教会に貴賤なんてあるの?
男の子、曰く。
せんせいというのは、週末に教会で教育活動を行っている修道女のことらしいのでございます。
確かに私も何回か布教も兼ねて先生役をさせられたことはありますし、お子様からそう呼ばれてもおかしくはありません。
……ふふふ。無知な方々にドヤ顔できるの、かなり気持ちいいんですのよね。
つい気が大きくなって、女神様を盾に過激なことを言ってしまう可能性も無きにしもあらずなわけでして。
「どうするリリアちゃん。その教会に顔出してみる?」
「有り寄りの有りですの。とはいえ今日は平日ですし、外に出払っていらっしゃるかもしれませんし」
「おっけ。それじゃあ週末まで待ってみよう」
とりあえずミントさんにも報告ですわね。
奴隷解放活動からは少しばかり脇道に逸れてしまう気もいたしますが、私自身の問題を放っておくわけにもまいりませんもの。
スピカさんも腹を立ててくださっておりますし、私自身も怒っておりますの。
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そうして時は変わりまして、週末。
この日は神聖都市の中も少しばかり和やかな雰囲気に包まれておりまして、普段働きに出ている殿方も戻ってきてご家族の方と過ごせる、貴重な時間になっているようですの。
「はぇー、どこもかしこもカップルやらご夫婦ばかり。羨ましいですのー。私もイチャコラしたいですのー」
「修道女がそんなこと言っていいの?」
「狙うは円満退職ってヤツでし――あっふんっ♡」
「ちょーっと難しそうだねぇ」
女神様の監視が厳しいの、どうにかなりませんかねぇ。先日の〝真夜の日〟は何故か放ったらかされてしまいましたけれども。
ふっふっふっ。いいんですのー?
私を自由にしてしまったら、何をしでかすか分かりませんでしてよ〜?
きっとスピカさんやミントさんがそばにいてくださいますゆえ、早々変な虫は付かないと安心してくださっているのかもしれませんわね。
……嬉しいのか残念か分かりませんのっ。
「で、アタシも同行する必要あったわけ?」
たっはーと大きな溜め息を吐いておりますと、少しばかり警戒色を強めにしたミントさんがボソリとお呟きなさいましたの。
いつもの頭のフードをすっぽりと被って、周囲の視線を気にしていらっしゃるようです。
別に大丈夫ですわよ。
今日みたいな幸せな日に、周りのことまで気にしている方なんていらっしゃるわけありませんもの。
ご家族と過ごすのに忙しいはずですのっ。
「ふむぅん。たまには一緒に行きましょうよ。ミントさんもぼっちは寂しいのではありませんでして?」
「いや別に」
「即答はさすがに悲しいですのーっ」
でも何だか久しぶりの三人行動ですわね。
ただいまの私たちは目立たないように深いフードを被って、男の子から聞き出した教会へのすこすこと向かっているのでございます。
……この格好では逆に目立ってしまうかもしれませんが、別に大騒ぎをしたいわけでも、職務質問をされるつもりもありませんゆえ、あくまで空気のようにサラリと移動してさしあげるんですの〜。
驚いたことに、その教会はタリアスター邸のあるセレブ街からそこまで離れていないようでしたの。
ゆえに朝ごはん後の運動がてらに、ちょろーっと顔を出すことにしたのでございます。
しばらく歩きますと、目的地はすぐに見つかりましたの。
住宅地の中にドドーンと、立派な教会が建っているのです。
「アレが目的の教会だよね?」
「ですのですの。見たところ、かなり裕福そうに見えますわね」
「教会に貴賤なんてあるの?」
「もちろんありましてよ。お国からの補助金やら近隣住民からの寄付金やら。運営資金に差が出るのは当たり前のことですの」
商売活動はできませんが、暮らしには大いに影響が出てくるのでございます。
毎日ふわふわのベッドで寝られたり、美味しくて新鮮なお野菜を食べられたりするんですのっ。
私のいた修道院はそこそこの規模を誇る女神教の教会施設でしたけれども、私自身の扱いは……何とも言えませんでしたわね。ふぅむぅ。
「やはりさすがは神聖都市、と言っておくべきでしょうね」
とはいえ先代様のところのような場所もありますし、一概には言えませんけれども。
「どんな人が務めてるんだろうね」
「それを今から確かめに行くのではありませんのッ!」
幸いにも週末学校のほうはちょうど今さっきに終わったようですし。
中からわらわらと子供たちが出てきましたの。
お迎えにきている親御さん方もいらっしゃるようですし、もう少し静かになったら訪問してみましょうかね。
私は空気の読める女なのでございます。




