温かい何かが伝わってきてますの
目を閉じて唇を尖らせて頬を膨らませつつ、ありったけの気合を込めて右手の薬指辺りに魔力を集合させてみます。
念じるだけで上手くいくのかは分かりませんが、修道院時代には己の血流を感じろだとか、気の流れを掴めだとか、よく分からない根性論で魔法を教えられましたの。
案外魔法の発動も異能と同じような感じなのかもしれませんし、意識を変えるだけでも向上されるのでは……!?
と、そんな淡い期待を抱いておりましたけれども。
「どう、ですの……ッ? 当然ピッカピカに光っておりますわよねぇ……ッ!?」
「いや全然。そりゃあ全くとは言わないけど、せいぜい洞窟内の光りキノコか、夜空に瞬く星々かってレベルね。めっちゃ淡いわ」
「はぇぇぇ……なーんでですのぉ……!?」
思わずぷしゅうぅぅと気が抜けてしまいます。本当に手に汗を握っていただけみたいですの。
ミントさんの冷静なやれやれ声に、思わずズコーっと前のめりになってしまいました。
さすがに緊張の糸も途切れちゃいましてよ。
崩れる勢いのままに、へにゃあっとソファの背もたれに寄りかからせていただきました。
けれども、あら? どうなさいまして?
意外にもミントさんのほうから私にズイズイと近寄ってきたのでございます。
ストンと私の横に腰を下ろしなさいます。
「ちょっと見せてみなさい」
有無を言わさずに私の右腕を引っ掴んで、何やら手のひらをペタペタと触診を始めなさいましたの。
ときおり指輪を指で摘んで、くるくると回して確かめているようなのですが、何か分かったご様子もなく。
ほんの少しくすぐったい時間がしばらく続きましたの。
「うーん……おっかしいわねぇ。アンタ、歴代でも屈指の魔力タンクなんでしょう? 光らないわけがないと思うんだけど。それともトンデモなく出力効率が悪いだけなのかしら?」
「あの、もしかして心配してくださっておりまして? それとも逆にバカにしていたり?」
「3対7でまぁそんなところね」
「むむっぐぬぬぬぬぅ……」
ほとんど嘲笑ってるもいいところではありませんか。ほっこりしかけた自分が恥ずかしいですの。
とはいえ少しは心配してくださっているようですゆえ、大目に見てさしあげますけれども。
それよりも私の右手を押さえられてしまっているせいで、ほとんど身動きが取れません。
空いた左腕が手持ち無沙汰ですの。
ミントさんの尻尾で遊んでおりましょうかねぇ――
「つーか、よ。一つ質問いいかしら?」
「はい、なんでしょう?」
答えながらも手は動かし続けます。
はぇぁー、さすが純正魔族さんの尻尾はすべすべ具合が段違いですわね。ザラザラの手触りかと思いきやモチモチのゴムみたいな艶と潤いと弾力がありますの。
毎日どんなケアをなさっていらっしゃるのでございましょう?
私もスキンケアは毎日欠かさず行っておりますゆえに、ぷるぷる艶肌が自慢なんでしてよ。
無尽蔵の魔力タンクだけが売りではないですのっ!
「アンタ、キノコ洞窟の中じゃあトンデモ極太浄化光線を何発もブッ放してたじゃないの。あんだけ魔力を出せるんならこれくらい余裕でしょ」
「それはソレ、これはコレですのっ」
あのときの光線照射とはチカラの使い方が根本的に異なるのでございます。
〝重さの異能〟もそうなんですけれども。
私は調節することが苦手な性質ですの。
ピンかキリか、ゼロかイチか。
途中という段階はないのでございます。
治癒魔法の場合は詠唱をキチンと唱えるか、簡易的に省略するかで効果範囲や程度を定められますゆえ、あたかも調節できているように見えるだけなんですわよね。
個人的にはいつでも常に全力ブッパで生きておりますの。
そもそものお話、治癒行為自体に中途半端さは必要ありませんもの。
できる限り短い時間で、なおかつできる限り完治に導いてさしあげるのが私たちの役目なのでございます。
「ミントさんはどのように魔力を操作していらっしゃいますの? 理論派でして? それとも感覚派でして?」
「そんなの考えたこともないわよ。ただ、言われてみると、そうねぇ……」
その小さな手で包み込むように、再度私の手を握り締めなさいましたの。
痛くはありません。
むしろ優しくて、温かな……コレは?
「分かる? 今、魔力を送ってるんだけど」
「ええ、温かい何かが伝わってきてますの」
「そう。目では見えないけど、確かにそこに存在してるのよ。言ってしまえば意識よ、意識」
「ふぅむ。お得意の根性論でし――あぃたァッ!?」
握るお力、強くありませんことぉッ!?
さては普段はセーブしておりますわね!?




