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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第1章 王都周辺編】

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私の〝アレ〟はあくまで奥の手ですの

 

 はてさて、結論から申し上げましょう。

 食べられそうな部分、一応は見つかりましたの。


 地中に埋まっていた巨根の極中心部とも呼べる箇所です。


 近寄ってみて分かったのですが、このヒュージプラントという魔物は基本的に硬い草皮に覆われていて、なおかつとにかく土臭くて、一見ではとても口に入れられそうなシロモノではなかったのです。


 しかしなから、胴体とも呼べる根っこ部分を真っ二つに割ってみればあら不思議、意外にも柔らかそうな箇所が見つかったのでございます。


 この意外に(・・・)というのがポイントなのですけれども……っ。


 こちらはヒュージプラントの心臓部とも言える希少部位なのでしょうか。


 ホントに何と言い表せばよろしいものか……。


 可食部を例えるならば、腐りかけた鳥のもも肉を無理矢理にゼリー状に加工した感じ? でしょうか。


 匂いも強烈なのです。明らかに血のアレですの。

 絶えず赤い汁を滴らせているのです。


 おそらくは栄養素が溶け出したお汁なのだとは思いますが、初見ではまず血にしか見えませんでしたの。


 匂いも完全に熟成しかけのお肉のソレでしたし。


 いや、想像していたよりもだいぶゲテモノ感が強いかつ採れる量も少なめではありましたけれども。


 それでもつい先ほどまでブンブンと振り回されていた筋張った緑色のツルよりは何とか食べられそうな雰囲気を醸していたのです。


 私の腹ペコセンサーがコレを〝是〟と判断いたしましたの。であれば多分大丈夫ってことですの。



「と、とはいえもちろんのこと火は通しておいたほうがよろしいんですわよね? 本当はよく焼きした後にお鍋でじっくり煮込んだほうが安全そうなんですけれども……」


「さすがに生だとお腹壊しちゃうかもだからね。まぁこれも一つの挑戦(試練)と思えば全然イケちゃうんだけどさ。もっと酷いのもあったし」


 勇者のご修行は想像もつきませんわね。

 まさか初めはお腹を強靭にすることから始まりますの?


 聖職者の道(こちら側)は断食なり制限なり清貧なりと、常に縮小を美徳としていたと言いますのに。


 耐える方向性がちがいますの。

 食べられるほうが百倍羨ましいですのっ。


 壮絶な過去でも思い出されたのか、苦笑を顔に貼り付けたスピカさんがお続けなさいます。



「それにさ。いざ大森林に入ったとき、食べられるものが多いに越したことはないだろうし。解体するのにちょっと時間がかかるのがネックだけどね」

 

「森の中でお腹を壊してしまっては遅いですしっ。とりあえず回収しといた野草類も一緒に煮込んでおきますわね。(しお)れる前にしっかりと揉み込んで乾かして、保存食にしておきましょう」


 おっけですの。

 私なんとか一人で頑張ってみせますの。


 そんなこんなで、ただ今は。

 しばしの休憩タイムをキメ込んでいるのです。

 それだけの意義ではありませんの。


 さっきの戦闘でお疲れのスピカさんを休ませるためにも、私自ら率先して不慣れなお料理に挑戦してみているのでございます。


 アルバンヌの村から仕入れてきた炒め物用の薄鍋に、刻んだ魔物の植物肉(・・・)をドッサリと入れ、包み込むようにその辺で採集した多種多様な食用草を詰め込んでみましたの。


 ただ火を通すだけでは魔物肉に変な臭みが残ってしまいますでしょうから、これまた村で購入した調味料を振りかけて、時間をかけてグツグツと煮込んでいるのです。


 とりあえずあと一、二時間くらいは火にかけっぱなしにしなければなりませんし、そうなりますとこの場からは動けませんし。


 どのみち傷だらけのスピカさんを放っておくわけにもまいりませんし。


 となれば彼女の治療は今のうちに終わらせておくのがベストというものでしょう。


 気丈に振る舞ってくださっておりますが、そのご表情には少しばかり疲弊が見え隠れしているように思えます。


 単なるスタミナだけのお話であればご飯を食べてぐっすり眠れば回復させられるんでしょうけれども。


 無理をして出来たケガのほうはまったくの別モノですの。本来であれば時間をかけてゆっくりと治癒を促さねばなりません。


 けれども時計は待ってくださいません。


 ここで何日も何ヶ月ものんびりしていられるほど、食糧と衛生の事情も優れてはおりません。


 そこで私の出番なのです。

 才ある聖女パワーでパパッと治しちゃいますの。


 奇跡をこの場で起こしてさしあげますのっ。



「ほら、今のうちにさっさと芝生に横になってくださいまし。傷だらけのお肌なんて、正直言って全然乙女的ではありませんの」


「傷は戦士の勲章だってよく言うけど」


「だとしてもっ! 貴女は戦士ではなくて勇者でしょう? あくまでクールかつスマートに、華麗に戦場を舞い踊るのがお努めなんですのっ。今どき肉切骨断なんて流行りませんでしてよ」


「カッコいいんだけどなぁ……」


 ハードボイルド路線を狙うならそのあどけないロリ顔と起伏に乏しいロリ体型をオトナっぽくしてからでお願いいたしますわね。


 正直、冒険者的な服装でなければ虐待にも見られかねないお姿なんですもの。


 手足に真っ赤なみみず腫れを残して、酷い場所は青黒く鬱血した打撲痕まで強調させていて……!


 今までどうやって切り抜けてきたんですの!?


 まさかずっと自己治癒能力に頼って、ロクな治療を施してきていないのではありませんでして!?


 私と旅を続けるおつもりなら、そんな野蛮な粗相は一切許してあげませんの。


 常にフル回復で活動させてさしあげる所存です。



「ああもうっ。特にココとかほら、見るからに痛々しい跡になっちゃってますの! いっそのことツンツンしてさしあげたほうがよろしくて!?」


「あっはは……壁役(タンク)がいてくれたらもう少し気楽に動けそうなものなんだけど」


 私も前線に出てサポートしてさしあげられたら少しはスピカさんの負担を減らせるんでしょうけれども。



 ……私の〝アレ〟はあくまで奥の手ですの。



 緊急時にしか使ってはいけない諸刃の剣とも呼ぶべきシロモノなのでございます。


 使用に応じた制約や代償だって少なくありませんし。


 細っこいワラヒモにすがりつくよりも、もっとガッチリと現実を見据えて、次の街あたりで助っ人さんをお雇いするのも悪くはないかもしれませんわね。


 お金の問題も解決しなければなりませんけれども。


 とにかくっ。


 今は目先の治療と料理に専念しておきますのっ。


 取らぬ狸の皮より植物型魔物のお肉スープのほうが目下大事ってコトですのっ。

 

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