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お胸の谷間の中でしたわね

 

 スタタと駆け寄ってズイッと迫って差し上げましたが、対するスピカさんはあまり動じていらっしゃらないご様子でしたの。



「あっははは……まぁ言っちゃえばコレもただのおつかいみたいなモノだからなぁ。実際、行って帰ってくるだけなんだし。

野宿も視野に入れとかないとね。毎日綺麗なお宿に泊まれるってわけもないだろうし」


「そのおキャンプグッズは誰が用意してくださるってんですの!? そちらもこの支給金から算出しろと!? 少ない手間賃が更に少なくなっちゃいますのぉ……」


 そもそものお話、運動派で行動派のスピカさんならともかく、ただでさえ私は基本的に引きこもり体質なのでございます。生粋の箱入り娘なんですの。


 それこそ殿方と密会(・・)するとき以外はホントに修道院から出ませんでしたし。


 いや監視がキツくてほとんど出られなかった、が正解なんですけれども。修道院長がとにかく敬虔かつ厳粛な方で、何度頭を打たれたことか……。


 こっほん。

 

 話が脇道に逸れてしまいそうなので今は黙っておきましょうか。



 雀の涙ばかりの前金をいただけたのはよろしかったのですが、その額が本当に驚愕モノだったのです。


 近いうちに尽きてしまうに決まっております。


 これから私たちは何日にも何十日も掛けて、遠く離れた目的地へと向かうんでしてよ?


 あの国王陛下(エロダヌキ)、もしかしなくても清貧の意味を履き違えておりませんでして!?


 そうでなければこのか弱い娘っ子二人に、道中で金品稼ぎを行えと!?


 まったく由緒正しき勇者と才ある絶世の美聖女を舐めてますの!?


 もしや私たちが新米ペーぺーだからですの!?

 あーもうホントに頭に来ちゃいますのーっ!


 歩きながらに猛烈な地団駄を踏ませていただきます。けれども整備された街道はビクともいたしません。


 ただただ虚しさだけが残ってしまいますわね。



 私の肩書きだけを知る方に見られていてはもっとお淑やかに振る舞わせていただくのですが、今はもう気心の知れたスピカさんとの二人きりなのです。


 城下町外れの街道にはもはや観客の一人もいらっしゃいません。


 お城を出た直後くらいからこの国の出口の門をくぐるまでは、それはもうずらずらりと道沿いに押し寄せた国民の皆さまが国旗を振って見送ってくださいましたの。


 私も人目を(はばか)って、街中ではあくまで終始お淑やかに振る舞わせていただきましたからね。


 検問所に着くまでは豪勢な馬車に揺られながら笑顔で手を振り返して、すこぶるイイ気分になれたのは確かに事実ではございますの。


 でもそんなコトでは騙されませんでしてよ!?


 検問所を通り過ぎて、門から一歩出た途端に馬車から下ろされて、以降は徒歩で行けと突っぱねられてしまいました。


 いやさすがにポカンとしてしまいましたわね。

 そしてまた無情に腹が立ちましたの。


 アレは形式ばっただけの式典だったんですの!?

 国王陛下の己の権威を示すが為の!?


 どこまでドケチな方だったのでしょうか。


 今はその怒りの反動が出ているだけなのでございます。


 

 はーっ。まったくもう。

 勇者と聖女を何だと思ってるんでしょう。


 私たちがやらねば大変なことになりましてよ?

 何がどうなるかは一切知りませんけれども。



「そ、そそそうですの! 仮にも私たちは由緒正しき聖女サマと勇者サマでしてよ!? それ相応の扱いをしていただけませんと」


「仕方ないよ。まだ〝新米〟の身分なんだもん。キチンと役目を果たすまではずーっと仮の肩書きなんだし。一日も早く認めてもらうために、今は前向きに頑張るしかないよ」


「たっはーっ。スピカさんは真面目ですわねぇ」


「勇者だからね」


 むふふんと胸を張るお姿が可愛らしいのです。

 でもお人好しにも程があると思いますの。


 だってだって、言ってみれば誰もやりたがらない長距離往復を、若い娘二人に都合よく押し付けられているだけではありませんか。


 更に更にぶっちゃけたお話っ!


 あのまま王国の専用馬車を用いていれば往復しても一年と掛からない単純明快な作業にできたのではございませんこと!?


 それだというのに、はぁん!?

 いったい全体何なんですの!? 基本的に徒歩で!?


 この旅は由緒正しき清廉なモノゆえに、道中では可能な限りに人助けをして進め、と!?


 おまけになるべく時間をかけて(・・・・・)次の更新までの時間を稼げ、と!?


 挙げ句の果てには勇者と聖女自らがお国の素晴らしさを流布して歩いて巡れ、と!?


 私たちは別に国の宣伝隊長ではありませんでしてよー!?


 ただ運に導かれて天に選ばれてしまっただけの一人の勇者と一人の聖女なだけですの。


 ホント、任を全うするのに何年掛かることやら……。



「……無事に帰ってこれたらそれこそバラ色人生な特権階級の日々が待っておりますゆえに。今ここでぶーぶー悪態を吐いていても仕方がないんですけれども……」


「困っている人たちがいるのも全部ホントの話だからね。実際、()には叶ってると思うんだ。それこそ人助けが私たちの使命なんだし。私だって親の七光りって思われたくないもん」


「名家のお生まれは大変そうですこと」


 対する私は気楽なモノですわね。

 面倒な身内なんて一人もおりませんし。


 そのせいで苦労もしてきましたけれども。



 ……まぁ、別にこの話自体は関係ないのです。


 とりあえず徒歩でのんびり向かうのなら、最初の目的地くらいは定めておきませんこと?


 闇雲に歩いても疲れてしまうだけですし。


 そういえば地図も渡されておりましたっけ。

 修道服の中を適当にまさぐってみます。


 ええと、無駄に嵩張るからと折り畳んでしまい込んだ先は……ああ、そうでしたの。お胸の谷間の中でしたわね。

 

 スパパと手に取ってバサッと広げてみます。

 うわ広っ。一目見ただけで気が遠くなってきましたの。


 

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[気になる点] 本当に百合なのか心配。
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