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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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え、あ、ええ……少しばかり風邪を引いてしまいまして


 ゔぁー……っ。ゔぃー……ぅぅぅ。


 それにしてもあったまガンガンいたしますのー。


 まだお酒を飲んだことはありませんが、きっと二日酔いになったらこんな気分になるはずですのー。


 この体調では先代様のところになんて顔を出せるわけもありません。


 次回の〝真夜の日〟までお預けですわね。


 そもそも肝心の女神様がお姿を見せてくださらないのです。


 これではお二人を会わせられませんもの。


 眠りに身を委ねることも叶わず、思考に耽ることもできず、苦難の時間を過ごすしかありません……。


 単純にソファに横たわるだけでなく、簡素な毛布を身体に掛けておりますゆえ、寒い暑いの調整ができるだけマシかもしれませんけれどもッ!



「……でも、実際問題困りましたの。さすがに私、丸一日起きたまま暇を潰せるほど器用な女ではありませんしィ……」



 と、嘆くばかりの私でしたけれども。



 唐突に、コンコン、と。


 この客間のドアを叩く音が聞こえてきたのでございます……!


 どなたかが尋ねてきたようなのです。


 まさかスピカさんとミントさんが戻ってきたはずはありませんし、その場合はわざわざノックなんてしないで直接〝転移の異能〟で帰ってきなさるかと思われます。


 そうなりますと、ふぅむッ!?


 今の私の姿を第三者に見られてしまってはマズいですわよねッ!?


 瞬時にそう理解して、重い身体を無理矢理に動かして、頭からすっぽりとお布団を被り直しましたの。


 隙間から顔を覗かせて様子を見ます。


 角さえ隠せばとりあえず大丈夫なはずですの。

 尻尾は丸めて修道服の中に隠せますしっ。


 それと、部屋の中にいるのに返事をしないわけにもいきません。



「……は、はーい……どちらさまですのー? そして何のご用事でございましょうっ? うぐっ」


 本当は声を出すのもキツいのですが、何とか平然さを装ってお答えしてさしあげます。


 ちょっと会話するくらいならセーフですの。


 そのままお外でお散歩してみましょうなどと言われた日には、即座にブッ倒れてさしあげる自信がありますけれども。


 私の声が届いたのか、ゆっくりと客間が扉が開かれていきます。


 向こう側にいらしたのは、ふぅむっ。



「おはようございますリリアーナさん。朝早くからすみませんね。スピカ姉さん……は、もしかしてもう出かけてしまいましたか?」


「シロンさんっ! お、おはようございますのっ」


 スピカさんの従兄弟でいらっしゃるシロンさんでしたのっ。


 顔を合わせてから早々に、どこか申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていらっしゃいます。


 乙女の花園に足を踏み入れるのは、やはり家主だとしても憚られるのでしょうか。



「おっしゃるとおり、今日は野暮用があるとのことでして。夕方には戻ってくるとは思いますけれども……お急ぎのご用事でして……?」


「あ、いや。いないなら大丈夫です。また日を改めてさせてもらいますから」


 目線だけで部屋の中を見渡されたようですが、スピカさんがいないと分かるや否や、すぐにいつもの優男のお顔に戻られましたの。


 ふぅむ? どうなさいましたの?

 私のことを見て、キョトンとなさって。



「リリアーナさんは今日はお留守番なんですか?」


「え、あ、ええ……少しばかり風邪を引いてしまいまして」


「なんと、それはお気の毒に」


 治癒魔法に特化した聖女が風邪を引くだなんて、そんな滑稽なことがあっては大恥なのですけれども。


 これは優しいウソってヤツですの。

 状況説明のためには背に腹は代えられません。


 悪意はございませんので勘弁してくださいまし。



「ああ、そうだ。リリアーナさんさえよろしければ、治癒魔法に優れた者を連れてきま――」


「い、いえっ! そんなお手間をお掛けするほどでもありませんのっ。丸一日横になって休めばきっとよくなりますゆえ、ご心配なさらずっ!」


 むしろ頼みますから放っておいてくださいましっ。


 下手に医者なんて連れてこられたら、私の被っているお布団を引き剥がされて、私が魔族の姿になっていることがバレてしまうのです。


 可能であれば今すぐにでも会話を引き上げたいのですが、無償で泊めていただいている立場である以上、彼を邪険に扱うことはできません。


 うぅぅー。体調が万全であれば、スピカさんや女神様の目を盗んで、若い男女のランデブーを試みましたのにぃぃぃぃっ。


 悔しさは心の奥底に隠しつつ、今は精一杯の気丈な笑顔で取り繕ってさしあげますと、シロンさんも意図をご理解くださったのか、静かに頷いてくださいましたの。


 ……けれども、ふぅむ?

 何故またそんな苦笑いをなさるんでして?


 後ろを気にしていらっしゃるようですけれども。

 扉がもう少しだけ広く開かれていきます。

 

 シロンさんがお続けなさいます。



「あーっと、実はですね、別に街まで探しに行かずとも、偶然にも治癒魔法に秀でた修道女が、既に今この場に」


「は、はぇっ……それってどういう……!?」



「――いやはや情けない限りですね、リリアーナ・プラチナブロンド」



 聞こえてきたのは、とにかく凛としたお声でした。


 そして否応にも感じてしまう、重圧。

 私、つい最近に聞き覚えがございますの。


 ある意味では私のちゃらんぽらんさとは真逆に位置していると言っても過言ではない、とにかくストイックすぎる修道女の……っ!



「まさか今代の聖女である貴女が風邪を引いて寝込んでいるとは。やはり自覚と自己管理が足りていないのではありませんか?

貴女のような不甲斐ない者を聖女に抜擢した理由。やはり分かりかねますね」


 イザベラ・ローズウッドさんが何故だかこの場にいらっしゃったのでございます……ッ!


 キリッとした威圧的な目が私のほうに向けられております。


 ……間違いなく蔑みの色も含まれておりますの。

 

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