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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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密室、男女、何も起こらないわけがなく

 


「あっ……えーと、何のことでして?」


 と、とりあえずしらばっくれてみますのッ!


 あーッ! あーッ!

 何だか急に頭が痛くなってきましたわねぇッ!


 より一層深くお布団を被らないと治らない気がいたしますのーっ。


 おっほほほほー。おっかしいですわねぇ。

 きっと体調が万全ではないからでしょうね!



 ……ちら、ちらり。



「今、リリアーナさんの頭に魔族の角のようなモノが見えた気がするんですが」


「ぅごぉっほん。えっへへまっさかぁ。シロンさんの見間違いではありませんことー?」


 勇者の血筋、厄介なことこの上なくっ!


 ほんの一瞬の出来事だと言いますのに、まさか正確に目で捉えられたとでもおっしゃるんでして!?


 私の巻き角を視認できたとッ!?


 どうかシロンさんの勘違いで終わってくださいましっ。でないと色々と面倒なんですものっ。


 だってほら、この騒ぎを聞き付けたイザベラさんが戻ってきなさったらそれこそ終わりですの。


 あの生真面目修道女さんのことです。私が文字通りの丸裸になるまで追及してくるに決まっておりますのっ。


 慣れない鼻歌を必死に奏でつつ、あくまでニコニコと平然を装ってさしあげます。



「……ああ、それともう一つ。非常に申し上げにくいのですが」


「な、何ですの!? まだ何かッ!?」


 明らかに私の動揺が不自然に映っていらっしゃるとは思いますが、今をやり過ごせるのであれば関係ありません。


 手をブンブンと振って何事もないことをアピールいたします。


 全身でアピールするしかないのですっ!



「ソファの端から出ているソレ。尻尾、ですよね?」


「はぇっ………………あ」


 チラリと振り返って、そして気付いてしまいます。



――興奮してしまっていたからでしょうか。



 ブンブン手を振ってアピールしていたときに、どうやら尻尾も一緒に(・・・・・・)動かしてしまっていたみたいなんですの……。


 今もなお、ソファとお布団の隙間からぴょっこりと、先っぽハートの尻尾がこんにちはしてしまっております。


 ……急いで隠してみましたが、今更遅いですわよね。



 これはもう、万事休す、なのでしょう。


 しゃーなしですの。私も一介の乙女ですの。

 真の窮地の際には、潔く腹を括らねば。



「……分かりましたの。シロンさんだけに特別にお話しいたしましょう。どうぞお部屋の中に入ってきてくださいまし。ただし必ず鍵を掛けてくださいましッ!」


「えっ……あ、はい」


 私が無理矢理に醸し出した神妙な雰囲気を、即座に感じ取ってくださったのでございましょう。


 恐る恐るながら何も言わずに部屋に入ってきて、そして言う通りに施錠してくださいましたの。


 密室、男女、何も起こらないわけがなく――イヤこっほん。冗談ですわよ。こんな状況で手放しにはっちゃけられるわけがございませんでしょう!?



「……イザベラさんには絶対にナイショにしてくださいまし。私、実は魔族の血が流れているんですの」


「えっ」


 言葉と共にゆっくりと頭の布団をズラしてまいります。


 こうなってしまっては下手に誤魔化し続けるのは悪手になってしまうに違いありません。


 警戒される前にさっさと晒して、彼に秘密を共有する共犯者になっていただくしかないのです……ッ!



 薄い金髪の隙間から、硬い角が現れます。

 自らの手で触れてみて、改めて実感いたします。


 ……ああ、やっぱり慣れませんわね。


 他人様にこの姿を晒すのは。


 いつもはスピカさんとミントさんだから安心できていたのでございましょう。


 現に今、震えが止まらないのでございます。



「……ふふ。きっとお祖母様のそのまたお祖母様あたりが魔族だったのでしょうね。私は〝真夜の日〟にだけ、こうして先祖返りをしてしまう体質なんですの。

ビックリされましたでしょう? まさか今代の聖女がこんな姿をしていただなんて」


 ついでに尻尾も包み隠さず晒してさしあげます。

 気丈さを装ってフリフリと左右に振りますの。


 こうして意のままに操れるんですよー、と。

 彼にお示しさしあげるのでございます。



「スピカ姉さんはこのことを知ってるんですか?」


「も、もちろんですのっ。私は不格好で醜いモノと思っておりますのに、それなのに……」



 いつも、どこでも、屈託のない笑顔で。



「可愛いって言ってくださるんですの。ホント物好きな方ですわよね。そしてとってもお優しい方ですの。私が一番に心を許せる、とっても素敵な相棒さんですのっ」


 彼女のことを思うと自然と尻尾が揺れてしまいます。


 スピカさんのおかげで、私はこの姿を他人に晒す勇気を得ることができたのでございます……!


 そのままシロンさんの目をジッと見つめてさしあげます。


 右の金瞳も、左の赤瞳も、どちらも変わらず美しいモノでしょう?


 スピカさんは宝石みたいだと微笑んでくださいましたの。だから自信を持てたのでございます。


 やっぱり、何の恥じることもありませんわよねっ。

 今の奇妙な姿でも、私は私なんですものっ。



「先に言っておきますけれどもっ。たとえ今代の聖女に魔族の血が流れていたとしても、ただそれだけのお話でしかありませんのっ。きょっ、今日だけは治癒魔法も人並み以下の実力になってしまっておりますけれども……! 聖女は常に聖女なんですの……!」


 精神性は何一つ変わらないのでございます。


 ふっふんっ。どーですのっ。

 どうぞお好きにお見惚れなさいましっ。


 むふふんとドヤついてさしあげますっ。




「…………なるほど、そうでしたか」


 

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