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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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あの、リリアーナさん? 今のは?

 

 私の切なる祈りが通じたのか、お二人ともドアの内側に入ってくる気配はございませんでしたの。


 心の中でホッと溜め息を吐いておきます。


 遠目からであれば私の身体の違和感に気付かれることもございませんでしょう。


 窮地は免れたはずですの。おそらくは。



 そのままドアもお閉めいただければありがたかったのですけれども、イザベラさんが何か言いたげに私のことを見つめているのでございます。


 いえ、正確には睨んで(・・・)きていると言っても過言ではないのかもしれません。


 やはり彼女からヒシヒシと感じるのは、肌に突き刺さるほどの蔑みの念と、そして……嫉妬の情なのでございます……!



「あの、まだ何かございまして? よろしいのであれば、横になってお休みさせていただきたいのですけれども」


「……女神様のご加護、ですか」


 ええ。だって事実なのですから仕方がありませんでしょう。


 私を守る鎧であり、繋ぎ止める鎖でもあり、そして縛り付ける首輪なのでございます。



「あの、イザベラさん?」


「………………フン」


 その後も何やらボソボソと小声で呟いていらしたようなのですが、聞き取るにまでは至りませんでしたの。


 お口の動きから察せたとしても、せいぜい……ふぅむ……今に見ていろ(・・・・・・)みたいな感じでしょうか?


 野心が垣間見えたような感じがするのです。


 その憤りを昇華させて今よりもっと精力的に祈祷活動や布教活動に励んでいただければ、女神様も喜んでくださると思いますけれども……。


 決して私をライバル視などなさいませんよう。既に格下扱いしていて、眼中にもないかもしれませんの。



 やがて、サヨナラの言葉も無しに、イザベラさんがドアの隙間から見えなくなりました。


 コツコツという靴音も聞こえてまいります。

 きっと立ち去られたのでございましょう。


 扉くらい閉めていってくださいまし、とも思ったのですが、そんなことを考えているうちにシロンさんが再度ひょっこりと顔を覗かせなさいましたの。


 先ほどと同じように申し訳なさそうなお顔をしていらっしゃいます。



「いやぁ、えっと、イザベラがすみません。昔からあんな感じなんです。他人も自分にも厳しいタイプで……先代様のお弟子さんとして、プレッシャーに耐えながら生きてきたはずですから」


「……心中お察しいたしますの」


 対する私は常に疑念を向けられながら生きてきましたゆえ、自ら皆々様の期待に応えようとするよりは、私は私なのだという事実を全力でお示しする日々を過ごしてきましたの。


 それこそ少しくらいのボロを見せても気にせずに、ですわね。


 〝必ず人の期待に応えねばならない〟という重圧は私には計り知れないモノなはずですの。



 ……ふぅむ? そうなりますと。



「あの。つかぬことお尋ねいたしますけれども、他者からのプレッシャーに関してはシロンさんも同じなのではありませんの?」


「僕、ですか?」


「ええ。だってシロンさんも、幼い頃から勇者の血筋として注目を集めてこられたのでしょう?」


 私は孤児だったからこそ、家柄や血筋に縛られずに生きてこられたのでございます。


 保護されてからずっと一人ぼっちでしたもの。


 ゆえに誰からも期待などされず、必要ともされず、その日を生きるためだけに修道院のしきたりに従ったまでですゆえに。


 でも、シロンさんはちがうのでしょう?


 先代の勇者様が祖父であるために、幼き頃からずっと次世代の勇者候補として、周りの大人からの期待を浴び続けてきたはずですの。


 私なんかよりもずっと気苦労に耐えなかった人生かと思われますの……っ!



 私の単純な疑問に、シロンさんは静かに首を横にお振りなさいましたの。


 そして、全てを悟ったかのようなお顔で。



「……それでも、今代の勇者は僕ではなくスピカ姉さんが選ばれた。その事実は何をどうしたって変わることはないんですよ」



 ただ淡々とご返答くださいましたの。


 しばらくの言葉を失ってしまったのは、単に私が語彙力に乏しかったからではございません。


 頬に浮かべるその切なげな表情の向こう側に、言い表しようのない無力さの他――何と言い表せばよろしいのでしょうか。



「……んッふぅ!?」



 恐れのあまりに思わず身体がビクリと反応してしまいましたの。


 先ほどの彼から、強大すぎるほどの負のオーラも一緒に感じ取れてしまったからなのでございます。


 跳ねすぎて、思わずすっぽりと被り込んでいたはずの布団がふわっと緩んでしまった気がいたしますの。


 今の一瞬のせいで、もしかしたら私の髪の隙間から、魔族特有の角肌がチラリと晒されてしまったかもしれません……!


 リリアーナ、一生の不覚、ですの……ッ!


 さすがに一瞬でしたから見えているはずもありませんわよね……っ!?



「あの、リリアーナさん? 今のは?」


「おぅふっ」


 うっはー、やっべぇーですのーっ。

 ボロを出してしまいましたのーっ!


 そしてその一瞬を見逃さない、シロンさんの観察眼もハンパないですのー……ッ!

 

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