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……うっわ、でっか。ですの

 

 既に私の腰辺りまでツルが巻きついてしまっております。


 いわゆる緊縛逆さ吊りプレイってヤツですわね。


 この締め付けにも適度な気持ちよさがあればまだ耐えられたのでしょうが、おあいにく。


 現実のほうはなかなかの力でギリギリとしてきておりますゆえ、私のソッチのスイッチが入るよりも先に圧倒的に痛みと焦りのほうが優っております。


 ふっふっふっ。


 けれども自分勝手なご行為ばかりではモテませんでしてよ?


 残念でしたわね、ヒュージプラントさん。


 アナタが明確にオスと分かる魔物でしたら私の乙女センサーもキュンキュンと反応しておりましたでしょうが、さすがの私でもただの植物相手には発情いたしません。


 それこそイキり立った極太の直茎や果実でもお見せいただけませんとねぇ……っ?


 こんなにほっそいツルではダメってことですの!


 さっさと出すモノお出しなさいまし!


 続きのお話はそれからでしてよっ!



「……ですけれども……うぇっぷっ……ちょっと吐き気が増してきましたわね……さすがにこの体勢のままではキツいかもしれませんの……」


 胃の中がそろそろヤバいのです。

 ご飯がこんにちはしてしまいそうですの。


 天地逆転した視界のせいで気持ち悪さも倍増です。

 今はギュッと目を瞑らせていただきます。


 おまけに血が昇ってしまった頭ではマトモな思考を続ける余裕もございませんが、幸か不幸か、今の私には何の不安も生まれてきてはおりません。


 だってだって!


 聖女()のことを守ってくださる〝稀代の勇者様〟がすぐお近くにいるんですもの!


 つい先ほどやる気も引き出してさしあげたばかりですし。


 こうして無意味な迷想を巡らせている間にも――ほら。



 シュパパパパッ、ズババッと!



 それはもう軽快な斬撃音が耳に届いてきたのでございますッ!


 おそらくは目にも留まらぬ猛連撃が繰り広げられたはずですの。


 ジッと耐えるために目を閉じているのが残念でなりません。


 あの華麗で美麗なナイフさばきを……!

 彼女の勇姿を、この瞳に映したかったですわね。



 数多の武具を扱えるスピカさんではありますが、小柄なその体格的に短剣のような手のひらサイズの武器が合うらしく。


 それはもう息を吐くのと同じくらい自由に振り回すことができると仰っておりました。


 当人としては勇者らしく直剣を使いこなしたいらしいんですけれどね。その人に相応しいモノを使うのが一番だと思いますの。


 別に無理に見た目やイメージに合わせる必要もないと思います。


 強くてカッコよければ、それでよろしいではありませんか。



「よい、しょっと。こっちは無事に脱出できたよ。今助けるから頭抱えといてもらっていい? 首から落っこちたら危ないし」


「おっけですのちょっと待っ――んぐぇっ」


 返事をして、頭に手を添えたか否かという絶妙なタイミングでしたの。


 またもこの耳にスパスパという軽快な音が聞こえてきたかと思いますと、気が付いたときは私のお顔が地面とゼロ距離ご挨拶をしてしまっていたのでございます。


 いわゆるファーストキスは土の味……あ、いえ、そんな記憶はありません。もっと素敵でトロけるようなものだったはずです。多分。きっと。おそらく。


 深くは言及いたしませんけれども。


 そんなことより今はお抗議ですのっ。


 

「ちょ、ちょっとスピカさんっ! 行動に移られるの早くありませんでして!? ツルが切られたのと私が頭に手を添えたのと、ほぼほぼ同タイミングでしたわよ!?」


 下手したらマジで首からグキリでしたの。

 寝違えたときよりも後に響く痛いアレですの。


 ムムッと抗議の視線を送ってみましたが、彼女は珍しく勝ち気な微笑みを浮かべていらっしゃいます。



「うぅーん? ちゃんと見届けたよぉ? それとも大事な修道服を溶かされちゃってピリピリ痛くなるのと、どっちのほうがよかった?」


「ぐっ、ぐぬぬぬぬ……さてはアナタ、バトラーズ・ハイになっていらっしゃいますわね……!?」


 高揚して血流が良くなって、スピカさんだけ時の流れを早く感じているにちがいありませんの。


 けっして私がドンくさいわけではありませんのっ!


 ま、まぁ……おかげさまで大きな怪我もなく、服にもダメージなく着地できましたから文句は言いませんけれども。


 けれども脱出できただけで、脅威から解放されたわけではないのです。目先のヒュージプラントさんはまだご健在ですの。


 地中からウネウネヌルヌルと新たなツルを伸ばしてきております。



「……さて、と。リリアちゃんは危ないから離れててね。すぐ片付けちゃうからさ」


 そしてスピカさんもまた、手の中でナイフをくるっと一回転させました。


 そのまま逆手にお構えなさいます。


 キリッとしたお目々が、普段とのギャップを感じさせてカッコいいのですっ。


 まさに勇者様のお顔ってヤツですわね。

 男も女もみんな惚れちゃう素敵顔ですの。


 彼女の言葉に呼応するかのように、地響きと共に目の前の地面がもっこりと隆起していきましたの。


 そしてまた、少しずつその姿を現していったのでございます。



「…………うっわ、でっか。ですの」



 まるで大岩かと見紛うほどの巨大な……こちらは球根なのでしょうか。


 下手したら馬車くらいありますの。 


 あくまでツルは手足のようなもので、これが本体ってことなのでしょう。


 もしやとは思いますけれども、切れたところからも新しいツルが生え始めておりまして?


 長短大小さまざまなツルが私たちを捕まえようと蠢いておりますの。


 ……本当に厄介な植物さんですわね。

 とりあえず出方を伺ったほうがよさげです。

 

 いきなり現れた脅威(勇者)に警戒しつつも、あくまでらこちらを獲物として見做していらっしゃるかのようなそぶりなんですもの。


 魔物さんの言葉が理解できる私ではございますが、さすがにこの球根さんのお声までは聞こえません。


 感じられるのは明確な敵意(・・)だけなんですの。



「さすがに一発叩き込むだけじゃ無理だけど、あのレベルなら何度か根っこの同じところにアタックしちゃえば、そのうちぱっかーんって真っ二つにできるはず」


「ほ、ホントに頼りにしておりますわよ。私は見ているだけしかできませんゆえに」


「終わったら回復のほうよろしくね。結構荒っぽい戦い方になっちゃうかもだからさ」


「了解ですの。お好きに暴れてきてくださいまし」


 こういうとき、大規模な火炎魔法とか扱えたら有利なんですけれどもね。


 残念ながら私にはそんな便利な魔法は扱えません,


 多少の擦り傷切り傷くらいなら無かったことにしてさしあげますゆえに、どうか頑張って物理的なダメージであの巨大な球根――略して巨根(・・)を倒してくださいましッ!


 私はバックアップに徹底してさしあげますのッ!

 

ブクマが50を超えました!

このままどんどんと増えていってほしいですの!

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