リリアーナ・プラチナブロンドが乞い願いますの
赤く腫れ上がってしまっているお肌を、優しく労わるように撫でてさしあげます。
ときおりァ痛ツツ……とお顔を顰めていらっしゃいますが、私のボディタッチをただのイタズラ行為ではないとご理解くださっておりますゆえ、あくまでじっと耐えていてくださいますの。
ふぅむ。
私はお医者様ではありませんから詳しい症状は分かりませんけれども。
確かに見た目こそ痛々しい生傷ではございますが、これくらいであればそこまで治療に時間は掛からないはずです。
むしろ私ほどの癒し魔法の使い手であれば秒殺でしてよ。今代の聖女を舐めないでくださいまし。
先ほど火にかけたばかりの平鍋が煮立ち終わる前にはカタを付けておきたいですわよね。
「リリアちゃんは心配しすぎなんだよぉ。こんな傷、ツバつけて放っとけば勝手に治るもん」
「だったら私がべろべろ舐め回しても構わないってことですわよね? それが嫌なら黙ってじっとしていてくださいまし」
「うぅっ。……分かった」
「んもう。即答されちゃいましたの」
いつの日かホントに舐めてさしあげましょう。
きっとほんのり甘いはずですの。
食後のデザートにちょうどよいと思うのです。
ともかく、この辺一帯の平和を守るために自ら傷付いてくださった彼女を適当に放っておけるほど、私は薄情者ではないつもりです。
むしろ誰にでも手を差し伸べるのが私の本来の役目。
一番身近にいらっしゃるスピカさんをその対象から外すわけがありません。
取り急ぎ、一番傷の酷い太もものあたりを両手で覆うように触れてさしあげます。
そして。小声で呟かせていただきますの。
「……どうか女神様、私の声が聞こえているならお応えくださいまし。貴女の僕、リリアーナ・プラチナブロンドが乞い願いますの。この方に〝癒しの恵み〟を分け与えくださいまし」
目を閉じて、瞼の裏に真っ白な光を思い浮かべます。
その光で彼女の身体を優しく包み込んでさしあげるように……柔らかく、そしてゆったりと……手のひらだけでなく腕全体を使って撫でてさしあげますの。
すると、どうでしょう。
私の手が触れた部分が淡く発光し始めたかと思いますと、みるみるうちにお肌に刻まれた痛々しい傷を塞いでいくのでございます!
じわりじんわりと端から治っていきますの。
スピカさんも終始心地良さそうに目を閉じて、この光を享受してくださっております。
ふっふんっ。いかがでしょうか。
今のは女神様の奇跡のほんの一部ですの。
これで私はただのお喋り美少女ではないってことが証明できましたわよねっ。
他者の傷を癒して病を治す、スーパースペシャル有能な乙女であるという片鱗を見せてさしあげられたかと思います。
「はい、終わりましたの。ついでにこの光、美白効果やシミ予防も望めたりいたしましてよ」
「え、ホントに!?」
「もちろん冗談に決まってますの」
傷だらけだったスピカさんのお身体もほらこの通り、今はもう旅立ちの日の瑞々しい柔肌を取り戻していらっしゃいます。でも、これは元からなんですの。
火の揺らめきを肌に映してしまうかと錯覚するほど、彼女にはシワやくすみの一つも見当たりません。
こんな国宝級の美しさを傷モノにしたままなんて、それこそ天罰が下るってモンですわよね!
……にしても、ホント思わずしゃぶりつきたくなるくらいハリのあるお肌なのでございます。
それにほら、彼女のお肉のほうが適度に引き締まっているように見えますゆえ、女子特有のほっそり感がより良い意味で強調されているのです。
「……まったくもう。ホントにもう。ズルいお人ですの」
「ん? 今なんか言った?」
「大したことは何も言ってませんのっ」
べ、別に羨ましくなんてありませんわよ。
私には私の魅力があるのですから。
むしろ女子とはちょっとふっくらしていて健康的な身体付きになっているほうが、抱き心地もよろしくなるのでございます。
細さだけが乙女の全てではないのですっ!!!
心の炎も表情には出しません。
あくまで冷静を装って、続けさせていただきます。
「それはそうとご気分のほどはいかがでして? どこか違和感のあるところはございませんこと? 下手に治し漏らして傷を残してもイヤてすし」
「大丈夫だよ、ありがと。だいぶ楽になったよ。チカラ有り余っちゃってるくらい。これならいっくらでも動けそうな感じだねっ」
「どうか無理だけはなさらないでくださいまし。私のチカラで治せるのはあくまで傷や病いのような外側であって、体力や気力といった内側はどうしようもありませんからね」
癒やしのチカラでは腹は膨れませんの。
それにスタミナ不足や睡眠不足が解消されたりなんかもいたしませんの。
疲れた身体を癒すのは、結局は食べて寝てを繰り返すのが一番なんでしてよ。
そろそろ煮込んだ鍋のほうがグツグツ言い出し始める頃合いかと思われます。
初めての食材ゆえに美味しいかどうかは分かりませんが、狩りたて調理したての新鮮ほやほや植物魔物肉を沢山召し上がって、体力ご回復に努めてくださいまし。
どれどれ、煮立ち具合はいかほどでし――
……え、あ、うわっ。
なんか想像以上に鍋のお汁がトロみを帯びておりませんこと……?
煮詰めてもいないのに煮凝り状態でしてよ?
こ、これ、ホントに食べられるんですの……?




