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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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コレは諦めの一手ではないんですのよね?


 だってだって、ミントさんがつい先ほどご自分でおっしゃっていたではありませんの。


 末端の取引を妨げたところで、大元をとっちめなければ状況は何も変わらないのだとっ!


 非合法な奴隷市場こそ減らせておりますが、魔族の子供たちは今も商品(奴隷)として不当に売買されていることに変わりはありません。


 目にも映したくないような酷い扱いだって、私たちの知らないところでたくさん受けていてっ。


 も、もちろん私たちがかなりの人数を救い出せたとは思いますけれどもっ。


 でもやっぱり全員ではないはずですのっ!



「……アンタの言いたいコトも、イヤというほど分かってるわよ」


 この必死な訴えを正面から受け止めてくださるかのように、ミントさんは私の尻尾を優しく撫でてくださいました。


 段々と落ち着かせるように、荒んだ心を宥めるように……。


 その行動は、ある意味では自らに向けてのモノでもあったのかもしれません。



 やがて、静かにお続けなさいましたの。



「でも、アタシの手だけで全ての魔族を救い出せるほど世の中は簡単じゃないって知ってるし、アタシ自身に自惚れてもないつもり。

それよりも、またヒト族と魔族との間で戦争が始まったら、今度こそ目も当てられない状況になりかねない。それだけは絶対に防がなきゃならないって思うのよ」


「ミントさん……」


 彼女の目を見て、分かりましたの。

 決して今を諦めたわけではないことを。


 自らの手で獲得できる少ない利益よりも、今よりもっとよい世の中になることに期待して、私たち勇者御一行の使命に賭けてくださるのかもしれません。


 大森林縦断という短くない時を一緒に過ごしてきた中で、彼女にも私たちの誠心誠意がミントさんにもガッチリと伝わってくださったのだとすれば。


 こんなに嬉しいことはないと思いますの。



「私も神聖都市の実情を目にして、私の思っていた以上に、世の中は複雑な状態になっていることを知りました。

この身に魔族の血が流れているとか、今代の聖女だからとか、そういう理由を抜きにしても。

私は、全ての種族が虐げられることのない世界を望みたいと思うのでございます」


 休戦協定を無事に延長できれば、少なくともヒト族と魔族の間に、今以上の新たなイザコザが生まれることないと思われます。


 次の更新までは五十年もあるのです。

 関係修繕の時間だって設けられるはずですの。


 この都市の差別問題につきましては、私たちの旅を終えて、またこの街に戻ってからでも、遅くはないかもしれません。


 今度は時間に縛られずにじっくりと世直し活動に勤しめるわけですし。


 まして、休戦協定が延長されたと世の中に知れ渡ってしまえば、この街の考え方にも少しは変化が訪れるかもしれませんわよね。


 確かに、小を見るより大を見たほうが、より多くの方々は救えるとは思いますの。


 そう、思いはするんですけれども……っ。



「コレは諦めの一手ではないんですのよね?」


 確信も無しに淡い未来に賭けるというのも、結局は不安定な望みでしかなくて、それでしたら、小さな行為をコツコツと積み上げていくというのも決して無駄ではないといいますか……っ!


 もしかしたら次の奴隷市場を阻止するときに、何か進展があるやもしれませんし。


 完全に納得しきることまではできずに、無駄にあたふたとしてしまっておりました――そんなときでございましたの。



「リリアちゃん」


 スピカさんがキリッとした目で私の名前を呼んだのでございます。


 はっと息を呑んでお顔を合わせます。



「多分なんだけどね。休戦協定の更新も単なる延長の手続きだけじゃないはずなんだ。やろうと思えば、内容の見直しや新しい条文の追加だってできるはず」


「はぇっ!? ってことは奴隷制度の廃止もっ、他種族への差別行為の禁止も!?」


「そう。きっと、ね」


 初めて休戦協定が結ばれてから300年が経とうとしておりますが、時代に応じて内容は変化していったのでございましょうか。


 結果がどうであれ、双方の不利益にならないように、慎重に慎重に協議が重ねられていったのだと推察いたします。


 しばらく真剣なお顔で睨めっこをしていた私たちでしたが、先にスピカさんのほうが耐えられなくなって、気の抜けた微笑みを見せてくださいましたの。



「あっはは。そうは言っても勇者の私にどこまでの権限があるかは、現地に着いてみないと分からないんだっ。今から王都に聞きに戻れるほどの余裕は、さすがにないからさ」


 ええ。そうですわね。良くも悪くも大森林でかなりの時間を費やしてしまいましたもの。


 帰りもまた通ることを考えると、少しだけ億劫な気持ちになってしまうのでございます。



「ふぅむぅ。地続きにひたすらに北を目指して歩くよりも、大空を自由に飛び回れたら、もっとずっと早く着けそうなんですけれども……」


「ま、少なくともアンタのそのちっぽけな羽じゃムリね」


 ミントさんがからかうような笑みを向けてきておりました。ムッとした表情で反撃しておきます。


 それくらい分かっておりますのっ。


 そうおっしゃるミントさんのほうこそ、そのお背中の羽と〝転移の異能〟を駆使して先回りしておいてくださいましっ。


 事前に説明をしておいていただければ、更新の手続きもスムーズに行えますでしょう!?


 北の魔王領には魔族の方々もたくさん住んでいらっしゃると聞いております。


 まさにホームタウンではございませんかっ。



「そういうわけだから、もうしばらく情報収集をして、進展がなさそうなら次に進むわよ。このアタシがアンタらの旅に付き合ってあげるんだから感謝してちょうだい」


「ふっふんっ。義理堅い姐さん肌ですことっ」


「何よ? ケンカ売ってんの?」


「ぜーんぜん。褒めてますのーっ」


 けらけらとからかい合いつつも、窓の外のお空を確認してみます。既に夜になっておりますゆえ、景色などは見えませんでしたの。



 ……お一つ、心残りがあるとすれば。


 神聖都市セイクリットを出発するということは、この街に住んでいらっしゃる先代様に女神様を会わせてさしあげられなくなるということに他なりません。


 また今度がいつになるか分からない旅ですものね。

 やっぱり、ちょっとだけ残念なのでございます。

  

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