問題はどのように通信手段として活用していくか、ですわよね
しばらく無心で魔力操作を続けてみましたの。
胸の鼓動のトックントックンに合わせて、とにかくゆっくりと指先に魔力を集めます。
「もういいわ。自分で確認してみなさい」
ミントさんに肩を叩かれて、ここでようやく薄目を開けて恐る恐る見てみましたの。
彼女は自らの右腕を軽く掲げて、私が見やすいようにしてくださっておりました。
彼女の細指に嵌められた銀色の指輪は、なんとまぁ――
「ほっわぁぁッ!? ビッカビカに光っているではありませんのッ!!!」
「フン。やればできるじゃないの。コレよコレ」
「あっはは。これならいつでも気付けるね」
それはもう眩い光を放っていたのです!
今ここで火でも起こしたのかと疑いたくなるほど、部屋を明るく照らしております。
もはや購入前に初めて光らせたときとは比べ物になりません。
私の頭上光球魔法と比較しても遜色ない発光度合いですの……ッ!
なるほど、私の今までの魔力の込め方はとにかく無駄が多かったというわけなんですのねぇ……!
こうして実物動作を見れましたゆえ、理解も納得もできましたの。
ミントさんも指導がうまくいったからなのか、とってもご満悦なご表情をなさっていらっしゃいました。
私も弟子として鼻高々なのでございます!
「それじゃあ一応解説してあげようかしら。アタシが試した所感も含めて、ね」
「いよっ。待ってましたのッ!」
魔力操作のコツは掴めたような気がいたします。
ミントさん自身もまたこの〝恋人たちのペアリング〟に対して思うことがあったのでございましょうか。
聞いておいて損はないと思いましたの。
ミントさんがやれやれとしたお顔でお続けなさいます。
「そもそもの話なんだけど。この指輪って遠方のヤツらがお互いのことを思って光らせるロマングッズなんでしょ? そんなモノに強い魔力が必要なわけがないじゃないの。欠陥品もイイところよ」
「た、確かにそれもそうですの……っ!」
ミントさんのお言葉にハッと息を呑んでしまいます。
購入したときにもまったく同じことを思いましたけれども、今のタイミングでようやく腑に落ちましたの。
世に生きる誰しもが魔力を行使できるわけでも、ましてや強い魔法を唱えられるわけでもありません。
ただでさえ条件を満たす人が少ないのだとしても、なるべく多くの人が扱えるようにするのがモノを売るための秘訣だと思うのです。
「まぁでも、実際そこそこの距離が離れてても効果は分かったわけだから、値段のわりには上出来なシロモノよね。通信手段として考えればイイ買い物だったんじゃないの?」
「えっへへ。勇者の目に狂いはないのでーす! 肝心の私が使えないんだけどね」
「アタシとザコ聖女が持ってりゃだいたいは事足りるわよ」
「ですのですのっ」
スピカさんは地図を読むことができますから迷子にはなりませんし、それはミントさんも同じくですの。
昨日のように私が迷子になったときに、どちらかと連絡を取り合うことさえできればそれだけでも御の字だと思うのでございます。
「検証はこの辺で終わらせておくとして、よ」
「問題はどのように通信手段として活用していくか、ですわよね」
「分かってるなら話は早いわ」
確かに実用性のあるモノだとは理解できましたの。
しかしながら今度はアレですの。
この有益なアイテムをどのように有効活用していくかが論点になるのでごさいます。
ただ単に指輪を光らせるだけでは、お互いの居場所や無事さをなんとなくで示し合えたとしても、なぜ相手が指輪を光らせたのかまでは分かるはずもありません。
手っ取り早く意思表示を行う方法、ですか。
なかなか悩ましいところですわね。
綺麗に光らせられただけでも手放しに喜んでいると言いますのに、これ以上を求めるとなると中々に骨が折れそうです。
……でも、ミントさんはやる気のようですの。
「とりあえず色々と試してみるわよ。発光間隔だけでもある程度操作ができるんなら、充分に有用なモノになるはずだから」
「ふぅむぅ? どういうことですの?」
「三回チカチカさせたら無事の知らせ。五回連続でビカビカさせたら救難信号。そんなザックリな感じでも最低限の連絡はできるでしょ」
「はぇーすっごいですのっ! 名案ですのっ!」
そういえば修道院時代に本で読んだことがありましたっけ。
海辺の地域では、船同士の意思疎通に光を用いているとか何とか、そのようなコトが書かれていたような気がいたします。
船上の光源を隠したり開放したりを繰り返すことで明滅させて、その光らせ方を言語情報に置き換えているんだそうですの。
さすがに全ての文字情報を光情報に置き換えて覚え直すことは私にはできませんが、ミントさんのおっしゃるとおり、何回光らせたら何々の合図〜程度であれば余裕のヨヨヨですわね。
「まずはミントさんの最速点滅を見せていただいてもよろしくて?」
「フン。アタシのスピードにどこまで反応してくれるのかしらね。見ものじゃないの」
どうやら気合い乗りも充分なようです。
むっふっふっ。お師匠様の実力、今一度拝見させていただきましょうか。
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