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婚活聖女 〜お友達の女勇者さんの傍ら、私はしっぽり未来の伴侶探しの旅に出ますの〜  作者: ちむちー
【第3章 神聖都市セイクリット編】

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一度中に侵入しちまえば話は別


 大通りから離れていけばいくほどに暗くなってまいります。


 次第に建物と建物の間も狭くなってきましたの。


 路地というよりは、ある種の抜け道のような場所なのかもしれません。



「あのー……私たちはいったいどこに向かっていらっしゃるんですの? あきらかに乙女三人組が歩く場所ではないと思うんですけれども……」


 聖職者的な表現をしてみるならば、晴れ晴れとした白き街並みに隠された、陰気の溜まり場とも言い表せましょうか。


 薄気味悪さのせいで、白い壁が灰色に見えてくる始末ですの。


 一見では先代様の教会があった場所に似ているのですが、あちらは単に廃れ寂れているだけで、怪しさまではございませんでした。


 一方のこの裏路地のほうは、表通りの喧騒が遠巻きに聞こえてきているだけあって、あえて意図的に棲み分けを図られているかのような、そんな独特な空気が漂っているのです。


 先を歩くミントさんがチラリと振り返ってくださいます。


 いつもの灰色のフードを深く被っているせいでお顔はお口元までしか見えません。



「……そうね。言ってしまえばここは、この神聖都市セイクリットのスラム街(・・・・)みたいな場所かしら。っつっても元々の治安自体が悪くないから、浮浪者が寝転んでるわけでもないけどね。少なくとも普通の住人連中は近付かないってだけの場所でしかないわ」


「こんな場所にも人が住んでるんですの……?」


「まぁ多少はね。ヒト族至上主義の文化に(あぶ)れた、いわゆる半端者たちのナワバリよ。一応金目のモノは隠しておいたほうがいいわ。危ないから」


「んひぃっ」


 大事なことは先に言ってくださいましっ。


 清貧を強いられている私に許された、唯一の気飾りアイテムを今日も健気に身に付けてきたのでございます。


 この胸のブローチやネックレスは精錬銀で造られておりますゆえに、万が一にも盗られてしまっては困るんでしてよ、まったくもう。


 急いで外して、修道服の内胸ポケットに大事にしまい込ませていただきました。


 ふぅむ。これで一安心ですの。


 ミントさんが静かにお続けなさいます。



「この街ってば、ありとあらゆる関所門にシチ面倒くさい結界が張ってあるのよね。そんでまたご丁寧にも〝異能〟対策まで施してあったわ。転移の抜け道を探しているうちにここへ辿り着いたってわけよ。思わぬ収穫だったわ」


「うーん。そもそも通る必要、あるのかな?」


 私が他にも隠すべきモノがないかと身体をペタペタ触診している最中、スピカさんが私も思っていた疑問を代わりに尋ねてくださいましたの。


 ここを通る必要があったんですの?


 今日は私たちも同行しているのですから、もっと陽光の当たる道を歩いて、堂々と中央へと続く関所を進めばよろしいではありまんか。



「いくらアンタたちでもここでは余所者でしょう? 万が一に中に入れたとしても、従者の奴隷までは無理な話だわ。まして魔族の私ではね」


 深く被った彼女のフードには、うっすらと巻き角の形が浮かび上がっているのが見えましたの。


 隠そうとしても完全には隠しきれないソレが、この街では(あだ)となることをミントさんは重々にご存知なのでございましょう。


 だからこそ念には念を入れて、わざわざ人目のつかない裏ルートを進んでいらっしゃるのでしょうか。



「でも、よ」


「でも?」


「一度中に侵入しちまえば話は別。正直驚いたわよ。関所の内側には異種族の奴隷がたくさんいるんだもの。きっと教会貴族(すきもの)共の所有物なんでしょうね。見たら反吐が出るわよ」


 ミントさんが乙女でなければ、きっと道の端に唾を吐いていたと思いますの。


 それくらいの舌打ちが私の耳にも聞こえてきたのでございます。


 やや重ための空気が辺りに流れ始めた中、彼女はとある建物の扉の前で足を止めなさいましたの。


 これまた古びた教会の背面側のようです。


 ドアの施錠も酷く適当な感じで、錆びた鎖が数回巻かれているだけでしたの。少し引っ張れば簡単に外れてしまいそうな危うさがございます。


 窓枠や軒先にもところどころに蜘蛛の巣が張っている辺り、今はもう使われていない教会なのでしょうか。


 ミントさんは慣れた手つきで封を解くと、そのままズイズイと進んでいかれましたの。


 足早に追いかけさせていただきます。


 もちろんのこと明かりは点いておりませんから足元が見えなくて大変でしたが、照明魔法を使うまでもなくすぐに反対側の扉まで辿り着くことができましたの。


 教会にしてはやけに一本道で、おまけに礼拝堂や待機室のようなお部屋もなかったような……?


 むしろ廊下しかない変な建物でしたの。



「憲兵の連中に見つからないように偽装してあんのよ。アタシも出入り口を使っているところは見られたくないわ。素早く出てちょうだい」


「……おっけおっけ」


「……了解ですのっ」


 精一杯のささやき声にて返答いたします。


 暗いところから明るいところへいきなり出ると目がチカチカァってしますわよね。


 次第に目が慣れてくるのですけれども、どうやら私、明順応の作用が他の人だけほんの少しだけ遅いらしいのでございます。本当に最近知りましたの。


 体質か、もしくは遺伝なのでしょうか。


 この赤い瞳には別に夜目が効くような特殊能力があるわけでもございませんゆえ、何と言いますか、少しは特別なチカラが宿っていたらなぁ、なーんて思う私は夢見がちなイチ乙女でしかありませんの。


 うぉっほん。閑話休題いたしまして、と。


 ミントさんに促されて、背中を丸めながら扉をそそくさと潜らせていただきました。


 そんな私の目に飛び込んできた光景とはっ。


 ……あ、しばらくお待ちくださいまし。

 パチパチして目を慣らしておきますゆえにっ。

 

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