお話を伺ってみましたの。



「ほら、リリアちゃんは先代のアナスタシア様に稽古付けてもらってたからさ、ド素人の私の目にも見る見る上達していくのが分かったんだけど。

……私は、この前からずっと足踏みしてるままなんじゃないかなぁって」


「そんなっ。スピカさんだって毎日汗だくになるまでミントさんと鍛練なさっていらっしゃるではありませんのっ!」


 わ、私は知ってますのっ!


 お二人ともたまーに手が付けられないくらいヒートアップして、両方に治癒魔法を掛けてさしあげなければいけないくらい、ボロボロのズタボロになるまで体術の特訓をなさっているではありませんか。


 乙女の柔肌にコレでもかというくらいに切り傷やら打撲痕を付けなさいましてぇ……。


 あれがただの筋トレなわけがないですのっ!



「でもさ、コレって大森林でやってた内容とほとんど変わりはないんだ。あくまで現状維持の範疇からは出られてないんだよ。それにね」


「ふぅむ? それに何ですの?」


「多分リリアちゃんの勝負相手がイザベラさんで、私の勝負相手がシロンくんになるとは思うんだけどさ。……私はまだ、あの子(シロン)の本気の剣技を見たことがないんだ」


「はぇぁっ。それ本当でしてっ?」


 私はひたむきなスピカさんのお姿を旅の最中にずっと隣で見ておりましたから、貴女の得意な戦法や攻撃手段もだいたい存じ上げているつもりですの。


 知っているからこそ、苦手な状況になればフォローをしてさしあげたくもなりますし、どのくらい全力を出しているかなども、ご表情を見れば察することくらいはできると自負しておりますの。


 これから相対する相手の底が見えない(・・・・・・)というのは、まるで真っ暗闇の中を裸足で歩かねばならないくらいに怖いのです。


 確かに、この前のシロンさんは、完全に私の知らない一面を見せに来ていたかと思いますの。


 こちらの声を聞かずに一方的に突き放してきて、更には見下すような冷たい瞳をなさっていて……。


 スピカさんが不安そうなお声でお続けなさいます。

 

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